第71話 変態、水面に映る顔見て驚愕オワタ

 ぶっ飛ばされた偽河童が腫れた頬をさすりながら笑っている。


『ホホウ、オレとオマエ、ガチンコ勝負?』


 もう一個『が』をつけてくれないかなあ!?

 結構ギリギリに聞こえちゃうから!


 そんな俺の思い空しく廻しをしている偽河童が、俺に向かってすり足で襲ってくる!

 うわあああああ! すり足はやああ! こわああああ!


 高速すり足偽河童の体当たりをギリギリで躱す。

 だが、その瞬間、偽河童の背中から水の鎌のようなものが現れる。


『水流掬イ投ゲ!』


 いや、なんだそれ!

 水の鎌が俺の首元を狙ってくるのを、思いきり反って躱すとそのまま捻りながら跳び上がり、偽河童の背後に回って後ろ左回し蹴りをぶちかます!


 ダブルコークテンエイティスピニングバックキックだ、おらああ!


 ルール? 知らねえな、スモーとスノーボード、似てる似てる!


 甲羅のない背中にめり込まれた踵。

 ぬるぬるが気持ち悪いけど我慢だ我慢! 長男だから我慢だ!

 いや、長男だからってなんでも我慢させんじゃねえよ!

 次男も三男も長女も次女もおとんもおかんもみんなで我慢しろよ!

 家族だろ!


 怒りに燃える長男日本代表(自称)の足も燃える。

 炎蜥蜴フレイムリザードに変態させた脚の一撃に魔力を込めて、偽河童ぬるぬるを炎に変態させていく。

 そして、偽河童の身体を燃やしにかかるが、敵もさるもの体中から水を放ち、ぶつけ合う。


『ヌウウウ! オレのミズとお前のホノオ! ドッチの魔力が強いカナア!?』


 俺の方がつよかった。

 筋力は【剛腕】並みだが、魔力は俺の方が強かった。


『ウガアアアア! アツイ! アツイゾオオ!』


 燃える偽河童。

 からのぉ、


「百烈針手!」


 鋼針鼠メタルヘッジホッグの針で出来た掌×風鬼スカイオーガの風穴による連打力アップ×炎蜥蜴フレイムリザード×紅の蜥蜴飛蝗クリムゾンリザードホッパーの筋力×エドモ〇ド本田の大和魂×【変態・青ブル】による地面固定!


 連打特化の現時点最強技を繰り出し、俺は殴り続けるが、偽河童も負けじと繰り出してくるところに。河童の相撲へのこだわりを感じます。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」

『カパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカバッ……!』


 徐々に奇妙な戦いになり始めたが、言いにくいフレーズで連打したのが運の尽き、打ち勝ったのは俺。


 仰け反りながらもなんとか耐える偽河童に近づき廻しをとる。


「これで決まりだぁあああ!」

『マケルカァアアアア! カパ?』


 【変態・ブル】の力で俺は偽河童の廻しをぬるぬるに変態させる。

 覚えたぞ……お前のぬるぬる……!

 そして、ぬるぬると化し落ちていく偽河童の廻し。


「決り手、『もろだし』じゃい!」

『イヤ、ソノ技、ツッパリオズモ……』

「うるせぇえええええ! からの、【ぶれえんばすたあ】じゃあああ!」


 ドゴオオンと地面に叩きつけられる偽河童。


『フ……オメエ、ヤルジャネエカ。オメエノ大金星だ……って、ンン?』


 偽河童が何か言ってたが無視をする。

 まだだ! まだ終わらんよ!

 お前のせいで、俺はぬるぬる相撲やる羽目になったんじゃあおらああ!


 俺は紅の蜥蜴飛蝗クリムゾンリザードホッパーの足で飛び上がり、天井に足を付ける。

 もう相撲終わったからいいよね?

 地面で青春ヤンキー漫画みたいに大の字で寝っ転がってる偽河童に狙いを定め、飛び降りる。


『待テ待テ待テ! 沈ム! 沈ムカラ! コレハオレノ島で』


 ソノ島デスカー?

 勝手に沈め!

 この、りっち・な・かっぱがあああああ!


 振り下ろされた俺の踵落としは見事偽河童のど真ん中を捉え、その衝撃で島真っ二つで沈んでいった。サムズアップして落ちていくあたりに芸人魂を感じた。やるな、カーパネーター。


「あ、やべ。ヤツに話を聞かないといけないんだった」


 俺は慌てて、浮島のあった湖的なものに近づき見つめる。

 気泡が浮かんでこない。

 え? しんだ?


 湖面を見てみるが、どこにもそれっぽい様子が見えない。


「しゃあねえ、この水変態させてみ、る、か……」


 湖面を触ったその時だった。

 湖面に映っていた俺の顔が笑った。


 勝手に。


 そして、俺の【変態・ブル】が発動し、バシャアアアンといきなり全部はじけ飛んだ水の中には、誰も居なかった。


 偽河童がいなくなったこと。

 俺には出来そうにもない【変態・ブル】のとてつもない力。

 そして、笑った俺とそっくりな顔。


 何かが起きている。


 俺の知らない所で。


 ただただ、俺は暫くの間、うっすらを青い魔力を帯び続けている俺の右手を見つめていた。




「で、なんでこうなってんのかな?」


 何かが起きていた。


 俺の知らない所で。


「ナツを出せ。早くしなければ、お前を尻子玉だけの姿にすることになるぞ……!」

「兄さんを早く出さないと、貴方の尻を爆尻バクケツさせるわよ」

「だしてだしてだしてだして、なつきさんをだして」




 ただただ、俺は暫くの間、ばっちり病みに塗れたボス部屋を見つめていた。



 ボス、泣いてんじゃあん……。

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