第69話 変態、ケモ耳少女の変化にへいこうオワタ(カクヨム限定ストーリー)

「おねえちゃん、他の人もみているので、じちょうしてください」


 今、目の前で肌色多め痴女姉がケモミミ幼女風JKに怒られている。


「す、すまない……でも、ナツが誘惑してくるんだ」


 してねえですけど。


「脳内で!」


 あ、やべえ奴だ。やべえ姉だ。


「そんなのわたしだってしてくれてます!」


 やべえ妹だ。


「うーうー!」


 秋菜たそ、お前もか!


「ウチは誘惑なんてされません」


 東江さーん!


「誘惑するよう命令されてます」


 東江さーん!


 ヤバい。ダンジョン内貸し切りだから変態共の変態っぷりが留まることを知らない。

 ワタシダケノウマル。


「アギャアアアアア!」


 泣き喚きながら、河童達馳せ参ず。


「「「うるさい(うー)」」」


 東江さんが、弓を構え、氷の矢を放つ。

 秋菜がスマホを浮かせ、三方向から魔法で攻撃する。

 それぞれ瞬殺、かっぱ一発で抹殺。


 そして、ジュリちゃんは、狼のように四つん這いで駆け出し、爪で河童の全身を切り裂き、蹴とばす。


 転がるかっぱ。残念無念また明日~。


「もう! 水にいるからにおいがわかんないです!」


 ジュリちゃんがしっぴぴーんさせて怒ってる。もふもふしてえ。

 だが、そういうことか。道理で河童の強襲に対応出来てないと思った。


 ジュリちゃんの固有スキル【獣化】。

 自身の身体を獣の力で強化するスキル。

 なので、大体毎回ウチのチームでは、ジュリちゃんに嗅覚鋭い獣に半獣化してもらい、索敵をお願いしている。

 だが、河童のような水棲系魔物は川で流れている為に匂いが水で分からないのだろう。

 ジュリちゃんがフーフー唸っている。多少獣化すると感情がセーブ出来ないらしい。


「まあまあ、ジュリちゃん」

「待て、ナツ」


 ジュリちゃんを宥めるのはワタシダケノウマルであるワタシナツキだと思って行こうとしたところで、レイ、氷室さんに止められる。氷室・レイってニュータイプっぽいね。


「なんだい、氷室レイ?」

「ぼくが一番サラシナをうまく使えるんだ……」


 この人どれだけアニメ勉強してるの? 優秀な人間がアニメを学習し始めると手がつかられねえな。


「それはさておき、ナツ。ジュリはな……」


 氷室さんに耳打ちされる。耳打ちしながら、耳を甘噛みしようとするのやめろ。

 油断も隙もねえな。チョップしておこう。


「殴ったね……おやじにも、おやじにも、ふ、ふふふふ……ともだちちょっぷ……ふふふふ」


 友達にチョップされたのが嬉しくてヒムロレイになりきれない、変態の痴女を放置し、ジュリちゃんに近づく。


「ふが! なんだヨ!」


 キレ気味で振りかえるジュリちゃん。

 ちょっと狂戦士化してるじゃねえか。こりゃマズい。

 そんなジュリちゃんが興奮気味に飛びかかってくるが、見える見えるぞ!

 ジュリちゃんの隙を突き、氷室さんのアドバイスを実行する。


 ボディーががら空きだぜ!


「う、うひゃひゃひゃひゃ! さ、さらしなさん! だめです!」


 腹を撫でる。氷室さんのアドバイスに従っただけだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


「くぅーん、くぅーん」


 狼のようなワイルドさを見せていたジュリちゃんだったが今はわんこのようなマイルドさで大人しく寝転がっている。


「うーうー!」

「犬みたいになって……真のくれくら様のイヌはウチや……!」


 頭を撫でてほしそうなうーうー秋菜ちゃんと、不穏な事を言い出している東江さんを無視して、ジュリちゃんに話しかける。


「ジュリわんこちゃん……ジュリちゃんの良い所は索敵だけじゃないからね。落ち着こうね」

「わん!」


 ダメだ。言語を喋れる人間がまた一人いなくなってしまった。


「お、おい! ナツ、私の腹も撫でてみないか、姉妹ど……」

「ウチも命じてもらえたら、なんぼでもさんべん回ってわんって鳴きま……」


 ダメだ。まともに会話できる人間が全く一人もいなくなってしまった。


「誰か一人でもまともに会話が出来れば、その人としっかりこの先どうするかを話し合えるのに」

「ナツ、河童など恐れるに足りん。更科秋菜を中心に据え索敵は彼女に定期的に行ってもらおう」

「賛成です。遠距離は私の弓で、中距離は氷室リーダーで、近距離はジュリさんで対応可能でしょう。ね、更科君」

「索敵で役に立たないぶん、せんとうでがんばりますね、なつきさん」

「索敵はその分私が完璧にこなしてみせるわ、兄さん」


 切り替えが早い。っていうかもう止めたのか、妹よ。

 みんな会話に飢えてない? これだからボッチ共は。


 ただ、意見は間違っていない。

 普通の河童自体はそこまで強くない。川と距離を取っておけば対応不可能なレベルの奇襲を受けることはないだろう。


 ということで、本当に何事もなく進んでいく俺達。

 そして、ようやく本来の目的である俺のトレーニングが開始できた。


「【変態・青】!」


 駆け寄ってくる河童に向かって地面を一直線の炎にし足を止める、つもりが火が強すぎて河童を一気に焼いて、魔力を無駄に消費してしまう。

 強い技を使えることが良い冒険者の条件ではないと俺は思っている。

 何が出来て、どのくらいの消耗や時間がかかるか、が把握できていて、長く堅実に戦えるのが重要だ。


 そういう点では、俺の【変態・青】は戦力外だ。


「大分むずかしそうですね」


 ジュリちゃんが俺の近くまで来て話しかけてくる。


「そうだね……あまりにも自分の魔力を変化させることに慣れちゃってるから、他の魔力を持つものを変えるってのがなかなか……」


 俺の元々持っていた固有スキルの【変態・赤】は、魔力を持つ魔物や物質に触れて、その魔力を記憶し、その記憶に基づいて自分の体内魔力を変える。

 だが、【変態・青】は魔力を持つ物質に触れ、その物質の内包魔力を記憶している魔力に変える。これが難しい。


「そういや、ジュリちゃんの【獣化】はどうやって他の獣の能力が使えるの?」

「やり方はなつきさんとほぼ同じですね。相手の獣の魔力を読み取って、自分の魔力を変化させています。ただ、わたしの場合は、混沌からの魔物ではなく、こちらの世界の獣なので、読み取りや変化の早さはなつきさんよりも早いと思います」


 そうか。根本的なところが違うのか。

 俺や冬輝はあっちの世界の魔力を、ジュリちゃんはこっちの世界の獣の魔力を読み取り、変化させる。似たようで違うスキルなわけだ。

 だけど、なんだろう。この違和感は……。


「ゲギャアアアア!」


 だけど、間が悪い河童は空気を読まずに襲い掛かってくる。


「わたしが行きます。わたしの【獣化】見ててくださいね」


 そう言うと、ジュリちゃんは一人で駆け出す。

 相変わらず半狼の姿のまま一瞬で河童の元に駆けていく。


 そして、四つ足で河童の一撃を躱すと、手足を半豹に変え俊敏な動きで河童を細かく刻んでいく。さらに、ぐんと屈み、地面に手をついたかと思えば、脚を半馬に。

 そして、蹴り上げると河童は天高く飛ばされていく。

 ジュリちゃんは半兎に。ぐっと屈伸し、跳び上がるジュリちゃんは、あっという間に蹴とばされた河童を追い越し、今度は獅子、半獅子に。そして、空中で真っ二つに切り裂く。


 計五回の【獣化】を流れるように行い、河童を完全に葬る。

 髪は黄金に輝き、神々しささえ感じられる。正に百獣の王。いや、百獣の女王といった雰囲気だ。あの速度で全身を入れ替えるのは少なくとも今の俺には出来ない。

 相手の行動を予測し、前もって変態を準備しておかなければならない。


 それに。

 あれだけの技術は、よほど訓練をしたのだろう。

 うまく人と話せず、ソロでの活動をしていた彼女は自分で自分の身を守るしかなかった。

 一人で戦える強さを持っている彼女は本当に『強い』。


 学ぶべきことが多いなと高く舞い上がる眩しい彼女を見つめる。


 ジャンピングガール着地。揺れないバスt……。


「ぴ」


 獅子ジュリちゃんの爪が俺の鼻先に。

 俺は何も言わずただ首を振る。

 沈黙の羊、更科夏輝である。

 百獣の女王は獰猛な笑みで俺を見つめていた。

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