第68話 変態、雪女がぽわぽわキッズで極寒オワタ(カクヨム限定ストーリー)

「ほいじゃあ、まあ、やっていきますか?」


 俺、レイ、秋菜、東江さん、ジュリちゃんで出発。


 ちなみに、男子共は呼んだけど来なかった。用事があるらしい。眼鏡は聞こえるくらい悔しそうに歯ぎしりしてた。ぎぎぎぎぎって音してた。

 姉さんは、三条さんと神辺先輩のところに。余計なものは開発しないでね。

 愛さんは、お料理教室。異臭騒ぎが起きないことを願う限り。


 俺はレイと隣り合って、後ろを歩く。


「その、良いんですか?」

「……」


 無視である。


「もしもし? 聞こえてます?」

「……」


 無視である。


「……はあ、レイはさ、いいの?」

「何がだ!?」


 高速首振りである。頭とれるかと思った。

 そんなに友達らしさにこだわらなくても。

 青春にコンプレックスありすぎだろ、この女。

 まあ、神レベルぼっちだもんな、ゴッドひとりだな、うん。苦しい。


 ってそういう話じゃなかった。


「肌、見せちゃって」


 氷室さんは、今回かなり露出の激しいドレスアーマーを着ている。

 となると、当然肌が見える。そして、肌が見えるという事は、


「ああ、呪刻のことか? うん、いいんだ。これも私だ」


 そう、氷室さんの固有スキルは【雪女】。身体に刻まれている呪刻と空気が触れ合う事で、氷や雪を生み出すことが出来る。

 今、出ている肌は、背中部分、そして、左鎖骨あたり。

 変態露出痴女(俺限定)であり、よく俺に肌色画像を送ってくる氷室さんだが、思えば背中と左鎖骨辺りは見せてなかった。

 そこには呪刻が刻まれている。薄い青で刻まれた読めない文字の羅列が紋様のように。

 俺個人としてはタトゥーみたいでかっこいい~と思うが、氷室さんの今までの服装から考えて、あまり見せたくなかったんじゃないかと思った。

 だけど、今日は、見せている。

 知っている俺やジュリちゃんには構わないだろうけど、予想外の参加であった東江さんや秋菜に見せてよかったのかと俺は思っていた。


「もうこれに怯えるのは止めようと思ってね。これも私だ。神に与えられたスキルだが、向き合っていかないと。それに、君の妹や東江なら見せてもいい。そう思ったんだ」


 そう言った氷室さんの顔はどこかすっきりしていて、ああ、やっぱかっけえなこの人、と思った。

 彼女はもう向き合えている。

 神に与えられた固有スキルというある意味、理不尽な存在に。


「そっか、じゃあ、そういう決意で今日はその装備で?」

「いや、お前が喜んでくれるかと思って。露出多め」


 違った。


「ともだち、だからな」


 ともだちの概念が違った。


 ダメだ。マジで青春時代を孤独で踏みつけられていたぼっちだから、マジともだち観が歪んでる。

 ディストーション・ざ・ともだち観である。

 誰かこの人の心のノイズをとってあげてほしいものである。


「ともだちをこれから学んでいこうな」

「……うん!」


 ちょっとニュアンスが違ったかもしれない。

 ともだちとしていっぱい遊んで色々知って行こうぜと思われている気がする。

 神ぼっちは物凄く良い笑顔で頷く。

 本当にこの人、年上? ってくらい無邪気なスマイル。


 でも、この人はこんな事も知ることが出来ないままに、青春時代戦い続けてきたんだもんな。世界の為に。


「そっか。うん、やっぱ、かっこいいな、レイは」

「そ、そ、そうか? うん、うん、そうだろ、うん」


 嬉しそうに何度も頷く系ぼっち女子である。


「ほ、ほ、他には? どう思った? ねえねえ」


 褒められたりなくてもっと褒められたい系ぼっち女子である。


 ザパアン!


 その瞬間、右側に流れていた川の中から登場系かっぱ野郎である。

 河童は、叫びながらこっちに向かって走り込んでくる。うわあ、陸上選手みたいな走り方……。

 俺達の前にいた秋菜、そして、東江さんが臨戦態勢をとるが、それを制したのは氷室さん。

 そして、そのまま駆け出していき、河童の掌底のような一撃を躱し、いや、今のってもしかして張り手か? 流石河童だぜ。それはともかく、氷室さんは、懐に潜り込み同じく掌底を河童の胸辺りに打ち込む。そして、


「永遠に眠れ。〈氷棺〉」


 身体の呪刻が青白く光り、河童に当てている手の平に集まっていく。

 そして、そこから河童の身体が凍り始め、そのまま全身が凍り付いてしまった。


「はあ、うっとおしい」


 冷たっ!


 氷室さんは一度溜息を吐くと、黄色い槍、雷槍を構え三点突きで粉々に砕く。

 飛び散る氷塊と弾ける電光がとても美しいです、はい。


「まったく、野暮な連中もいたものだ。私が褒められている途中だったのに、なあ、ナツ?」


 なあって、なあ?


「ねええ~?」


 曖昧に微笑み、この言葉。これが最善手!


「それより、固有スキル、使って大丈夫なんですか? 身体に負荷がかかるんじゃ……」


 氷室さんの【雪女】は氷や雪を生み出すために、身体への負荷がかかると思っていたんだけど。


「ああ、不思議なことにな。今は平気なんだ。今までは、芯から凍える感覚だったんだが、今は、表面だけがひやっとして中はあたたかいんだ。前みたいな無差別に冷気を放つという感じではなく狙った所に狙ったタイミングでコントロールできるようになってきたんだ」


 今も、氷室さんは指先に青白い魔力を集め小さな氷塊を作り出す。

 【雪女】は強力な固有スキルだったが、あまりにもリスキーだった。

 だけど、コントロールできるというのなら、とてつもない武器になる。

 何がきっかけで……。それが俺の【変態・青】をコントロールするきっかけになるかもしれない。


 そう、考えていると、首筋に冷たい感触が。


「つめてっ!」


 見ると、氷室さんがいたずらっ子っぽい笑顔で俺の首筋に氷を当てていた。


「ひひ、つめたい?」


 嬉しそうに笑う氷室さん。マジでこの人どんどん若返ってんな。

 でも、楽しそうで良かった。戦いに明け暮れた青春時代を少しでも取り戻すことが出来たらなと心から思う。俺も、やっぱり【変態】のせいで歪んだ思春期だったから、分かる。

 普段はしっかりしてるし、こういう時だけでも彼女の心の鎧を脱ぎ捨てさせるも大事だよなと、そう思った。


「ふう、なんだか暑くなってきたな」


 うん、本物の鎧は脱ぎ捨てるなよ。大体、暑くねえだろ。冷気操れるなら。

 あと、前を見てみろ。凄い無表情で三人が見てるから。

 冷たい表情すぎてブリザード発生してっから。

 俺、もう喉カラカラ。

 あ、南極では空気乾燥しすぎて喉カラカラになるらしいから、みんな、気を付けてね。はは。

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