俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
第65話 変態、別の話見させられて抱擁オワタ
第65話 変態、別の話見させられて抱擁オワタ
「泉さん、あなたこのチーム抜けてくれない?」
「は?」
私は、大久保さんの言葉が理解できず聞き返す。
「嘘でしょ? もう耳も遠くなったの? チームを抜けてって言ってるの」
「ちょっと待って。なんで?」
「え? 嘘? 理由も分からないの? 脳もトロいわね。そのトロさよ。それが駄目だって言ってるの」
大久保さんは心底楽しそうな顔でこちらを見ている。
「トロいって……だから、治癒はじっくり時間をかけて……」
「その時間かけてるのがウチのダンジョン攻略スピードを落としてるって言ってるのが分かんないの!? もうイヤ! なにこの女」
金切り声で急に叫びだすので私は耳を慌てて塞ぐ。この声が嫌いだ。
「いい? 今はスピード攻略の時代なの。どれだけ早く深くダンジョンに潜れるか。それが一番評価されるの。なのに、あんたの治癒を待ってたら、どんどん遅くなるのよ!」
「でも、だから!」
「黙って! いい? うちは今、同期チームの中でどこよりもステータスが高いの。なのに、なんで一番遅れをとってるの? あんたのせいでしょ!」
確かに、私の治癒は効き始めるまでにものすごく遅い。
けど、私のせいは言い過ぎではないだろうか。
「もうチームリーダーである和田君の許可はとってあるの。ねえ、和田君?」
「え? うそ? 和田君?」
「ごめん、泉さん。俺達は先に行かなきゃいけないんだ」
信じられない。和田君は私と一緒に研修を受けて、一番仲が良くて私の事を理解してくれてると思ったのに……。それに、今、『俺』って……今までは『僕』って言ってたのに。
「そうよ。和田君。あなたは先に行くべき人なのよ。勇者候補の中で誰よりも高いステータスを持つあなたなら絶対にもっともっと上に行けるはずよ」
大久保さんが和田君にしなだれかかり和田君も満更そうじゃない……。
そうか、そうだったんだ。
「和田君を誘惑したのね……!」
「誘惑? 別に、好きな人に、好きって言っただけ。それと、嫌いな人を嫌いって言ってるだけよ。なんか悪い事ある~?」
「……分かりました。では、このチームを抜けます」
「は~い、手続きは自分でお願いしますねえ。まあ、あんたみたいなトロ女の噂はもう社内に流れているから、冒険社員としては無理かもしれませんけどね~」
彼女たちに背中を向けて事務へと歩いていく。涙なんか見せるもんか。絶対に。
私は間違っていない。
********
「んの~、ちっきしょ~、かいしゃのばかやろ~」
私は酔っていた。
「せっかく今を時めくアドベンチャー企業に入れたのに……!」
私、泉結花は冒険者になりたかったわけではない。
ただ、固有スキルが治癒系で珍しかったために、とんとん拍子で今の会社に入ることになったのだ。
そして、入ったのが、『FourA《フォーラ》』。
冒険者を育成しダンジョンへ派遣、また、フリーの冒険者をサポートする企業で、今、一番勢いのある会社だ。給料は良い。けれど……。
あの後、事務で脱退の手続きを済ませ、新しいチームを探したが、厳しいかもしれないと事務のマキちゃんに言われた。
『大久保さん、相当研修での件、根に持ってるみたいで、ずうっと泉さんいない所である事ない事言いふらしてるんです。で、信じてない人たちも大久保さんに絡まれるのが面倒だから、泉さん避けてて……』
研修での件とは新人研修で、大久保さんが全然集中してなかったから私が怒った件だ。
実際のダンジョン内では罠がどこにあってもおかしくない。なのに、大久保さんはとにかくウィンスタ用とか言って写真をとったり、男性社員に話しかけたりしていたので怒った。
その時、大久保さんは、私を物凄い目で睨みつけ、男性社員に泣きついていたりした。
その後の異動で、まさか同じチームになるとは思わなかった。
そして、チームを乗っ取られるなんて……。
私が所属していた和田班はC3クラス。社内でもランク分けされており、それは差別とかじゃなく、適切なレベルのダンジョンに割り当てる為の評価。勿論、給料に差もあるけど……。
まだ新人研修からスタートしたランクから上がってはいない。
けれど、私はそれでいいと思っていた。勇者候補である和田君の固有スキルは【器用】なのだ。経験をしっかり積んでいき、色んなスキルを身に付ければあっという間に他の同期も追い越せる。
そんな話を和田君にもして盛り上がってくれたはずなのになあ。
チームが作れない私に出来ることは、参加を受け入れてくれるチームが現れるまで、事務やサポートなどの他の業務をこなしつつ自主トレ、もしくは、どこかから派遣冒険者を雇って自分でダンジョン攻略に挑み評価を上げるかだ。
別に私は冒険者になりたかったわけではないから、このまま事務とかに異動でもかまわない。ただ……
「あの女が、このままのさばるのは我慢ならん……!」
それに、良くない。大久保さんは美人だ。だけど、ダンジョンに対する考え方が甘いと思う。そして、それが伝染し、前回のチームは解散した。奇跡的に大久保さんだけ無事だったけど。
今のチームの能力であればB2まではすぐに上がれるだろう。そうすればある程度社内でも発言力や影響力を持つ。そうなると、マズい。というか、どんどん私がしんどい方向になってしまう。
「絶対に見返す!!!」
「俺もだぁあ!」
ビクッと振り返ると、背の高い酒塗れの男がフラフラでワンカップ片手に叫んでいた。
「え? ど、どなた?」
「ど~も~、俺は~、名もなき冒険者です~。いやね~、今日まで、今日まで、俺はね、結構強いチームで活躍してたんですよ? でもね、クビになったんです。なんでだと思います? 生活態度が悪いからですって!」
うわ~、この人ものすっごいしゃべってきよる……。
「シェアハウスしてたんですよ! チームで。でも、俺の生活がめちゃくちゃだからってクビなんですよ! でもね、俺はね、みんながすげー慌ててランクを上げようとするから、その為に必死に強くなるために、時間も金も使ってたのに、全然きいてくれないんすよ! お前らが自分たちを分かってなくて俺が損するなんておかしいだろう! どう思います!」
「そりゃおかしいい!!」
「あ。おおう……」
「私もね! チーム入ってるんですよ! いや、入ってたんですよ! んで、ゆっくりやっていこうねって話をしてたのにせっかちBBAが来た途端、ころりですよ! 最悪でしょう!」
「そりゃ最悪だ!」
「うわ~ん、分かってくれる人発見~、もっと私の話を聞いて~」
「聞く聞く~! あ、そうだ。ウチのシェアハウス来なよ!」
「え? あなたクビになったんじゃ……」
「明日中に出ていけって、チームは遠征してるから、今日はいないんだよ! だからもう思いっきり騒げる!」
「いえ~! いくいく~!」
ちゅんちゅん
「ど、どうしてこうなった?」
私と昨日の酔っ払いは一つ同じベッドで寝ていた。
服は着ている。
乱れてはいる。
でも、多分……大丈夫。
「ああ~、うかつだった~」
いつも自主トレしてるので、今朝も早起きできてる。
ので、出社までは全然余裕だ。
「にしても……」
見渡せば、地獄絵図。
汚い部屋だ。そして、それが入り口まで続いている。
けれど、それらは全部。
「手書きの攻略用マップや情報を纏めた紙や、装備品……」
横で寝ている男の人を見る。
身体中傷だらけだ。おそらく相当無茶をしたのだろう。
中途半端な治癒を受けたのか指も何本か変な風に歪んでいる。
「う、ぅう……みんな、死なないで……!」
男が寝言で呻いている。仲間の身を案じて……。
私は、そっと彼の指を握り、魔力を送る。
私の固有スキルでは時間はかかるけど……。
私は十分に魔力を送ると部屋から出て、改めてシェアハウスを見回す。
彼の部屋以外とてもきれいに使われている。
それがなんだか腹立たしかった。
彼はあんなに一生懸命にみんなのことを考えていたのに、他の人たちは何故彼がこうなのか気にかけていなかったのだろうか。
苛々が募る。こういう時は……
「やりますか……!」
********
俺はなんだか良い匂いで目を覚ます。
昨日は、酒を飲み過ぎた。確か女の人と……。
「どこだ、ここ?」
起き上がると見知らぬ部屋に居た。
いや、違う。
ここは、俺の部屋だ。俺の部屋、だったところだ?
「ああ、おはようございます」
入り口から女の人が顔を出す。
「あ、昨日の……」
「台所から勝手に食材借りましたよ。今日まではいいんですよね。あと、綺麗にしておけと言われたっていっていたので綺麗にしておきました」
妙な圧を感じ、俺は背筋を冷たくする。
「あの、この部屋」
「ああ、ごめんなさい。私、ストレス溜まると家事に走るタイプでちょっと綺麗にさせてもらいました。まあ、しなきゃいけなかったんでしょ? ということで、ウィンウィンで」
「いや、ちょっとっていうレベルじゃ……」
みれば装備品も綺麗に磨かれ、集めた資料はファイリングされた上に箱に纏められている。
その上、部屋はとてもきれいに掃除されている。
「私は、わかんないですけど、あなたの事情。でもね、あなたは凄く頑張っていたんだと思います」
涙が、零れた。
「あ、あは! まあ、ということで、これで手打ちに、昨日は何もなかったことにしてください! じゃ、じゃあ! 私は会社に行かなきゃなので!」
慌てて女性が去って行く。静まり返るシェアハウスの中で俺はひとり立ち上がる。
部屋を出ると、静かだった。誰もいない。
「みんなでトップチームになろうって誓ったんだけどな」
ふと気づく。いい匂いの正体に。
机に置かれた朝食。
いや、朝食というにはあまりにも豪勢な……
『台所から勝手に食材借りましたよ。今日まではいいんですよね。あと、綺麗にしておけと言われたっていっていたので冷蔵庫も綺麗にしてやりました』
「ぶふっ!」
強い人だ。久しぶりに笑った気がする。
俺は箸をとり、その豪勢な飯を頂く。
「……うま!」
びっくりするくらいうまい飯。こんなの食べたことない。
思わず色んな皿に箸を伸ばす。
「って待て……これ……」
俺は箸を持つ自分の手を見つめた……。
********
「は?」
「だから、今から私達、B級ダンジョンに行ってくるんです~」
出社早々、大久保さんに絡まれる。
「いや、ちょっと待って。B級って本気!?」
「本気ですよう。だって、ステータス的にはもうB級に入ってもおかしくないのに、どっかのトロ女さんがビビッて、D級でトロトロしてたんじゃないですか」
「いや、それは……和田君!」
「心配してくれてありがとう。でも、俺なら、いや、俺達ならきっと素晴らしい成果を出せるはずなんだ!」
いや、心配してねえわ! 馬鹿か!
「B級なんて無理に決まってるでしょう!?」
「はあ~、誰もチーム組んでくれない非モテ女がうるっさいんだよ」
大久保さんが本性出してきた。こっわ。
「悔しかったら、納得できるだけの実績出してくださいよ~。誰も味方いないでしょうけど。じゃあ、行って来ますねえ」
和田班の面々が去って行く。何が和田班だ。大久保様班じゃないか。
涙が零れる。
悔しいからじゃない。
誰かが死ぬかもしれない。
でも、私には止める力がない。助ける力もない。
おじさん……私また何も出来なかった……!
その日の業務はとにかく冒険者チームの状況を、いや、和田班の情報を、逐一社内PCで確認して仕事にならなかった。マキちゃんにも注意された。
でも、嫌な予感がするのだ。こういうのは本当によく当たる。
そして、最悪の音が鳴り響く。
緊急信号のアラートだ。
「どこだ! どこの班だ!?」
「和田班です!」
このアラートがなると、そのダンジョンランク以上のチームが総出で救出に向かう。
緊急信号は命の危険性ありだ。死者が出れば会社としての信用もガタ落ちだし、何よりそんなことがあってはならない。
「緊急信号はどこからだ」
「B級、【土蛇の穴】……十四階です」
最悪だ。浅い階層で出してくれれば間に合う可能性もあった。
そもそも緊急信号はよほどのトラブルがない限り、出さない。何故なら、適切な能力で適切な判断でいけば絶対に大丈夫であろうダンジョンを会社は行かせるからだ。
恐らく無茶な攻略に乗り出したのだろう。
自業自得だ。でも。
「なんとか! なんとかなりませんか!?」
「泉……。無理だ……現状の映像も送られてきているが、罠にもかかり、モンスターも大分無視しながら進んだせいか囲まれている……!」
「だ、誰か!?」
誰かじゃない。自分でやれよ。
自分でもそう思う。私は、無力だ。
「あのー、俺、行きましょうか」
どこかで聞いた声。振り返ると……
「え? 誰?」
黒髪を短く切りそろえた爽やかなイケメンが私を見ていた。
「ああ。財布の名刺見たらちゃんとした会社だったから多少小綺麗にしてきたんすけど、駄目でした? え? そもそも分かってない? あの、昨日の」
声を聞くごとに輪郭がはっきりしていく。あのぼさぼさ頭の彼の声だ。
「あ、ああああ! え? 嘘!? でも、君が、なんで、無茶よ?」
「いや、土蛇の穴の14階くらいなら、なんとかなると思います。俺、ソロでもA級なんで」
社内がざわつく。ウチで単独A級なのはひとりしかいない。
その人も今はA級攻略遠征中で出払っている。
「お、お願い、お願いできますか!?」
「りょーかいっす。でも、条件が」
「何だい!? わが社に出来ることなら!」
「あ、会社さんはなんにも、いや、あとでお願いすることあるかもですが、ひとまず……お姉さん、俺にまた飯作ってくれません?」
「え……わ、かった」
「おっけっす。じゃあ、行って来ます!」
「お願い! 部長! ダンジョン緊急突入申請は私が出します! 諸々手続きのやり方は頭に入ってます!」
「わ、わかった! ひとまず、みんな出来ることをやるぞ!」
そこからはあっという間だった。
彼は、身体を鋼に変えて、目の前の敵を一瞬で倒し、罠を躱し潰し、進み続けた。
「すごい……」
誰もが見惚れていた。でも、私には分かる。
一生懸命マッピングや分析・反省、そして、命を賭けて戦っている彼だから出来ることなのだ。
だから、私も彼のその姿に見惚れていてもなんらおかしくない。
彼が、14階に辿り着き救出成功の信号を送ってきてから帰ってくるまで、会社ではお祭り騒ぎだった。
そんな中で唯一の単独A級冒険者が率いるチームが帰ってくる。
「和田班が緊急信号と聞き、慌てて戻ってきましたが、無事ですか!?」
単独A級の守屋さんが慌てた様子で飛び込んでくる。冷静沈着な守屋さんにしては珍しい。
「ああ、はい! 無事です!」
「泉、さん……良かった。けがは? ありませんか?!」
「あ、いえ、私はダンジョンには行ってなくて、というか、脱退しまして……」
「泉さんが? なら……ウチのチームに入れるんですね?」
「……は?」
「ちょっと待った! その人は俺と契約するんで」
入り口を見ると、彼が汗だくで戻ってきていた。
「君は……なんで、君がここにいる?」
「俺は、その人に助けられたんです。その恩を返すために。そして、この会社は今回の件で俺に恩がありますよね?」
「え? あ、はい」
彼にいきなり顔を向けられた部長が慌てて頷く。
「俺、この会社に入るんで、この人をマネージャーにしてください。俺、専属の」
「……は?」
「ちょっと待て、何を勝手に」
「でも、俺入れた方が会社にとって有益なんじゃないっすか? 俺、守屋さんよりも上なんで……」
「……は?」
「おい……いくらなんでも横暴が過ぎるぞ【鋼】の勇者候補、
ダンジョンの有名人に興味がない私でも知っている。
次代勇者の最有力候補だ。最近は活躍を聞いていなかったけど、それでもその名は健在だ。
「あ、あのー、なんで、私なんでしょうか?」
「お姉さんの固有スキル聞いてもいいですか?」
「わ、私の固有スキル? あの【改復】です、改めて、復元するとかいて改復」
「やっぱり、俺のぐちゃぐちゃの指直してくれたのお姉さんでしょ? そんで、家事能力も完璧! お姉さん、俺の嫁になってよ!」
「は?」
「ちょっと待て! 泉さんは……わ、私のものだ!」
「は?」
はああああああああああああああ!? どうなってんの!? この状況!?
ちょいワイルドな年下の男の子と、出来る上司のイケメン二人が私を巡って睨み合っている!?
ど、どうなっちゃうの、わたし!?
あ、どうも更科夏輝です。
皆さんに、今ご覧いただいたのは立花理々さんも影響を受けた月曜9時のドラマ『勇者候補の嫁候補』、通称、『ゆうよめ』第一話の10分で分かるダイジェスト動画です。
何故私がこれを見ているのか? 否、見させられているのか?
それは目の前の男が原因です。
「どうだ!? ドラマになっちゃうくらいの男が勧誘してんだからさあ、いい加減うんって言えよ! クレイジークラウン~!」
俺にしがみついて鋼化している【鋼の勇者】、三井鉄平さんが原因です。
「なんだ、その目、ぶつのか!? ぶちたいならぶてよ! ぶてばぶつほどオレは強くなるからな! はあはあ……さあ、ぶてよ! お願い、ぶってよ!」
やだあ、イケメンも変態。
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