第64話 変態、一日を曝されてプライベートオワタ・続

「なーつき! 学校行こ!」


 玄関を出たところで、自称幼馴染、武藤愛が現れる。

 武藤愛の自宅は更科夏輝がこれから向かう四方山学園の向こう側。

 それでも迎えに来る彼女に更科夏輝は苦笑いを浮かべる。


「わかったわかった。お前も、ほんとすごいよな」


 更科夏輝の言葉に武藤愛はその大きな目を見開く。


「どした?」

「ん? んへへ~、なんでもないっ!」


 ちょっと武藤さんに甘くなってません?


「なってません」


 容疑者更科夏輝は否認する。


「容疑者になってますけどお!?」

「どしたの? 夏輝?」

「いや、なんでも……」

「って、あー! ごめん! もう朝練始まるから行くね! ……ふふ、今日は嬉しかった。じゃね!」


 武藤愛が去って行く。固有スキル【愛人】好きな人と気持ちが繋がれば繋がるほど力が増すそのスキルのせいか光の速さで駆けていく。

 ふと更科夏輝が振り返ると、立花理々がこちらを見ている。


「お、おはよう……夏輝」

「ああ、悪かったな。なんか色々……」

「あの、ごめん! わたし、行くね!」


 立花理々が更科夏輝を追い抜き走り去っていく。

 フラれた?


「フラれてないもん!」


 あとで慰めてあげるからね。


「ありがと!」


 涙交じりの更科夏輝が教室へと辿り着くと、教室は相変わらずの雰囲気。

 急に静まり返り、更科夏輝に注目が集まる。


「はあ~、だから、気にしないでって。こっちは勝手にやるから」


 更科夏輝の一言で、教室は急に騒がしくなる。

 作られた騒がしさを更科夏輝は無視するように席へと向かう。


「おい、アホと眼鏡、何をやってる?」


 するとそこには先客、古巣正直と新井慎一郎が更科夏輝の席を挟んでノートに何か書いている。


「いや、狂気の仮面道化クレイジークラウンと誰が戦ったらどうなるかっていうのをシュミレーションしてた」

「へえ~、暇だな」

「昨日から」

「暇だな!」

「シュミレーションプログラムを二人で作ってな」

「暇だな!!」

「で、その結果を元に、新しくどんな能力が必要か考えてた」

「暇だな」

「まず、【雷姫】だな。圧倒的な雷属性の攻撃がヤバすぎる。だから、やっぱりゴムだ。お前○フィの力コピーしてこい」

「おいアホ殿様、このジャン○からまず出してくれませんかね?」

「次に、元祖勇者の一人【黒の勇者】だな。彼の身体能力は高すぎるから。毒等の状態異常が有効だ」

「なるほど」

「毒を飲め」

「お前が眼鏡にぶっかけられろ」

「【白の勇者】は、光魔法と再生能力がヤバいからな。短期決戦だ。お前の一番強力なのはやっぱ紅の蜥蜴飛蝗のディメンションホッパーか? あれだと単発の威力がな」

「ああ、もういっこある。ただ、死ぬほど魔力使うし、あんま使いたくねえ。最悪、味方も死ぬ」

「どんだけヤバい自爆技だよ!」

「現役最強【鋼の勇者】にも通じるのか、その攻撃は」

「あ~、どうだろうな。あの人の特性とステータスを考えると通じても負けるだろうな」

「やっぱやべえな【鋼の勇者】は」


 そんな男子の下らない話で朝の時間は終わりを告げる。


「下らない言うな」


 そして、クソ教師共の下らない更科攻撃。

 出席番号に、因数分解や枕草子、元素番号を持ち出し陰湿に当ててくる攻撃を全ていとも簡単に答える。更科夏輝。ちょっとカンニングしてたけど。


「うるへ。流石眼鏡だ。伊達に眼鏡かけてねえな」


 昼休み。更科夏輝の地獄の時間が始まる。

 目の前にはダークマターメイカー武藤愛。

 武藤愛が差し出す今日のお弁当の献立は以下の通り。


 ばくだんおむすび(液体・悲鳴付き)

 黒い卵焼き(正確には卵焼き尽くし)

 黒いタコさんウィンナー(ピチピチ動いてる)

 黒の核晶(○イの大冒険参照)

 黒い宝石(ワリオワール○参照)


 今日は一段と不吉なオーラを放っていた為、屋上に移動したのは更科夏輝の英断といえただろう。何羽かのカラスが落ちてきた。※スタッフが責任をもって治療しました


 しかし、更科夏輝は口に入れた。

 なんか口の中でいっぱい爆発させてたけど頑張った。

 その後、更科夏輝は午後の授業を欠席し、保健室で過ごした。

 午後の授業で欠席を厭味ったらしく言っていた教師たちは古巣正直と新井慎一郎によって精神的にボッコボコにされていた。


 放課後。

 部活にいそしむ学生たちを尻目に、三人は学校を出て、御剣学園へと向かう。

 氷室育成チーム【青い炎】の面々が彼らを迎え入れる。

 そして、コロッセウムでの混成チームでの対戦トレーニングを行う。

 対戦トレーニングの目的は、新しい技能やフォーメーションの適正化が主となる。

 今回は更科夏輝の提案で混成チームでのトレーニングとなるのだが、何か意図は?


「あー、自分のチームのコンビネーションを磨きまくるのも悪くはないけど、この時はこうって言う決めつけが多くなるから、色んな人間と絡んで新しい自分を見つけたり積極的に変化していく意識を付ける為、かな」


 更科夏輝は、こういったことに積極的に発言していくようになった。

 それは日本の冒険者業界にとって光となるだろう。


「夏輝さん! ウチに指示を! もっと! もっともっともっともっとウチに命令してください! なんならイヌと呼んでください」

「はいはーい、弓香奴隷モード入っちゃってるから。落ち着き」


 あれ? 更科夏輝さん、彼女、闇が深くなってません?


「……ねえ。どうしましょ」


 訓練終盤には、ダンジョン庁の氷室レイラも到着し、指導に加わる。

 【女帝】の指導は厳しく、激しい。


「そんなもので最前線で戦えるものか! もっと気合を入れろ! 学べ! 身体に刻みつけろ! 圧倒的にお前達には経験値が足りないことを自覚しろ! お前もだ! ナツ!」

「はい! 氷室さん!」

「ナツ!」

「はい! 氷室さん!」

「ナツ!」

「わかったよ! レイ!」

「判断が遅い! 即答できなかったのはお前の私の友人であるという覚悟が甘かったからだ!」

「鬼を滅する刃のヤツも見たのかよ!」

「面白かった! 流行っていた理由がよくわかった!」

「うるせえ!」

「冗談だ! ユーモアある上司で良かったな!」

「女帝のイメージがどんどん崩れていきます!」

「うるさい! 仲良くして!」


 こんな会話を交わしながらも女帝と更科夏輝は激しい攻防を繰り返す。

 女帝の三段突きを、風鬼の風でコントロールしながら両手右足で流し、残った左足で蹴りを放つ。柄を回し蹴りをいなしながらもその勢いのまま刃を振り上げようとする。

 しかし、その攻撃が当たる前に地面に両手をついて逆立ちで着地した更科夏輝は地面をぬかるみに【変態】させバランスを崩させる。


「ぬ!? しまった」


 女帝の態勢が崩れ更科夏輝は両手で地面を掴み、両手を組んで振り下ろさんとするその瞬間、全ての変態が解け、更科夏輝の全てが露になる。


「あ」

「あ! へ、【変態】紅犬レッドッグ


 パシャパシャパシャ。

 一瞬だけだったが、取材班の優れた撮影技術は更科夏輝の夏輝をとらえた。

 着替えとお風呂とトイレは駄目と言われたけど、あとは言われてない。だから、問題ないのである。


「ふ……やるな、ナツ。私に見せる側に回らせるとは……さ、さしゅがよ」


 氷室レイラが顔を真っ赤にして目を回す。初心女帝には刺激の強い光景だったようだ。

 見せつけてくる癖に。あと、更科夏輝と戦う時だけ着替えたタイトスーツだけど、その着替えの最中に一瞬見えたど変態装備はなんだあれ。


「違うんだ。こんな冬輝の【変態】スキルをオチに使いたいわけじゃねえんだよ~! それとも、お前のせいか冬輝~!」


 まだ、自分以外の状態や形状を変化させる方の【変態】スキルはうまく操れず嘆く更科夏輝の叫びで今日の訓練は終わる。


 帰宅。

 更科夏輝は帰るなり地下室へ。

 そして、あられもない声をあげてマジ快感バトルをしている父と母を諫め、夕食へと向かう。

 なんだかんだでちゃんと作っている母の料理に舌鼓を打ちながら、今日会ったことを家族に話す。

 つもりだったが、大体変態なことだったので更科夏輝に話すことがなかった。

 両親による冒険者やダンジョンの現状を話しながら冒険者一家の食卓は賑やかに終わる。

 いち早く更科夏輝の諸々を回収した姉は部屋へと向かい、妹、更科秋菜がお風呂へと向かう。

 更科夏輝は部屋に戻り、筋トレを始める。

 しっかりと汗を流した頃、妹が出てきて、更科夏輝の番だ。

 タオルやシャツはメイドに着替えた姉に回収されていた。もう普通に渡してた。

 お風呂である。お風呂である。大事な事なので二回言ったのである。


 ここは撮影許可が下りなかった。


 更科夏輝が出てくると姉がお風呂へと向かう。

 持っていた瓶のようなものは取り上げられ、姉はしゅんとしていた。

 更科夏輝はリビングでスマホ片手にアニメを見る。

 妹、更科秋菜が横を陣取る。ここはわたしのポジションだ。


「わたし言うてるぞ」


 あ。更科秋菜の定位置だ。他が入ることは許さん。

 そして、この時ばかりは更科夏輝は何も言わない。夢中で見ている。かわいい。

 姉が出てくると、三人でダイニングテーブルで勉強を始める。

 姉が女教師風の恰好で、妹は四方山ではないあるアニメの制服を着ている(どのアニメかは想像におまかせする)

 更科夏輝は一しきり首を傾げた後、無視して勉強を続ける。

 両親は、目の前でイチャイチャ楽しそうに話をしているが三人とも無視していた。

 この前の一件以降、家族が集まることが増えた。一緒に何かをするようになった。

 それは明確な変化であった。


 更科冬輝は、更科夏輝の失った半身となった。冬輝の意識はないらしい。


 事実が明らかになったことで、両親は捜索をやめ、地元での活動を主にすることに決めた。

 どこか、誰か、遠慮していた家庭の空気が変わった。

 もやっと空いていた遠慮の空間。

 それがなくなった。

 そして、はっきりと作られた。


 ダイニングテーブルでは、更科春菜・更科夏輝・更科秋菜、向こう挟んで、更科一輝、一つ空いて、更科四季が座っていた。

 勿論、これから席の並びも数も変わるかもしれない。

 ただ今はこうして家族の時間を過ごす。

 いいですね、なんか。


「うん、いいよな。これで」


 更科夏輝は右腕をさすりながら笑って答える。


 ぽーん


 あなたにとって、家族とは?


「え? 変わらないもの?」


 テーマソング。

 タイトル。


『プロアニトイッショニイル』


「こえええええええええええええええええええええええええええよ!」


 更科夏輝が叫ぶ。

 どうしたんですか?


「いや! もういいから! やめて念話! 何この密着取材!?」



 ここからは俺のターン! 更科夏輝のターンだこのやろおおお!

 俺の近くに念力で動いてるドローンカメラ。

 目の前にはテレヴィジョンに映し出された某番組風の映像。

 撮影・編集更科秋菜と出ている。凄いね、君!


「密着……あにに密着……ふふふ」

「いや、答えて、ねえ!」

「あにもたのしそうだった」

「ちょっとね! 正直ね! うれしかったよ! なんかこういうの出来て! ぽーん気持ちよいかったよ! でも、これ何のために!?」

「ブルーレイ予約殺到中」

「誰だよ! 想像つくからいいや! 言わないで! っていうか、ブルーレイかよ!」

「あに」

「なに!?」

「今、たのしい?」

「……たのしいよ!」

「ならいい」

「ありがと!」


 顔が熱すぎて俺はもう寝ることにした。もうやだ! なんか妹が母性出してくるんですけど!


「おい、げぼく」


 ごめん、ちがった!


「な、なんでございましょう」

「わ、わたしに、おやすみの、おやすみの、ちゅ、」

「ちゅ?」

「ちゅういじこう、を……」

「歯磨けよ」

「……あい」

「おやすみ」

「ぉやすみ」


 くそう! かわいいでしょう! ウチの妹! 俺は鈍感主人公じゃないから読み取ってるけどしないよ! かわいいけど!


「夏輝」


 姉IN隙間。


「姉さん……おやすみ」

「おやすみ……」


 姉の部屋の扉も閉じられた。

 俺は部屋に戻り、零れる笑いを押さえる。


「今日もへんたいな一日だったよ」


 空っぽのベッドに話しかけ、俺は自分のベッドに寝転がり目を閉じる。

 こうして、更科夏輝の一日は終わる。


 静かにドアが開く音がする。

 二人ほど気配がする。

 終わるよね、一日もう終わるよね。

 ねえ!

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