俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
第62話 変態、お別れ言われてお別れオワタ
第62話 変態、お別れ言われてお別れオワタ
俺は話し終える。
気付けば、みんなそこにいた。
「話は聞いていた。瘧師の固有スキルでな」
育成組、瘧師の固有スキルは【伝染】。何かしら一定の効果を一定時間決められた範囲・グループに広げることが出来る。今回は、【受信】だろう。
みんなに聞かれた。でも、俺はすっきりしていた。
何か罪に問われるかもしれない。それでもいい。
俺は、冬輝なんだろう。
夏輝になりたくてなりたくて仕方なかった冬輝なんだろう。
あの時は、魔力を使い果たしたのか、気を失って気付けば全快の身体で寝ていた。
誰もいなかった。だから、誰も知りようがない。
それこそクソ神様くらいは知ってるのかもしれないが絶対アイツこの状況楽しんでるだろうし性格悪いだろうし。
「まあ、というわけで俺は更科冬輝のようです。確証はないです。だけど、冬輝が夏輝になろうとした、その冬輝の記憶は蘇って確かに俺の中にある。夏輝の記憶も混じってるみたいですけど」
「君の魔力には少し色が混じっていたんだ。魔力に記憶が宿っているのかな。臓器などの移植による記憶転移は物語にはよくあるが少し説としては弱い。が、その身体に宿る魔力となると、ふむ」
モジャモジャ神辺先輩も来てたのか。研究熱心だね。
氷室さんも仕事熱心だね。いや、違うな。この人俺より泣きそうだ。まったくもう。
「これから、どうするつもりだ?」
「どうしたら、いいんでしょうね、はは。今までこんな【変態】な事件の例なんてないでしょうから。でも、俺はみんなを騙していた。だから、みんなとは一緒にいられない。そうでしょ、普通。そうだ! 俺、どうせ違法冒険者だったし最前線にぶち込んでくださいよ。償いとして」
「ふざけんな」
アホが怒っている。珍しい。悪かったよ、騙してて。
「さっき武藤が言ってただろうが、お前が誰だって関係ないって……そりゃ、春菜さんや秋菜さん、昔から二人を知っている人たちからしたらお前が誰かは重要かもしれない。だから、その人たちに対してお前がどうするかは言えないけど。でも、お前が、おれを騙してたなんて言うんじゃねーよ!」
え?
「お前は覚えてねーかもしれねーけど。おれは覚えてるぞ。お前と初めて会った時のこと」
ああ、『俺』も覚えてるよ。
『いよー! そこの男子もよろしくな! 俺は古巣正直! あのフールズの御曹司だ!』
『ほお~ん、なるほど、あっそ』
それが俺とアホの初対面だった。
アホはことある毎に自分をフールズの社長の息子であることを言ってた。
「お前、マジで無関心だったよな。おれマジかって思ったよ」
マジか。
『おい、夏輝~、おれといっしょに○亀うどん行こうぜ~!』
『いいだろう』
それからなんでかアホは俺によく絡みに来るようになった。ウザかった。
その理由をアホはうどん啜りながら教えてくれた。
『ずずー! 要は、ずずー! 前はアずずーだよ! だから、ずずーは』
『食ってから喋れ』
『お前はアホなんだよ! 普通の人は見かけや目先に惑わされる。まあ、それは普通だ。責めることはないよ。でもな、おれはそうじゃないヤツ、つまりは、変なヤツ、アホと絡んだ方が疲れない』
『誰が変なヤツだ』
『お前。おれはさ、ダンジョンバブルがずっと続くとは思ってないんだよ。でも、普通の人は信じて疑わない。この幸せがずっと続くはずだって。普通の人は気づかない。今の豊かな生活が、最前線で命を賭けて戦う冒険者のお陰だって。賢い人間は気づいてるけどな』
『お前、アホなんだろ?』
『そう、おれはアホなんだ。賢い人間は気づいてる。気付いた上で無視してる。そっちのが自分が得だから。いじめと一緒だよ。結局損得判断がうまいヤツが賢く生き延びれる。でも、おれはアホになる! 全部なんとかしたいと思ってる!』
『お前、アホだろ。その話何回目だよ』
『そう、おれはアホだ! でも、お前はおれの話を何回でも聞いてくれる! おれの究極のプランを聞き、アホと罵り、それでも、まだ聞いてくれる! お前もどこかで今の状況をなんとかしたいと考えているから』
『お前、アホだろ』
『流石に言いすぎじゃね!?』
『俺はそんな大層なもんじゃねーよ。友達の話は多少変でも聞いてやるのが友達だろ』
『……お前、アホだろ?』
『お前もな』
『うどん、のびるぞ』
『おまえのせいだろが』
……そんな話も、した。
「おれは! アホだ! 普通じゃない! だから! おれはアホの答えを出す! お前はおれを騙してなんかいねーよ! おれは普通にたのしかったよ! それだけのことしか考えてねーよ! お前といて! 楽しかったよ! おれは! お前とおれは友達だから! おれはお前の友達、古巣正直だから! お前はおれの友達の更科夏輝だから!」
アホがすげー喋った。びっくりした。そんなこと考えてたんか。
ふざけんなよ。決心鈍らせるなよ。鍛冶屋の孫がよ。鈍らせてんじゃねーよ。
「夏輝、僕は正直と比べて時間も短い、だげふっ……!」
眼鏡がゼロ距離で俺に話しかけに来たと思ったらそのゼロ距離ぶち破ってモジャモジャ天才が迫った。相変わらず珈琲のいい匂いがしてドキドキする。
「古巣正直……今、君は彼になんて言った?」
「え? 友達だって」
「そんなの今はどうでもいい!」
え? ひどくね? 熱い友情の物語だったじゃん。
「最後になんと言った!?」
「……! お前はおれの友達、更科夏輝だから」
「もう一回!」
「お前はおれの友達、更科夏輝だから」
「復唱!」
「お前はおれの友達、更科夏輝だから!」
なんだこの辱め。
アオハル馬鹿にしてんのか、この天才。
机ばっかり向かってるからだ。友達作れ友達。
「なら、君が私の友達一号だ。よろしくな、夏輝」
あ、やべ。この人【魔眼】持ちだから、ある程度感情読めんのか。
「って、今、なんて?」
「君が私の友達一号だ」
「そんなの今はどうでもいいです」
「え? ひどくない?」
「最後の方です。なんて言いました」
「分かってるよ。よろしくな、夏輝」
「……なんで、そう言い切れるんですか」
「まだ気づいていないのか。よし、古巣正直。このアホに分かりやすく言ってやれ」
「お前は、更科夏輝だ!」
「……ん?」
「あ、駄目だ。察しが悪い。更科姉から聞いてた話と違う。やっぱり偽物かも」
「夏輝は、自分の事になると鈍感ですから」
「鈍感系主人公気取ってるんじゃないわよ! 馬鹿夏輝兄貴!」
語呂悪いぞ、妹よ。今日はツンデレ系妹なのね。
え? 何? なんでみんな笑ってるの?
いや、東江さん達、御剣学園組はきょとんとしてる。分かる分かる。
「仕方ない。古巣正直、逆だ」
「ええー」
「私のかわいい友人を紹介しよう」
「いえっさー!」
おい、アホ安いな。っていうか、おれに抱きついてくる。なんぞ。きも。
「お前は、更科夏輝じゃない!」
「は?」
その瞬間、俺に電気が走った。マジで。物理で。
「「あばばばばば!」」
電気走ったぞ、おい。
……あは。
電気、走ったぞ、おい。
そっか。
そうかよ。
「はっはっは! 知らんやつにも教えてやろう! おれ、古巣正直の固有スキルは【正直者】。おれが嘘を吐くとおれの身体に電気がはしる!」
こいつはシビれたね。
俺は、更科夏輝なんだ。
俺は……更科夏輝なんだ。
更科夏輝でいいんだ。
「恐らくでしかないが、記憶の混濁は、魔力が混ざったことが原因だろう。君の嫌いな神様の意見だが、まあ、信じてみてもいいんじゃないか?」
また、アホが抱きついてくる。
「お前は、生まれてこの方、更科夏輝だ! 【変態】で、
いってえ。
電気痛すぎるだろ。
なみだ、でてきただろ、あほ。
俺は神様は信じない。
でも、家族と友達は信じられる。
思い出した。はっきりと。
弟の記憶がはっきりと蘇る。
弟との記憶は蘇る。
記憶は、蘇る。
俺はダンジョン核を壊す。
「おい! 夏輝、ダンジョン核壊したら」
ダンジョンが消えていく。
でも、慌てない。
「あー、大丈夫。ここ俺の知ってる所だったわ」
そう、大丈夫。
ここは、思い出した。
ダンジョンが消え、光を放ちながら元の小さな洞窟に戻っていく。
此処に来たのは理由がちゃんとあった。
ここに来たことがあるんだ。
昔、何回か。
初めて此処に来た時ここをひみつきちにしたんだ。
俺達双子の兄弟だけの秘密の。
決めたのは冬輝だった。
双子の兄弟が初めて喧嘩した日にも弟はここにきてた。
喧嘩の時、怒り始めたのは冬輝だった。
なあ、冬輝。
俺はな、逆にお前が羨ましかったよ。
俺は、お前になりたかったんだ。お前みたいに変わりたかったんだ。
自分でなんでも決めて、自分で歩くお前が、自分の心に従うお前がかっこよくて。
あの時も、お前は怒ってた――
記憶の中で冬輝が蘇る。
これは、冬輝の記憶。夏輝の一部になった冬輝の。
夏輝の思考を、俺の、冬輝の一部になることを望むよう思考を変態させようとスキルを行使する。
けれど、俺は俺の【変態】が通じなくて、その意味が分かって、指を叩く。
『嘘だろ……ふざけんなよ』
ふざけんな。
ふざけんなよ!
最初から、そう思ってたなんて。そう望んでたなんて。
夏輝!
おい! 夏輝!
ふざけんな。
おい。
おい……。
ありがとう、馬鹿兄貴。
俺、心を入れ替える。
真っ当になる。
今すぐに。
ありがとう、そして、ごめんな。
こんなバカな弟で。
『じゃあな、兄貴』
俺は【変態】を行使して、兄貴の思考を変化させる。
更科冬輝の身体を、兄貴の、更科夏輝の一部と認識して【変態】しようとするように思考を変態させる。
兄貴の目が見開かれる。
察しのいい兄貴でもこれは予想できなかったか。
ざまぁ。ぶはははは!
俺だって誰かの為に命を賭けてみたくなる時があるんだよ。
例えば、本当に俺は兄貴の事が好きだったことに気付いた時とかな。
だから、兄貴、生きてくれ。
俺の大好きな、弟の俺が誇りに思う、かっこいい兄貴で、ずっと。
そして、俺は、夏輝に、誰かの為に命をかけられる『夏輝』になった。なれたんだ。
変われたんだ。俺も。兄貴のお陰で。
じゃあな、兄貴。
記憶が終わる。冬輝の記憶が。雪のように溶けて消えていく。ここで終わる。終わってしまった。もう、これ以上はないんだ。
もしこれから右手が反応したとしてもそれは更科夏輝の一部になった弟の記憶の反応でしかない。
生きているのは更科夏輝一人なんだから。
涙を流しているのは俺だ。更科夏輝だ。泣き虫は俺だ、俺なんだ。
そして、ダンジョンも光が収まり、名残惜しそうにちらちら降ってくる魔力の光以外は、すっかりもとに戻る。
ああ、やっぱり此処だ。
『ああ、やっぱり此処だ』
『なんで、兄ちゃん……? なんで来たんだよ!』
『ここ、僕と冬輝の秘密基地だったところだろ。冬輝ならここにくるんじゃないかなと思ってた』
『ごめ、兄ちゃ……ごめん……おれ、反省した』
『僕も反省した。怒ってくれてありがとな。なかなおりしよう、で、なかよくしよう。あの時みたいに』
『うん』
『帰ろう、家に』
『うん、帰ろう、みんなのところに』
記憶の中の夏輝と冬輝は手を取り合って外に出た。
今の俺も外に出なきゃ。でも、その前に。
俺は、その洞窟の奥の壁に書かれた文字を見た。
初めて此処に来てひみつきちにしたあの日書かれたへたくそな文字を。
『いいことかんがえた!』
『ぼくも!』
『『ぼくたちのひみつきちだから名前かいとこう!』』
『『……ぶ、はははは!』』
左になつき、右にふゆき。
今も昔も俺達は一緒に居るんだ。ずっとずっと。
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