第48話 変態、肌色見せられてシーツ一枚オワタ

 目を開けるとそこは雪国美人の肌だった。


 山と呼ぶにはあまりにもなだらかな起伏に白いシーツという雪が被っていました。ナイスブロック。


 ちょっと待て。


 更科夏輝feat.レイラ氷室in一つのベッドなんだが?


 え? R指定った?


 スリーピーなナッツきがR指定しちゃった!?

 出来る女子こと、DJ氷室さんとR指定しちゃった!?

 夜のライムを刻んでスクラッチしちゃった!?


 いやでも何故だかとなりの氷室氏、裸でいるし、時にそれがし、パンツを装備し今なれどされどミッドナイト時装備どうかは分からねーどのレモネードな甘酸っぺーメモリー作りにフルモンティーのエロモンキーになっちゃってねーとは限らねー。な、ねえよなそうだろありえるだろし。夜戦開始時枷外し、『ってー!』って放ち迎えたDTの卒業式! 「お父さん! お母さん! 僕は、私は、卒業します! ぅんぅん「卒業します!」」ってなったのかもしれないじゃん。ワンナイしてない? ワンチャンやってない? ワンワンワンちゃんナイ? ワンワンしてたかわっかんない! 若気の至りでシンガソングしてない? ミッドナイデュオ、ベッドイン合唱、ぎゅっと重なり二つのメロディぴったりハモリ深くにハマり作っちゃう不覚の一夜のメモリー、ハマりハメられ羽目外し、ハメたい思いで罠に寄り、寄り添っちゃ突き放す氷の美女が、今夜はびしょりと溶けちゃう夜だ。レッツショータイム後、って言われてもしょうがないでしょ、こっちゃ記憶にございません。国会答弁でしか通じません? そっかなら申し訳ないしかございません。更科夏輝君、はい! 呼ばれて飛び出て証人喚問。更科夏輝、記憶がないき。曖昧な記憶更科夏輝、未来予想図は社会的死。いえあ。


 という下の下ラップが俺の脳内をヒップホップし、脳内謝罪会見をラッパーの皆様にすること数秒。

 氷室レイラ君ウェイクアップ。


「起きたか、夏輝」


 起きました。


「既成事実を作るつもりが眠ってしまったよ、ふふ」


 よかったです。


「今からでも「起きましょう」」


 ハンズアップからの、ウェイクアップからの、チラ見えAカッ


「ぴ」


 死線と視線を感じ黙示せん。父さん、妖気を感じるよ。


「待て。しないから、待て」


 オーケー、ウェイクアップからのウェイタモメン。被る一反木綿(毛布)。


「あの、な……ありがとう」

「え?」

「助けてくれて! ありがとう!」


 照れたように叫ぶ氷室さん。


「私は……うれしかった。不謹慎かもしれないが。お前が、死の可能性があっても飛び込んで来てくれて。私を……」


 氷室さんが綺麗な青い瞳を潤ませながら俺を見る。


「私を助けに来てくれて。私の所に来てくれて」


 涙が零れる。


「泣かないで下さいよ」

「無理だな。溢れてくる。【人狼の塒】を出るまでも、出て救護院に着くまでも。お前が無事だと分かっても。溢れてくるんだ」

「ずっと、泣いてなかったんですね」

「……! ああ、ずっと泣けなかった。泣いてはいけなかった。泣きたくなかった。泣いたら、私は【女帝】でなくなるから」

「泣きたいときは泣いた方が身体にいいらしいですよ」

「だろうな。今、凄く満ち足りた気分だ」

「『泣けばいいと思うよ』」

「誰の、言葉だ……?」

「アニメのパクリです」

「変なヤツだ」

「変なヤツなんです。変なヤツだから、氷室さんもいつもと違うことしても変なヤツは変だと思いませんよ」

「じゃあ、泣く」

「レイラさんのしたいように」


 泣きたくても泣けないことが多すぎる。強い人には。いや、弱くて強い人には。

 俺は氷室さんの背中を出来るだけやさしくポンポンと叩きながら、氷室さんが泣き止むまでじっとしていた。


 それから、氷室さんはたくさん話してくれた。


「学生の頃、な、流石にこの髪色や目は目立つ。それで起きたのがいじめというヤツだ。けれど、私にも意地があった。とにかく身体も心も頭も鍛えた。あからさまないじめはなくなった。が、誰も近寄らなくなった。完全な異物扱いだったよ。でも、私は負けたくなかった。その頃だ。【雪女】というスキルが覚醒し、私は【モノノフ】に誘われた」


 氷室さんは淡々と語る。

 出来るだけ、自分の心を揺らさないように、淡々と。


「私は、逃げたんだ。その時は微塵も思ってなかったがな。私は、奴らを見返すつもりだった。だが、だが……!」


 氷室さんの眉間に皺が寄せられる。

 俺はこの人の話を聞きたい。けど、こうじゃないんだ。

 俺はこの人の……。


「氷室さん、もしいやじゃなかったらなんですけど」

「なんだ?」

「友達に話しかける感じで話してみてくれません? よかったらですけど」


 青い瞳が大きく見開かれ、輝く宝石のように見えた。


「……! いい、のか?」

「いや、よかったらですけどって」

「お前は……変だな。変にも程がある。わ、わかった。……あ、あのね」

「ぶふっ」

「わ、笑うな!」

「はい、だうとー。そこは『笑わないでよ!』のほうがそれっぽいっす」


 頬を膨らませる氷室さん。


「……わかった。代わりに、夏輝も友達のつもりでしゃべってよ?」

「ぐふっ」

「わ、笑わないでよ!」


 いや、かわいすぎてダメージが。


 それから俺達はゆっくり話し始めた。

 それは修学旅行の夜のように。

 友達だけのお泊まり会のように。

 ただただ、静かにおしゃべりを続けた。


 なので、関係者各位の皆様、鬼のようにMINEを送ってくるのをやめなさい。私達は健全です。

 ラ! と、パンイチ! ですが、健全です。

 300件超えてます。やめなさい。


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