第45話 変態、ツッコミされまくって休憩オワタ

「さて、ほんじゃあいこうか」


 俺はCチームのみんなに声を掛けて、動き始める。


「フォーメーションは?」


 眼鏡が気合の入ったメガクイを見せながら言ってくる。

 Aチーム東江さんたちは補助回復を囲んだ台形。

 Bチームは前衛後衛で三対三に分かれ二列で並んだ隊形だった。


「じゃあ、眼鏡最初先頭で」

「ぼ、僕が先頭?!」


 眼鏡が眼鏡をずり落とす。アイデンティティの喪失。


「ん? どうした?」

「どうした……って? 僕は、後衛だぞ」

「まあまあ、騙されたと思って」

「まあ、夏輝がそういうのなら、仕方ないな。僕が前衛を務めよう」

「あ、いや、後衛な」

「どっちだよ!」


 照れメガクイからの怒りメガクイ。こうしてみるとメガクイって一杯種類があるんだなあ。


「更科君、早めに出発してね?」


 後方から可愛いメガクイこと、真宵蓮さんが眼鏡をクイしながら言ってくる。

 色んなメガクイが世の中には、あるんだなあ。なつを。


「了解です。んで、ジュリさん、眼鏡の後ろで、その次、アホ、アホの後ろに蓮さん入ってもらって、俺、愛さん、秋菜のドラク○スタイルでいきましょう。」


 偉く縦長に伸びた陣形の出来上がり。


「細っ! これじゃあ」

「うどんみたい」

「ああ……いや! そんなこと思っとらんきん!」


 東江さんがプイと口をとがらせながらそっぽを向く。

 かわいいなあ、変態なんだろうなぁ。


「こんな細くて奇襲に対応できるの?」

「まあまあ、たぶん?」

「たぶっ……!」

「東江……今はCの実践だ。黙ってみていなさい」


 なおも食いついてくる東江さんを氷室さんが止める。

 ありがとう氷室さん。にやりとして襟からチラリと鎖骨見せないで氷室さん。


「ほんじゃあ、行こうか。慎重にゆっくり冒険して行ってね!!!」


 全員が俺のゆっくり夏輝顔を無視して進んでいく。それでいい。

 迷わず行けよ。行けば分かるさ。そりゃそうさ。


「夏輝、前方から魔力が凄い早さで接近」


 眼鏡がシリアスメガクイで報告。


「眼鏡、左に流れろ。ジュリさん前衛に、アホ待機、愛さん、右前方に」


 俺の指示でブイに近い形で、人狼を待ち構える。そして、ボッコボコ。


「ふハハハハ! オれが一番活躍シてご褒美モラう!」

「夏輝、見ててね! 私の思い込めた一撃!」

「おれだって、モテたい!」


 ジュリさん、愛さんの強烈な一撃を左右からモロに喰らい、その上でアホの一突き。途中何言ってるかはよくわかんなかったです。

 汝はなりやと聞く暇もなく人狼終了。


「アホ、どうだった?」

「ジュリちゃんの後ろ姿がバッチリ見えてた!」

「よし、ジュリさん、ちょっとズレた方が良い。アホの視界から逃げた方が良い」

「あたし、もっと夏輝を見つめていてあげたいんだけど」

「お断りします(ニッコリ)」

「あに、この女デカいからあにが見えない」

「わややん!」


 ガチャつく俺達に東江さんがツッコむ。

 もしかして……あなたは、俺が探し求めていたツッコミ(つまりはまともな人)なのか……?

 汝はツッコミなりや? なのか?


「東江、黙ってみていろ」


 いつもなら黙って見せてくる肌色女こと、氷室さんが窘める。

 確かに、まだ、分からない。ツッコミが変態でないと誰が決めた。


 ぺこ○みたいにツッコミなんだけどボケでもあるように、ツッコミだけど変態でもあるかもしれない。ツッコミだけど変態ってワードは何か淫靡な感じがするぜ。


「しかし、あんなすぐに作ったフォーメーションを崩して……」


 変態ツッコミ東江さんが臆せず突っ込んでいる。

 ふふふ、精々ツッコミ続けてボロを出すがいいわ。


 俺は、東江さんを泳がせることに決め、進軍を続ける。


「じゃあ、眼鏡と秋菜交代で」

「もう代えるんかい!」


「アホそろそろ動け、愛さん真ん中じっとしてて」

「いや、そうさせてたんあんたやん!」


「ジュリさん、素敵です」

「褒めただけかい!」


「秋菜と眼鏡交代で」

「また交代するんかい!」


「じゃあ、休憩で」

「休憩早いな!」


「アホ動きすぎ、愛さんと交代」

「いや、動け言うたんあんたやきん!」


「ジュリさん、ゆっくりしててね!!!」

「いや、一番丸顔で似合うけれども!」


「眼鏡と秋菜交代で」

「またまた交代するんかい!」


「じゃあ、休憩で」

「休憩多いな!」


 ツッコミと言えば眼鏡という俺の概念をぶち壊す東江さんにスタンディングオベーション(脳内)。

 ウチの眼鏡と眼鏡さんはツッコまないタイプの眼鏡だったから目から鱗でしたわ。


「東江」

「は! ……す、すみません。ですが……彼のチームはまだ全然モンスターを倒せていないのに……休憩をとっていて」

「だそうだが、更科。何か意見は?」

「え? モンスター倒さなきゃ休憩しちゃいけないんですか?」


 俺は新ルールが追加されていたのか思い、聞き返す。


「い、いや、そうではないけど……」


 よかった。公式はいつだってちゃんと伝わるようにルール改正を伝えてほしい。

 なんでもそうだ。マジルール難解。頑張って運営。ユーザーも頑張るから。

 大体がめっちゃ分かりにくい。解説班のみんないつもありがとう。


「眼鏡と秋菜は、索敵で常に魔力使ってますからこまめに交代する必要があるし、真ん中三人だって、索敵組信頼しているとはいえ集中力はどこかで切れますしね」


 継戦能力の重要さは昔、臨時パーティーで加わった時に耳にタコが出来るぐらい聞かされた。まあ、実際やろうと思えば【変態】で出来るけど。


「じゃ、じゃあ、あの細長いドラク○みたいな隊列は……」

「ああ、ウチの索敵組は優秀なんで横からの奇襲の心配はないでしょうから視界さえ確保できれば前と後ろで役割が分けといた方が心理的負担が減るかと思いまして。あとは、微妙にずらして微調整はしてましたけど」

「…………」


 ヤバい。


 俺の説明に、東江さんのツッコミがなくなった。

 と、まあ、冗談はこの位にして、俺は、戦闘をいかに楽に終わらせられるかが重要だと思っている。その中で、個々の能力を見せることが出来ればいいし、出来たと思う。

 眼鏡の看破、ジュリさんのヘイトコントロール、アホのオールレンジ戦闘技術、愛さんの機動力&破壊力、秋菜のフォローの凄さ。どれも目立ってはないが、確実に、誰も傷つくことなく、モンスターを倒すことが出来た。っていうか、ウチのメンバーマジすげえだろ。


 みんな、びっくりしていってね!


 という俺の思いも無視されびっくり顔の俺も無視され、氷室さんが東江さんに話しかける。


「東江、お前の強さは大したものだ。同世代ではトップクラスだろう。だが、私がここで君に学んで欲しいのは、実際に戦い続ける、生き残り続ける方法だ。まあ、お前はもう既に自分だけはそこに辿り着けているのだろうが。気付いているか? Cチームは疲労を見せることなく、お前たちの倍以上進んでいる。そして、時間もそこまで大きく違いはない」

「……!!」

「ダンジョンアタックは常に己の心と戦い続ける。直接モンスターとの戦い以外という意味で。お前はモンスターと戦うのはうまかった。だが、まだ、己とうまく戦えていない。それを理解して欲しい」

「……はい」


 東江さんが拳を握りしめながら小さく頷く。

 よかった。


 東江さんは多分変態じゃない。すごくちゃんと話を聞いている。よかった。本当によかった。


 だが、すっげー嫌そうな顔で俺にさっきの行動で謎だった部分を質問してくるのやめてほしい。休憩中なのに時間も精神もゴリゴリ削られてんだワ。


 そして、あっという間に休憩終了。

 誰もゆっくりしてってね、言ってくれないってね。

 まあ、とはいえ、危なげなくここまで来てあとはダンジョン核付近にいるであろうボスを倒せば完了。異常なし! 確認できる新規変態なし! 平和である。 


「夏輝」


 眼鏡お前の距離感は平和でないのである。ホラー映画の距離感じゃねえか。しかも、囁くな。

 眼鏡ASMRは是非蓮さんでお願いします。


「なんだよ?」


 眼鏡ASMRを堪能させられ、ダメージを負った俺は、すぐに離脱し、素敵な景色を眺め、心をリフレッシュさせ、氷室さんのところに向かう。


「氷室さん」

「なんだ、見るか?」

「TPO考えろ。それより異常事態です」


 いや、あんたも大分異常ではあるけれど。


「ダンジョン核付近に大量の魔物がいるそうです。ボス以外の」

「なに?」


 氷室さんの表情が変わる。


「ダンジョン核付近です。数は……」

「さらしなさん」


 ジュリちゃんがやってくる。ジュリちゃんには、気配察知重視の獣化を行ってもらいギリギリのところにアホの持ってた映像カメラを仕掛けてもらった。


 スマホに接続し、カメラの映像を確認する。


「ふむ、これは……」

「うん、ヤバいと思う。お姉ちゃん」

「なんでやねん」


 全然ゆっくり出来ねえじゃねえかよ。


 映像には、大量の人狼がボスらしき個体と一緒にダンジョン核付近でわらわらと群れていた。


 道理で楽だと思ったよ。異常イレギュラーじゃねえか。

 しかも、モンスターの異常者イレギュラーじゃなくて、ダンジョンそのものの異常イレギュラーなんて。

 そうか、今回の変態はオメーか、ダンジョン。

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