俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
第37話 変態、最強になって最弱オワタ・前編
第37話 変態、最強になって最弱オワタ・前編
「夏輝と冬輝は名前と中身が逆だねえ」
母、四季は笑いながらそう言った。
目の前にはそっくりな顔で、そばとうどんをそれぞれ食べている双子の兄弟。
そばが好きで明るくて陽気な弟、冬輝。
うどんが好きで物静かで大人しい兄、夏輝。
双子の兄弟はよく逆に間違われた。
外で遊ぶのが好きでアニメのギャグを叫んでいた弟、冬輝。
家で本を読むのが好きでアニメを静かに見ていた兄、夏輝。
「確かに、俺の方が夏っぽくて」
「僕の方が冬っぽいかも」
そっくりの顔の真逆の中身の二人は合わせ鏡のように笑った。
そして、ごはんを食べ終わると、冬輝は外へ飛び出し、僕は家の中で今日読む本を探した。
そうしていると妹がやってきた。
「おにいちゃん、どう?」
「ん? うん、上手に描けたね」
小さなツインテールの少女は、僕に絵を見せてくる。
それは家族6人、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、僕、冬輝、秋菜の絵。
みんな楽しそうに笑っている。
妹は、すごく小さい頃から喋るのが得意じゃなくて、特に男の子相手だと震えて喋れなくなる子だった。
自分だけ変だと妹は落ち込み、みんなと距離を取るようになった。家族とも。冬輝とも、僕とも。妹はいつもおうちで絵を描いていた。一人でも楽しそうに。
冬輝は気にしてなかった。でも、僕はそれが嫌だった。
一人でも楽しいならそれでもいい。
でも、楽しそうに、見えるように、彼女はそう振舞っているように見えた。
僕には分かった。だから、僕は小さい妹に頑張って話しかけた。
「上手だね」
僕は妹に話しかける。
必死に絵を描くことに集中しようとしていたのか、妹はビクッと肩を震わせ、こちらを見ようとしない。けど、僕は諦めない。
「その赤い服は僕かな?」
ハッとこちらを振り向き、慌てて絵の方に向き直る。
そして……しばらく間があって、妹はこくりと頷いた。
「黒い服がお姉ちゃんで、ピンクが秋菜で、青が冬輝で、黄色い二人がお父さんとお母さんでしょ」
僕が一人一人当てていくと妹の耳はどんどん赤くなっていった。
「上手だね」
僕がもう一度そう言うと妹は泣き出した。
そして、僕に抱きつき、寝ちゃうまで泣き続けた。
妹の身体は熱くて今にも溶けてしまうそうで僕はぎゅっと抱きしめた。
それから、彼女は僕に絵を見せてくるようになった。
そして、色んなものを見つけては僕に絵で教えてくれた。
小学生に上がると妹は母の影響でカメラに興味を持った。
母親のカメラを借りて、写真を撮っては僕に見せてくれた。
妹の写真は家族の写真が多かった。
お父さん、お母さん、姉さん、僕、冬輝、そして、秋菜。
色んな感情の色んな顔を僕に見せてくれた。
僕と冬輝が学校から帰ってきた途端、妹が、泣き顔の姉の画像を見せてきた時もあった。
そして、彼女は僕の袖を掴む。
僕は、その掴んだ手を外して、頭を撫でてあげる。
妹は、自分の言葉をあまり話さない。
多分、彼女の感情を表す言葉が彼女の中にないからだと思う。
だから、写真で僕に伝えてくれた。
たすけてあげてって。
僕達は、僕と冬輝は姉の所に行った。二人で姉を助けるために。
「わたしって、変、かなあ?」
中学生の姉は俯きながら呟いた。
「姉ちゃんは変じゃない! 変っていうのはポ○子とピ○美みたいなのを言うんだよ!」
冬輝はいつだってすぐに動ける。そして、みんなを明るくする。
冬輝が遮るように叫んだ言葉に姉が首を傾げた。
姉はポ○テピ○ックを履修していなかった。
「あ、の、魔人○ゥとか○ッコロみたいなの、とか」
僕が別のたとえを出してみる。姉も知っているだろうアニメで。
並べてごめんなさい、○山先生。でも、例えが思い浮かばなかった。
「そういうんじゃないの」
そういうんじゃなかったらしい。
姉は、その日泣いていた。
妹がそれを知らせてくれて、僕達、僕と冬輝は姉のところを訪れた。
姉はゆっくりと何があったかを話してくれた。
姉は、活発で男勝りな性格だった。
小さい頃はガキ大将で、誰よりも遊びも強くてうまくて、虫取りやかけっこなんかでも一番、卑怯なことが大嫌いでよく上級生を懲らしめてた。
そんな姉は、どんどん成長し、どんどん美しくなって、どんどん女性らしくなっていった。
けれど、運動や外での遊びが大好きで、妹が僕とおままごとする以外の時は、冬輝と同じでほとんど家にはいない位だった。
なのに、勉強は出来て生徒会長もやっていた姉は僕の自慢だった。
姉はいつも笑っていた。その頃はまだ。いつしか姉は違和感を感じ始めたらしい。
女友達とは話が合わず、男友達は徐々に姉と遊ぶことを避け始めた。
けれど、誰もが自分を賞賛する。認める。笑顔を向けてくる。
でも、友達がいない。そんな気がしたのだそうだ。
カードバトルしてくれる友人も、虫取りに一緒に行ってくれる仲間も、拳を交わすような親友も。
冬輝も姉を意識し始めていたのだろう。姉と遊ぶことが少なくなっていった気がする。
僕は、家にいてばかりだったし、姉と遊ぶことなんて珍しかったから照れたけど嫌がりはしなかったと思う。
「すごいけど、ほんと変。春菜って」
姉は入ろうとした生徒会長室の前で聞いたそうだ。
声の主は、姉が最も信頼している副会長。
姉は急に自分だけ知らない世界に連れてこられたような気がしたそうだ。
震える手を押さえ扉を開けると、彼女はいつもと変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
陰口を言う子達も、自分を厭らしい目で見てくる男子達も知っている。
目の前のこの子は『私』を見ているのだろうか見ていないのだろうか。
『私』とは誰なんだろうか? 何者なんだろうか?
姉はそんなことをぼんやり考えながら帰り、静かな玄関で少しだけ泣いたそうだ。
私は、ひとりだ。と。
妹が僕に伝える為に慌てて写真を撮り、僕に伝え、僕と冬輝が姉の所に来るまで。
姉はずっと考えてたそうだ。
「わたしは、変、かなあ?」
姉が僕に問いかけてくる。
僕は少し迷って口を開いた。
「変だと思う」
冬輝は驚いてこっちを見ていた。
姉も目を見開き、目じりに涙を浮かべながら悲しそうに笑った。
「僕も変」
「え?」
姉は再び目を見開く。冬輝も同じくらい目を見開いていたと思う。
「変……! 変! 姉さんが変なら、みんな変だよ! 父さんも母さんも変! 逆に聞くよ! 変じゃないのは誰!?」
「え、と……」
姉さんが戸惑う。
僕は、冬輝を指さし変と叫ぶ。更に自分も指さしながら変と叫ぶ。
冬輝も指さしながら変と叫ぶ。
変の大合唱が始まる。
妹も部屋の外で「へん! へん!」と叫んでいる。
「変だよ! みんな変だ! 変なひとばっかりだ! 違う!?」
多分、僕はわけのわからないことを言っていたんだと思う。
思えば、変を肯定したい気持ちと、姉さんを傷つけた人が変だという気持ちがごちゃまぜになっていて、冷静に聞けばこれこそまさに変な言葉だっただろう。
だけど、多分姉さんには伝わっていた。僕の伝えたいことが。勿論、冬輝にも。
「みんな、へん、かも」
姉さんは、わらった。わらってくれた。
変なわらいかただった。ないてわらっていた。
そして、涙を拭うと、僕に向かって聞いてくる。
「わたしって変?」
「「変!」」
僕と冬輝は声を揃えて叫んだ。
「変なわたしは嫌い?」
僕は答えに詰まった。
冬輝はこっちを見ている。こっち見んな。
好きと言う言葉が出てこない。嫌いじゃない。でも、出てこない。
僕もまた変なのかもしれない。好きなのに好きと言えないのは。
そして、僅かな間が空き、姉は悪戯っぽく笑い、ドアを開けた。
秋菜は姉に断りなく泣いている写真を見せたことを悪いことだと思ったのか部屋の外でドア越しに耳を澄ませていた。
姉が笑って部屋を出てくると妹が僕に抱きついてきた。
そして、写真を撮ってくれた。
姉と僕達双子が笑っている写真。
ありがとうって言いたいのだと思った。
「ありがと」
妹が喋った。
いつも普段話をしないわけじゃない。
でも、感情を伝えようとすると止まってしまう妹が感謝の言葉を言ってくれた。
僕は妹に抱きついてわんわん泣いた。
身体が熱かった。でも、溶けてたまるか、消えてしまうもんかと思った。
妹は笑っていた。僕は写真を撮るのを忘れていたけれど、その笑顔は絶対に忘れないだろう。姉も、冬輝もこっちを見て笑っていた。
そして、僕達はそれぞれ成長していった。
姉は、生徒会長を務めあげ、更に、固有スキル【蒐集家】に覚醒し、特例冒険者になり、その後、御剣学園へと通い始める。
妹は、少しずつ人に慣れ始め、キャラを演じることを覚え、【念者】が覚醒してからは、より自信を持つようになり、人気者になっていった。
冬輝は相変わらず、社交的で、誰とでも分け隔てなく付き合い、隣のクラスでアニメの話で大騒ぎして盛り上がっているのをよく見かけた。
そして、僕は、固有スキル【変態】に目覚めた。
その日、中身は真逆でも顔はそっくりなはずで互いに分かり合っているはずの双子の弟が、冬輝が、僕とは全く似ても似つかないどこかの誰かに見えた気がした。
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