第36話 変態、高校デビュー曝されてテンションオワタ

 変態妄想変態お嬢様にはお帰り頂いた。




「も、申し訳ございません! 一日千秋の思いが爆発してしまいまして……」


 とは変態妄想変態お嬢様の談。俺の普通の美少女お嬢様を返して!


「一度爆発させたので、次からは十分の一くらいには」


 それでも一日百秋だよね。百秋ってなんだよ。

 変態妄想変態暴走お嬢様だとNGワードが出ると横道に頭〇字D張りにドリフトしていくからもうコーナー3つで失神しそうだったので、後ろに控えていた執事さんとお話しさせていただいた。


 まず、この変態妄想変態尺取お嬢様は『冒険の御剣』でお馴染みの学校としては珍しい冒険者専門コースがあるあの御剣学園の理事長の娘らしい。


 で、この変態妄想変態二千字お嬢様は昔から『狂気の仮面道化クレイジークラウン』の大ファンで様々な妄想をした結果、【変態】というスキルなのだと決めつけ。

 まさかのそれが大正解だったわけだが、そこにSNSから流れる固有スキル【変態】の更科夏輝君を変態妄想変態原稿用紙5枚分お嬢様が発見。

 妄想変態妄想『カクヨ〇』なら短編一本分でもおかしくないぞお嬢様は複数の調査会社に俺の調査を依頼。やっててよかったマセコムにより直接調べられることはなかったが俺についての様々な情報を人伝いに入手。


 更にそこに更科夏輝を御剣学園にという話が出ていることを知った妄想変態妄想読者の皆様本当に申し訳ありませんでしたごめんなさいお嬢様は勝手に動き、接触、短編、謝罪と相成ったわけだ。


「なるほど……」

「改めて、更科夏輝様、御剣学園へお越しくださいませんか?(ニッコリ)」

「断ります(ニッコリ)」




 という流れでお帰り頂いた。


「でも、夏輝よかったのか?」


 距離感とセリフの文字数を足して割ってほしいゼロ距離委員長がメガクイしながら話しかけてくる。いや、ダメだ。足して割ったら千文字喋る一メートル以内のモンスターが生まれてしまう。


「んあ?」

「さっき……さっき? 少し前に古巣も言っていたが、今のうちよりはマトモな学生生活が送れるのではないか」

「んー、まあ、でもなあ」

「なんだ、何か気になることが?」

「いやー、俺、昔から家族とばかり過ごしてたから友達作るの下手なんだよな。イチから作るのは正直しんどい」

「……!」

「お前らが来るなら考えるわー、あはは」

「御剣は私立だから手続きさえ踏めばすぐにいけるのでは」

「おー、それにあそことフールズウチはガッツリ絡んでるから、普通に行けんじゃね?」


 行動が早いな、君たち。日本の政治家に見習わせたいよ。知らんけど。


「まあ、それはともかく、ひとまずは……こっちに集中しようぜ」

「そうだね」「ういー」


 俺たちの目の前にあるのはビル街で悪目立ちするファンタジー感溢れる建物。

 『ダンジョン協会』と書かれた趣あるレンガ造りの建物の入り口に向かう。

 自動ドアだった。台無し。


 台無し自動ドアをくぐると、無理やりファンタジー色くっつけました感がすごいエントランスに入る。全体的に木や石のデザインのインテリアが並んでいるんだけど、パソコンや検索機など機械も普通に置かれてあるし、大体の人が普通の格好だから違和感しかない。

 受付の人の皮のドレスみたいのはもうコスプレでしかない。


「すいません、ダンジョン庁の氷室さんの紹介で来た更科とそのお供ですが」

「あ、はい! お待ちしておりました! 伺っております。それでは、こちらの書類に記入を、その後はロッカールームで準備していただき、出来次第、地下トレーニングルームへお越しください」

「はい、ありがとうございます!」


 真面目そうなお姉さんが真面目そうに答えてくれたがもう俺は誰も信じない。

 この人も油断してたら、一話分くらいの文字数しゃべりだすんだ!

 

 書類の記入をさっさと終わらせ、ロッカールームに。

 各々が着替えながら準備を整える。眼鏡チラチラこっち見んな。


「し、しかし、本当に僕も入れてもらってよかったのか?」

「あん?」

「いや、武藤さんや夏輝の妹さんと一緒にダンジョン研修を行って、明らかに僕は実力不足だと気づいたんだ。なのに、夏輝は僕をパーティーに誘ってくれた」


 そう、俺はアホと眼鏡を俺のパーティーに誘った。

 氷室さんの選抜した育成組のメンバーは基本ガチだ。だが、俺はそこまでの活動をするつもりがない。ならば、気の許せるメンバーでということで氷室さんからもオーケーをもらった。


「【看破】スキルは正直有能すぎる。まあ、委員長が、ガチで攻略をしたくなってきたら脱退すればいい。俺の目的は飽くまで平穏な暮らしだ」

「……気を悪くしたらすまない。狂気の仮面道化クレイジークラウンに何があったんだ?」

「ん?」

「僕は昔から勉強漬けの毎日だった。誰に言われたわけでもなく自分で選んだ。勉強すれば、将来は安定するだろうし、勉強すれば波はあっても成果は出る。僕にとって勉強は現実的な心の支えで……そして、くれくら動画は夢だった」


 いつもより多めにメガクイする眼鏡が一人語りを始める。

 それ、二千字超えない?


「楽しそうに冒険する君に夢中になった。勉強していい会社に入って趣味で冒険するのが僕の現実的な夢だった。でも、君は……」

「まあまあ、いいんちょ。一旦ストップ。あまり待たせるのよくないぜ」


 アホがカットインしてくる。グッジョブだ。


「そうだな、まあ……いつか話すよ。とりあえず、コレ終わらせて特例冒険者になろうぜ」


 俺は、古巣から借りたジャージみたいな服を着終わるとロッカールームを後にする。


「青、か……」


 青いジャージに心がざわつく。まだ、青は慣れない。


 特例冒険者試験は、通常の試験と同じく、筆記、実技・探索、実技・戦闘の三項目に分かれ、平均80点以上であれば合格となる。

 筆記は正直楽勝だった。


「いいんちょ、どうだった?」

「自己採点では90はいったと思う」

「伊達に眼鏡かけてねえな」

「夏輝は?」

「ああ、コイツなら大丈夫だろ。目立ちたくないから狙って平均点とるっていうバカやるような奴だ」

「馬鹿とはなんだアホ。まあ、85はとったよ。ギリ狙ってケアレスミスで不合格は洒落にならん。アホは?」

「ばっちり89点」

「その心は?」

「さっきの受付のお姉さんのパンツの色に願いを込めて」

ハク一択じゃねーか。大体パンツの色そんなに語呂合わせでいけねーだろ!」

「74点とかあるだろ!」

「なしってノー〇ンじゃねえか! あとそれじゃ不合格だろアホ!」

「君達は……変態だな」

「「どーも」」


 実技・探索は、地下三階に及ぶ仮想ダンジョン攻略だが、圧倒的だった。

 俺の各モンスター部分変態による感覚強化、アホの魔法道具によるサポート、そしてなによりやはり眼鏡の看破はすごすぎた。


「【看破】ってすごすぎじゃね?」

「そうでもないさ、【鑑定】と違い一点集中型だし、戦闘では一長一短、まあ、使い方次第だから合格したらこれから頑張るさ」

「【看破】ってさ、服の中身とかもわかるのか……?」

「おいアホ、天才か」

「飽くまで魔力の流れや悪意の質を読むのが【看破】だからね」

「魔力を流せるパンティーを売り出せば何履いてるかわかるってことじゃねーか!?」

「おいアホ、お前もしかして相対性理論のかしこ人か!?」

「君たちは……変態だな」

「「えへへ……」」


 40分の休憩を挟み、戦闘試験に入る。

 なので、俺達は併設の食堂でメシ食うことにした。


「アホは何食うんだ?」

「この、『勇者の魔物鍋』ってどう思う?」

「ダメだと思う。勇者の意味が多分違うぞ」

「でも……! おれはそこにボタンがあるからで押しちゃう男なんだよ!」


 おい、アホ。とんだ迷惑野郎じゃねえか。まあ、後悔するがいいさ。

 だって、ナベ青いもん。ナニコレ、スライム入ってんの?


「夏輝は何にするんだ?」

「うどん」

「うどん? そばじゃないのか?」

「なんでだよ」

「だって、君、一年の時の文化祭でやった執事喫茶のプロフィールにはそばって書いてたじゃないか」

「なんで覚えてんの?」

「友達を知るにはまずは情報収集からだと思ってね。みんなのを暗記してるよ」

「怖っ! あー、まあ、そばはな、好きな食べ物っつーか、好きになりたい食べ物なんだわ。今日は、ちょっと……気分じゃない」

「僕もうどんにしよう。そして、そばを好きになろう」

「っていうか、執事喫茶のことなんてよく覚えてたな。あの日の記憶が俺なくて」

「ああ……君、黒服に拉致されてたからな。札束を置いて風のように去っていったから何も出来なかった、翌日無事に学校に来て良かったよ」


 ん? 黒服? なんで? なんで俺の家? 姉さん? 秋菜? う! 頭が!


「オレ、ウドン、クウ」

「だ、大丈夫か!? 夏輝! おい、正直! 夏輝が!」

「オレ、ナベ、コワイ」

「正直―!!!」


 ※ナベはメシマズ耐性のある俺が残さず食べました。


 そして、戦闘試験会場に足を踏み入れるこんらん状態の三人。

 戦闘試験は、単純明快。派遣された上級冒険者である試験官(ハンデ付)に勝つ、もしくは、規定の行動によるポイントを一定数稼ぐこと。

 俺は狂気の仮面道化クレイジークラウンであることをバレないように戦わねばならない。正直戦闘勘もまだ戻りきっていない。そんな状態で上級冒険者相手にポイントとることが可能なのか不安が過る。風騎士みたいなやつは少数だろうし。

 あとは試験官がいい人であることを祈るのみ。


「では、更科様のチームの対戦相手は……」

「はっはっは! ルーキーたちよかかってこい! エリートコース、ダンジョン庁からやってきた千原羅王が……!」


 瞬殺でした。

 とっても(心が痛まなくて都合が)いい人でした。


「おつかれ、夏輝」


 メガクイ眼鏡がタオルを持ってくる。それ、パッキングラベリングしないよね?


「やみのま! 夏輝」

「勝利とは……眩しい太陽ね……目からエナドリすっげーデテマス!」


 眼鏡がきょとんとしている。多々買いに挑もうぜ。


「冬輝!」


 突如後ろから抱き着かれる。この感触! 残念! 男だ!


「よかった! 生きてたんだな冬輝! ……って」

「……久しぶり、遠川くん。僕、冬輝じゃないよ。夏輝、兄の方」

「……更科。そ、そっか。テンションとかすげーそれっぽかったから、服もアイツが青で、お前が赤だったし……いや、お前だったんだな……冬輝は、まだ……?」

「うん……遠川君は? 特例冒険者に? 冬輝を?」

「ああ……ダチだしな」

「そっか……」

「まあなんだ、お互い、頑張ろうぜ」

「……うん、じゃあ、また」


 遠川が去っていく。遠川SNSやってないのか、時代劇大好き剣道部だったしな。関係ねえか。

 二人が俺を見ている。

 あー、やだやだ高校デビューがバレちゃったじゃないか。

 いや、そっちじゃねえか。

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