第33話 変態、エセイケメン見せつけられて傍観者オワタ

「以上、早川進吾さんのお話でした! 皆さん、早川さんに拍手を~!」


 一部の女生徒からの強烈な拍手を浴びながら、風騎士こと、早川進吾さんは爽やかに手を振っている。


 今日は、授業が少なくてうれしいな! と思ってたら、OBOGの話を聞こうという講演会でしためんどいな!


 ウチのOBだったんかいワレ! こと、早川進吾さんは、動画配信もしており、それなりの人気ある冒険者だったので、一部の女生徒の熱烈な要望を受け、開催が決まったとのこと。

 動画導入のちょい斜め決め顔が鼻につく冒険者こと、早川進吾さんは、冒険者業界の今、そして、これから、冒険者の大変さや喜びを時折ダンジョンジョークを交えながら話してくれた。

 『私が冒険者になったら一緒に冒険してくれますか』という女生徒の問いかけに、『多分断ります。あなたが気になって集中できない気がするからね』という回答は非常に男子諸君の心の舌打ちビートボックスが聞こえた気がします。

 決めワード前にチョイ溜めする時間泥棒先輩こと、早川進吾さんは、話し終わったはずなのに手を振り続けていて一向にステージから降りる様子がない。どうしたおまえスペランカ〇か?


「それでは、最後に早川さんのご厚意で、B級冒険者である早川さんとゲームをさせていただきたいと思います!」


 一部女子のキャー。ほとんど男子の心の中のぎゃー。


「風騎士と呼ばれる早川さんとステージ上で鬼ごっこをしてもらいます。早川さんをタッチすることが出来たら、なんと景品まで貰えちゃいます! 景品は、早川さんから発表を」

「はい、今回僕が用意させていただいた景品は、僕たち【疾風怒濤】の動画でもベスト5に入る『【青の塔】攻略」のボス戦で手に入れた……【青の指輪】です」


 一部女子の絶叫。いやん、鼓膜やぶれちゃう。


「な、なんだい、この騒ぎは!? 古巣君!」

「あ~、まあ、イケメンから指輪貰えるって聞いたらこうなんじゃね?」

「そう、なのか?」


 眼鏡をクイとしてこちらを見る委員長。


「イヤ、オレイケメン、ニガテ」

「そうなのか!?」


 眼鏡を輝かせる委員長。いや、なんで片言とかツッコんでよ。


「お、おい、アホ……委員長って、アッチなの?」

「いや、多分だけど……今まで友達もいなかったみたいだし距離がメチャクチャなんじゃね……っていうか、なんで片言だよ」

「さすあほ」


 一部の女生徒たちが、暴徒と化し始めている。

 だが、さすイケ。立てた指を口元に当てて沈静化。ちっっっっ!


 そして、ゲームが始まる。

 おめえそれがかっこいいって通用するのは〇ムタクだけだぞ勘違い野郎こと、早川進吾さんを追う女生徒。

 準備されたズボンを履いているためひらめくスカートも意味を成しませんが、キャーキャー楽しそうに笑う女の子の顔と揺れる一部は目の保養ですありがとうございます。


「意外と更科君も女子に興味があるんだな」


 眼鏡をクイしながら委員長が聞いてくる。やめろよ、なんか、誤解しちゃうだろ……(照)


「いや、普通に普通の女子には興味あるよ。普通の女子には」

「そうか……普通の『女子』には、か」


 眼鏡をクイしながら委員長が呟いている。やめろよ、なんか、誤解されちゃうだろ……(恐)

 強調する部分が違うよ、普通の、を強調しろ。


「お前の周りマジで美女・美少女だらけなのにな」

「過ぎたるは及ばざるがごとしという言葉を俺は人生を通じて学んでいる」


 適度に愛されるってマジで重要なことだと思うんだ。

 あの今追いかけてる女子もかわいいのにちょっと顔がマジすぎて、一年の男子達が引いてる。


「全然お前のお姉さんとか見てるとそうは思えないんだけどな」

「俺がいないと正常だよ」


 ほんと申し訳ない。なんでこうなった。動画とかで見る姉はマジで凛々しく美しい。

 姉さんの話をしている内に数人の女子が終了。

 捕まえられなかったが記念品としてなんか貰って喜んでいた。よかったね。


「あ、そういやさ、お前転校すんの?」

「何!? 本当か!? 更科君!」

「ん? いや、興奮しすぎ……おい、アホなんでそんな話……」

「いや、だって……この前の【女帝】の動画で来る連中、みんな【ミツルギ】だろ? じゃあ、夏輝もかなって」

「夏輝もなのか!?」


 おい、どさくさにまぎれて下の名前呼びに移行したな眼鏡、まあ、いいけど。


 ステージには男子が数名団体さんで登場。

 泣いたり、怒りの四つ角を浮かべたりしながら登場。

 多分、あの人たち……さっきの女子たちの事……好きだったんだろうな……!


「いや、別に俺は地元だからこっからでも問題ないし」

「だってさ、芸能の堀〇、冒険の御剣っていうだろ? で、ガードもこんな普通の高校よりもかたいだろうしさ」


 まあ、確かに。この学校に息苦しさも感じているし、いい機会なのかもしれない。

 ぶっちゃけ、氷室さんからは提案された。でも、悩む。


「ん? なんだおれの顔に鼻くそでもついてるか?」

「僕を見てなんだい?!」


 ついてる可能性あんのかよアホ、眼鏡をクイクイするな眼鏡それしっぽか何かなの?

 まあ、ぶっちゃけ、妹のことを偉そうに言えるほど俺は友達がいるわけじゃない。

 固有スキルでいじけてたこともあって、なんでも話せる相手が今はほとんどいない。

 コイツらは、なんというかアホだから付き合いやすいのだ。


 ステージ上、失恋ボーイズの健闘虚しく全員敗北。

 記念品貰ってた……。半泣きだった。やばい俺も泣きそう。

 男同士肩寄せ合い泣いている。こういう青春でいいのかもしれないと俺は思った。


 そんな汗くさい青春男子を同情するような目で見ている、その同情するような目は女子へのやさしさアピールだと俺知ってんだかんなテメー先輩こと、早川進吾さんが振り返って口を開く。


「では、折角なので冒険者の真の凄さも見てもらいましょうか? ……武藤愛さん?」


 おめえマジ今度溜めたらぶっ〇すかんな先輩こと、早川進吾さんが、愛さんを手招きしている。愛さんは渋々前へと出ていくが、手招きがなんかちょっといやらしい感じがしましたよ先輩こと、早川進吾さんに耳打ちされ、やる気が出たらしくズボンを借りている。こっちをちらっと見たのは気のせいですきっと。

 耳打ちのあとの離れる時の微妙な余韻が気持ち悪いです先輩こと、早川進吾さんもこちらをちらりと見て笑う。

 おい笑ってんじゃねーぞやんのかゴラアア先輩こと、早川進吾さんはすぐに視線を切り、念入りに首周りのストレッチをし始める。


 首周りのストレッチで髪を軽く振り乱してるのはわざとじゃないんですか先輩こと、早川進吾さんと武藤愛さんが向かい合う。


「それでは、制限時間一分間! よーいスタート」


 互いに少し腰を落とし見つめ合う二人。

 観衆の盛り上がりはマックス。流石美男美女の対決は違うね。

 観衆の盛り上がりの差もさることながらですがほほ笑みと首の角度が腹立つなコンニャローこと、早川進吾さんにいい加減イライラしてきたので、もうぶっ倒して、愛さん。

 俺はちょっとだけ愛さんを応援する。


 (がんばれ)





 それは、神速といっても過言ではなかった。








 目にもとまらぬ速さという表現は飽くまで見えるから速さと評することが出来る。

 だから、本当の目にもとまらぬ速さというのは実際に見ると手抜きアニメーションみたいに見えるんだなあ、とぼくはおもいましたまる。あと、風がすごい。


 愛さんが指一本だけ、早川進吾さんの肩の先にちょっとだけ触っていた。


「へ?」


 今日初めての妙な余韻の入っていない声ですねちょっと好感持てましたよ先輩こと、早川進吾さんが呆気にとられている。


「……す、すごい! わが校自慢の特例冒険者、武藤愛さん! 凄い動きです! というか、見えませんでした! すごいです!」


 司会の方も、予想外だったのだろう一瞬の間が空いたが、早川進吾さんみたいにわざとじゃないのでオッケーです。


「愛する人の愛を、感じました」


 KO・WA・I★


 ちょっと心の中で応援しただけなんですが。

 愛さんの固有スキル【愛人】は愛されることでステータスが上がるらしいが、え? 今ので上がっちゃうの? じゃあ、本気で好きになったら?


「んんっ……!」


 急に色っぽい声をあげる愛さん。やめて、思春期男子にそれはしんどいて。


「だ、大丈夫ですか!?」

「す、すみません! 今、すっごい幸せが襲ってきた気がして」


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 今のは単純な疑問であって、っていうか、なんで伝わってるのかって、ウチの妹じゃあるまいし、という我が家の天才エスパー少女更科秋菜ちゃんは絶賛こっちを睨みつけてますナンデヨー。


「は、はは……ははは! 流石! 武藤さん! 【疾風怒濤】にも参加している彼女の力をご覧いただけたでしょうか? いや、見えなかったですよね、実は……僕もです」


 溜めたな溜めたなよしもう喧嘩だコノヤロー先輩こと、早川進吾さんが冗談っぽくして誤魔化している。まあ、アレを目で追えた人間はいないだろうから仕方ないか。


「では、景品を!」


 負け犬早川が指輪を愛さんに嵌めようとする。

 が、愛さんすっごくいやそうな顔。

 耳打ち。おいこっち見るな。

 人差し指を差し出す愛さん。

 苦笑する負け犬。


 と、ここまで二人のやり取りどうでもいいのでダイジェストでお届けしましたが、俺は負け犬の負け犬らしからぬ表情に違和感を感じ、委員長を見る。


「委員長、あの指輪」

「……わかった」


 メガクイをして魔力を起こす委員長。ハッとした表情でこちらを見る。

くそあのへんたいが。


「すんませ~ん、あの~、その指輪、僕も欲しいんで、僕が勝ったら僕にもらえませんかね~」


 へらへらと空気を読まずに指輪を欲しがる間抜け面こと、更科夏輝君の登場です!

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