第34話 変態、風騎士に煽られて必殺パンツオワタ

 いつの間に、二人の間に間抜け面が来たのかと驚く負け犬と観衆。

 目を輝かせ待ち構えていた愛さん。

 え? なに? 君の固有スキル、GPS追跡機能付きなの? っていうか、俺の身体GPSなの? グレートプニプニボディサラシナってこと?


「え? なんだって?」


 負け犬のくせに主人公スキルが使えると思うなよ!


「だから~、その指輪、僕も欲しいんで、僕が勝ったら僕にもらえませんかって」

「おいおいおいおいおい、急に入ってきてそれはダメだよ、そんなのナシナシ」


 おいの数が足りねえよ、スタン〇使いの天才漫画家になりたいならおい足し出来るようになってからこい。


「いやいや、アリアリアリアリアリアリアリアリじゃないですか~」

「アリ多いな、君!」


 ジョジ〇読め吐き気をもよおす邪悪先輩こと、早川進吾さんとの押し問答の末、愛さんの記録を超えたらオッケーとのことで万事解決。めっちゃ揉めた気もするが気にしない。


 愛さんの記録は、最初の間があったので約30秒程度とのこと。

 30秒か。


 間抜け顔と負け犬が向かい合う。

 さっきの爽やかな盛り上がりはどこへ?

 美男美女の素敵なシーンを邪魔した妖怪空気読まずこと、更科夏輝にブーイングを浴びせる観衆。

 クラスの奴らは怯えている。観衆にもだが、俺にも。こちらをうかがうような目で見ている。アレが嬉しいかと言われれば嬉しくない。

 つまりは、どっちも最悪だ。

 やっぱり俺の青春は、変態というラベルによってぶっこわされたのだ。

 あっけなく。


 はあ。


「嫌われたね、キミ」


 負け犬の遠吠え(囁きヴォイス)。


「まあ、変態だしね」


 負け犬の遠吠え(見下しヴォイス)。


「『狂気の仮面道化クレイジークラウン』なんて編集で誤魔化した似非冒険者だろ、おい」


 負け犬の遠吠え(俺様ヴォイス)。


「精々惨めに走り回れ」


 負け犬の遠吠え(ドS王子ヴォイス)。


「パンツ脱がすぞてめえ」


 間抜けの遠吠え(変態ヴォイス)。


「スタート! さあ、一体どのような結果になるのでしょ……って、あれ?」


 なんということでしょう。

 いつの間にか負け犬先輩とすれ違った俺の手には、一枚の青のボクサーパンツ。

 一瞬のびふぉーあふたー、まさにたくみのしょぎょう。

 愛さんも目にもとまらぬ速さだったが、俺にもできるんだい!


 ここで、よく分かる負け犬先輩のパンツの奪い方

 ①身体が半透明のモンスター、カゲロウに【変態】します。

 ②ダッシュします。

 ③すれ違いざまに右手人差し指を『掏男ピッカー』の長くて自在に動き先端が吸着する指に【変態】します。

 ④負け犬先輩のズボンに嫌々指をつっこみます。

 ⑤人差し指の腹を『切男リッパー』の刃物みたいな指に【変態】し、パンツを一度切断します。

 ⑥ピッカーの指で抜き取ります。

 ⑦嫌々掴みながら『鬼蜘蛛』の蜘蛛糸で接着しなおします。

 ⑧成功! みんなもやってみてね☆


 これが、一流の冒険者ですよ、B級負け犬先輩。あ、違ったこれ本人じゃなくてパンツだ。


「なんでパンツってまさか……か、返せ!」


 己の股間回りが爽やかスマイルに負けないほど爽やかであることに気づいた負け犬(ノー〇ン)が迫ってくるよう。

 俺だって野郎のパンツなんて触りたくないやい!


「返しますよ! 返せばいいんでしょ!」


 俺は、ボクサーパンツを頭に、そして、指輪を指に嵌めてあげる。


「ち、違う! パンツは頭にじゃない! それに、その指輪は僕に嵌めた……らぁあああ!」


 負け犬(パンツ被り)が叫ぶ。

 黒い光が一瞬だけ負け犬の身体を奔る。

 そして、負け犬は再び叫ぶ。


「みんな! 僕を美しい僕を見てくれ!」


 パンツを被った負け犬が爽やかな笑顔でポーズをとっている。

 一部女子の嬉しそうな悲鳴をかき消す大悲鳴。


 あびきょうかんとはこのことだあ。


 風騎士の名に恥じぬ速さで、人間として恥ずべき格好で駆け抜ける変態こと、早川進吾さん。

 俺はその姿を横目にステージを下りていく。

 俺の神業を見て恐れおののき、遠巻きに見つめる人間ども。

 近づくのは変態ばかり。

 アホ変態と、眼鏡変態。


「夏輝よくやった!」


 手を掲げるアホとハイタッチを交わす。


「パンツ触った手だけどな」

「ぎゃああああああ!」


 アホだなコイツ。知ってたけど。


「委員長、ありがとな」

「いや、君の勘はすごいな」


 メガクイしながら手をじつとみる委員長。なんかやめろ。

 委員長の固有スキル【看破】なら詳しく分かったみたいだ。


「あの指輪は『呪い』がかかっていた。アレから察するに指定対象を愛することになる呪いだろうね」


 うわあ、負け犬先輩を好きになる呪いとかまぢさいぁく……。


 昔、呪いの装備をつけちゃったヤツがいて大変だった……。変態だったなぁ……。

 俺はパンツを被りながら自分に酔いしれるド変態さんを見ながら、過去を思い出していた。


 呪いまで使って無理やり好きにさせようという感覚は分からない。

 だったら、まだ間違っているんだけど一生懸命なあの変態どもの方がマシだ。


 ……背後で金色の魔力だしながら髪の毛逆立てて勝手な愛の力でパワーアップしてるスポーティー美少女とか、MINEで『兄のど変態ASMR、ありがとうございます』と送ってくる妹と、『私も頂きました、ありがとうございます。お礼にパンツあり〼』と送ってくる姉と、数分ごとに肌色の画像を送ってきているらしい姉妹とかのほうが……いや、ごめん、マシじゃないかもしれない。


 こうして、パンツ被りマンは、捕まった。

 あ、普通に、呪いのアイテムは犯罪です。捕まります。みんなはダメ、ゼッタイ!


 その後ちょっと事情聴取的なものが職員室で行われ、いつもより遅い時間の帰宅と相成る。

 負け犬先輩は、鏡を見ながらイケメンの自分は嵌められたんだと言っていた。

 まあ、どちらにせよ、呪いは法に引っかかっている、アウトだ。


 【疾風怒濤】はこれから謝罪及び脱退発表動画を作り、負け犬先輩を追放し、活動していくらしい。負け犬先輩はぼっち負け犬先輩に進化してしまった。


 まあ、言うて俺も一人なうだ。

 りりさんはもちろんいないし、あいさんは部活ですよかったです、だ。

 と、思っていたら、再び男子二人のお迎えだ。


「お勤め、ごくろうさんです」

「お、おつかれ……な、夏輝」


 がんばって親友ムーブをかます眼鏡とお控えなするアホ。


 こういう青春はやっぱアリだな。

 だけど……あの講演会での騒ぎでやはり思う。だからこそ、迷惑はかけたくない。

 俺のいるべき場所はもうここではないのかもしれないと。


 そんなことを考えていたら目の前に人。

 いい匂いに驚いて飛び下がるとそこには美少女が。

 愛さんや姉妹とは違う、金髪ふんわりウェーブ髪お嬢様だ。


「更科夏輝様、お迎えにあがりました」


 …………え? 誰? めっちゃ美人! あ! ……さてはオメー、ヘンタイだな!?

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