第32話 変態、女侍に襲撃されてポロリオワタ

狂気の仮面道化クレイジークラウン! 今日こそはお前を捕らえ罪を償わせる!』


 赤い鎧を纏った仮面の男に向かって剣道着に胸当てを付けたような服装の女剣士は刀を向け叫んでいた。

 そして、足に魔力を込めると、一瞬で消えた。


 ガキィンという音でようやくカメラは動き、女剣士の刀と仮面の男の黒い腕が交差しているのが映る。


『いや、だから、アンタたちの邪魔はしないから! ほっといてくれません!?』

『そうはいくか! 貴様は違法冒険者なんだ! 野放しに出来るか!』


 女剣士は密着した状態で刀と身体を流れるように動かし、仮面の男の背後に回る。


『魔刀、昇燕!』


 女剣士が地面を這うように振り上げた刀の一閃は仮面の男の左腿を切り裂くことなく通り過ぎる。

 仮面の男は右足一本で跳び上がり左脚は前まわし蹴りの態勢で宙を舞っている。

 慌てて女剣士は腕をたたみ、刀で前まわし蹴りを受け止める。

 勢いよく飛ばされ、必死に突き刺した刀によって漸く止まる。

 纏めていたポニーテールが解け、乱れた髪の隙間から女の強い意志のこもった目が輝いている。


『あのー、もう行っていいですか?』

『いいわけあるか! お前は、どうして、それだけ力があって……!』

『え?』

『お前に私を認めさせる。そして、お前を私のお供にする』

『ちょっと待って、話変わってないです? え?』

『魔纏、雷装』


 女剣士が呟くと道着から無数の魔字の羅列が浮かぶ。

 その魔字が青白く輝き、稲妻が奔る。

 そして、その稲妻が女剣士の刀にどんどんと集まっていくと刀身が青白く、そして、奇妙な音を響かせながら輝きを強めていく。


『ちょっと! 雷装はやりすぎでしょ!?』

『うるさい! お前が悪い! 行くぞ!』

『ああ、もう!』


 女剣士が地面を蹴ると、その足元が爆発したように岩盤が砕け、石が飛び散る。

 飛んできた破片をよけてカメラは大きな音と同時に宙を映す。


『いって……!』


 しかし、幸か不幸か、その偶然により、空中でぶつかり合う赤と青白い閃光が見える。


『一雷・飛燕!』


 女剣士が天井に足を着け、鞘から刀を抜いて飛ばした雷の斬撃は同じように天井にぶつかる直前で足を着けた仮面の男の足元を狙って勢いよく迫っていく。


『くっ! 岩巨人の腕ゴレムアーム! 土壁』


 避けられないと判断した仮面の男は勢いのままついた手を岩の腕に【変態】し、天井から壁を生えさせる。

 壁にぶつかった雷はほとんどを壊しながらもバチリと名残惜しそうな音を立て、霧散する。

 天井から落ちていく女剣士はくるくると廻りながらも、稲妻を放ち続ける。


『二雷・双鷲! 三雷・鷹爪! 四雷・隼落!!』


 二連の斬撃、三方向からの挟撃、巨大な雷が連続で襲い掛かる。

 仮面の男は、脚を膨らませ高速で飛び出し交差する二つの斬撃の間を通り抜けると風鬼に変えた腕から風を噴き出し急停止し、三方からの挟み撃ちを鼻先で躱す。そして、巨大な柱とも言える雷の塊を諦めたかのように受け止め、耐え忍ぼうとする。

 雷光の道が通りすぎると、そこには黒焦げになった仮面の男が。

 そして、力なく落ちていく。


 女剣士は、ふらつく身体を刀で支えながら、仰向けに倒れた仮面の男へと歩いていく。

 顔には疲労が濃いが達成感に溢れている。


『さあ、クレイジークラウン、お前ほどのやつなら死んではいないだろう? 私のお供、に……』


 その瞬間、仮面の男は、黒く焦げた鎧を脱皮するかのように剥がし、その下から新しい赤い鎧を見せながら立ち上がり、女剣士の肩を狙い突きを繰り出す。


『馬鹿な!』

『はっはっは! 道化は化かすのが得意なんだ!』


 ギリギリで躱す女剣士だったが、まさに紙一重だったのだろう。胸当てを締めるツナギ、そして、その下の道着を犠牲にしながら辛くも躱す。

 そして、道着の下に収まっていた慎まし気な女性の部分が露になる。


『わ! 隠して! お蔵入りになる!』


 カメラが慌てて地面を映すと、女剣士の震える声が響き渡る。


『見られた……親父にも見せたことないのに……!』

『え? ふ、フリですか?』

『フリじゃない! マジだ!』

『すみません! あの、追いかけるには、片手で、その押さえてだと無理だと思うんで諦めてくださ~い!』

『はっはっは! 狂気の仮面道化クレイジークラウン君! そう慌てるな! 次は僕とやろうじゃないか! 勿論、ポロリも歓迎だ!』

『いーえ、わたしとやりましょう~☆ 漢同士の熱い汗飛び散る肉体と肉体のぶつかりあいをぉ~! 滾るわぁあ~☆』

『うわ! 絶対アンタ達、僕の動画見て、あえて来たでしょ! 待ち伏せしてたんでしょ! ず、ズルい!』

『ズルくない! お前がいつまでたってもウチの呼びかけに応えないから!』

『ああ! 今、掴みかかったら……あ』

『あ……うえーん、もうやだー! お嫁にいく~』

『いけないじゃなくて!? え? なんで、見えてるのに、掴んだままなんですか!? ねえ!? あ、あの、脱皮! ……じゃあ、さよーならー!』


 次に映ったのは駆けていく仮面の男の後ろ姿だった。




「……で、なんでこれを見せた?」


 俺は、純粋な疑問を俺の黒歴史を見せてくるアホに投げかけた。


「ああ、今日は委員長とベストくれくら動画を見せ合おうってことで、一旦おれの第五位を見せた」


 アホが普通に答えている。


「成程……【七刀】と遭遇した時のものか、確かに、この日のクレイジークラウンは神懸かっていた……六首大蛇も三雷までしか耐えられなかったのに、四雷を耐えてみせた。しかも、脱皮と言うトリッキーな技が初披露だったのもコレだ」


 眼鏡が普通に解説している。


「そう! あと、ポロリがある!」


 映っていないけどな。ていうか、下着だからな。


「……どんなだった?」


 小さな声で聞いてくるアホ。


「てめえ、俺が、更科夏輝が知るわけないだろう……!」


 怒る俺。意外な感じでした。


「私の見る?」


 普通に入ってくる武藤愛。


「どわああああああ!」

「もう、びっくりしすぎ。失礼ね!」


 腰に手を当てぷりぷりして可愛い武藤愛さん。

 だが、騙されることなかれ。

 爽やかショートカット、大きな目、ナイスバディな超絶スポーティー美少女愛さんの本性は激ヤバ女であると強く、私、更科夏輝は主張するのです!


 あれは今朝のことでした。

 記憶が曖昧な夜を乗り越え朝を向けた更科夏輝はいつも通り学校に向かおうと玄関を開けた。


「おはよ! 一緒にいこ!」


 朝から爽やか愛さん。


 だが!


 愛さんの家は学校を越えた先にあるのです!

 つまり、愛さんは一度学校を越えてウチに来て一緒に学校に行こうとしてるのです!


 そして、


「あー、もう時間かあ。ごめんね、先行くね」


 愛さんが謝りながら駆けていく。

 恐らく陸上部の朝練なのだ。


 つまり!


 愛さんはわざわざ学校を越えて迎えに来て一緒に一瞬登校して朝練にダッシュで向かうのです!


 そして、今普通に話しかけてる愛さん。


 ですが!


 愛さん、別クラスです!

 え? この前のダンジョン研修? あれは、風騎士の要望で来ただけです。

 妹も来てたでしょ。


 マジで芸能人でもトップクラスになれそうな美少女だからってなんでもかわいいでおさまると思うなよ!


「ん? 昨日バーベキューだったんだけど、ソースでもついてるカナ?」


 にこやかにほほ笑む愛さん。


 こわいいよー!


 なんで、バーベキュー食べてるの!?

 ウチと同じメニューなの!?

 なんでわざと言ったの? わざと言ったよね?

 っていうか、ソースついてるわけないでしょ!

 え? つけてるの?


「はい、今日のお弁当ね」


 愛さん、中からじゅわああという音が聞こえてますけど……。

 もう愛さんのはポロリじゃないよ。

 ドロリだよ。


「あ、いたいた! 愛! おーい!」


 爽やかイケメン、人呼んで、風騎士が風切ってやってくる。なんでいるんだよ、てめー。


「名前で呼ばないで、夏輝に誤解されたらどうするの?」


 誤解もなにも。


「ご、ごめん……講演会前に会えて嬉しくて……っち」


 ちらり風騎士、俺に舌打ち、ドロリしてきたな。


 講演会?

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