第28話 変態、クラスで群がられ幼馴染を避けアイツに捕まりマジオワタ

 その日の教室は異常な雰囲気だった。


 いや、まあ、たぶん俺が来るまではまだマシな方だったんだろう。


 俺が入ってきた途端、静まり返る教室。


 俺はまあそりゃそうだろうなと気にせず席につこうとするとアホがアホ面曝してやってくる。


「おい! 水曜日の○マちゃんの『結果発表~!』に魔力込めたらモンスターも撃退できる説バズってたな! 見た!?」


 爆笑しながらアホがやってきて俺は顔が真っ青になっていたことだろう。


「おま……! 見てないから、ネタバレすんなよ!」


 俺の魂からの叫びを聞いてアホは顔を歪めてにやける。性格悪っ!


「いや~、まさか、○藤さんの『は~い!』で、ふがふが……」

「マジで言うなよ」

「いや、言わないけど、ならSNS見るなよ。拡散されまくってるからな」


 とまあ、何一つ以前と変わらない日常のようで全然違う今日この頃。

 クラスのほぼ全員がこちらに注目している。

 なんだみんな水曜日見てないのか、みんなも姉のドラゴンをクエストする旅に付き合わさせられてたのか。ウチだけだと思ってたわ。


 とまあ、おふざけは置いといて。


「まあ、こうなるわな」

「まあ、そうなるだろ」


 アホが同意する。わかってんのかな?


 昨日のクラスでの一件プラスダンジョンの出来事のせいだろうな。

 担任が急に倒れて、俺に凄まれた連中は敵意少々、怯え多数ってところだろうか。


 多分ダンジョン研修組から話を聞いた奴もいるんだろうな。

 ダンジョン研修組は、俺の事を説明されたが氷室さんから絶対に言わないようと念を押されている。ネット関係は、氷室さん達もそうだし妹がいるから簡単には広がらないだろうけど、逆に口は難しい。人の口に万引き防止ゲートはたてられぬ。俺の情報だけうまく誤魔化せるような便利な魔法はまだない。誰かがポロリと言えば、ばれるだろう。


 あ、円城は来てない。停学かなんかだろう、問題行動が多すぎた。ダンジョンは学校の施設ではないから口封じも無駄だろうし。

 まあ、あとは、アホの動画配信を直接見るなり、知り合いが見てて聞いたなりしたヤツがいるのかもしれない。

 当のアホは、気にせず、○ンジャンを読んでいる。○しの子を読ませろ。

 なんてことを考えてたら、眼鏡の子がやってきた。


「やあ、更科君」

「おっす、委員長」


 委員長が眼鏡をクイと上げる。


「よかったら、僕も入れてくれないだろうか」

「ん? どっちの話? 水曜? ○ンジャン?」

「○ンジャンは分からないが、水曜の話はタブーではないのか?」

「ん? ネタバレは駄目って夏輝に言われてるからか?」

「ん?」

「ん?」


 ダメだ、コイツら。文化の違いが激しすぎる。

 アホはテレビ、眼鏡は昨日、水曜日にあった事件の話をしようとしてる。

 と、その時アホが動いた。


「……! ああ、ごめんな、水ダ○の話かと思った」

「ダウ? 日経平均株価?」


 もう話すなお前ら。

 とりあえず、アホの話したい内容を説明して委員長に納得してもらう。


「なるほど……面白い番組があるものだな。説を検証するとは非常に知的好奇心をそそられるよ!」


 うん、そういうんじゃない。恥的好奇心はそそられても、知的はそそられないと思う。

 委員長は普通に話しかけてた。

 それもそのはず委員長はまずツブヤイッターをやらないのでこの前の騒ぎもなんのことかキョトン。昨日の騒ぎも、先に集合していたのでクラスにいなかった。

 俺の変態騒動について何も知らないのだ。一応、説明したけど。


「固有スキルの名称が『変態』なだけで本人が変質者と決めつけるわけないだろう」


 と、言っていた。

 まあ、それを決めつけちゃうんだよね、大部分は。


 そんな大部分の一部が近づいてくる。ややこしいな。


「あの、更科……ご、ごめんな」

「お、おれも、悪かったよ。決めつけて」

「都合いい話かもしれないけどさ、一旦水に流して……」


 さて、問題です。

 主人公ならこの時どう答えるのが正解でしょう。答えは、恐らく……


「え? なんのこと?」


 だ。ほら、大部分の一部分が笑顔になった。

 だが、悲しいかな。俺は主人公スキルが使えないが為に主人公ではないことが証明されている。俺は悪役、ヒールなのだ。変態さんなのだ。


「水に流せるようなことがあった? 勝手に個人情報覗き見られて、馬鹿にされて、笑われて、お前ら率先して馬鹿にしてたの知ってるからな」


 俺は正義の味方みたいな理由なく全ての人を守るつもりはない。

 っていうか、ただの高校生でそんなメンタル持てる主人公たちはやっぱりすごい。

 何食ったらあんなすべてを許せる防弾ガラスハートになれるんだろう。


 許しの言葉はかけられる。

 けど、俺は許してあげてるという呪縛がついて回るし、許してもらってるという呪縛がついて回るだろう。ああ、本当に面倒だ。こんなことになるんだ。やめろよ、いじめとか。

 許さなければ悪になるんだろう。異常になるんだろう。それが普通なんだろう。

 カレー好きの理屈っぽいモジャモジャDDが言ってただろ、『いじめる側こそが異常者だ』って。あれ? 病人だっけ? まあ、なんでもいいや。あんだけ大人気で、クラス中で話題にしてた月曜日のドラマをもう忘れたのか。○田将暉の顔しか見てなかったのか。伊藤沙○いいよね。


 簡単に人を傷つけられるなんて、それこそモンスターじゃねえか。異常じゃねえか。


「水には流せない。だけど、俺の事は、あまり気にしなくていい。出来るだけ普通に過ごしたいから、まあ、程よい距離を空けてもらえたら助かる」

「お、おう」


 なんか納得してない風だったが、まあそんなもんだろう。

 そして、その話を聞き耳立てて聞いていたのだろう大部分は、さーっと引いていった。

 うん、俺の心の健康の為には一番これがいい。


 あー、もー、俺の青春どこ行ったのかなー。


「おい! 夏輝! 今日の帰り委員長とくれくら談義するんだが、来る!?」

「……くい……ごくり」


 眼鏡をクイして喉を鳴らすな。

 っていうかアホはマジで気にしてないのな。逆に、この位の感じの方がバレにくいか。

 いや、それよりアホ、今日はお前と予定あるの忘れてるだろ、おい。


 俺は、前からの友達とこれからなるであろう友達と一緒に、恋愛頭脳戦について熱く談義した。

 野郎だけの熱苦しい青春だが、それもまた青春なのだろう。

 眼鏡が近いのも友達との距離感が分からないんだろう、眼鏡買い替えろ。

 そんな汗だくの青春溢れる教室に入ってきた担任は、汗だくでペコペコしながら席につくようお願いしてきた。

 良きにはからえ。




 休み時間。

 廊下でナイスブラウンミディアムボブの真の幼馴染と出会う。


「あ……」


 顔を曇らせながら俺に話しかけようとする真・幼馴染。


「あの、ね……」


 通り過ぎようとする俺に対し一生懸命言葉を絞り出そうとする真・幼馴染。


「この前のこと、ごめん。私、見たの動画」


 すれ違いざまに、衝撃の一言を告げる真・幼馴染。


「昨日学校休んでて……で、偶然。あの、あなたがそうだったなんて知らなかったの」


 なんだろう、この前とは違って随分しおらしい。


「私、誤解してた。あなたって本当にすごいしかっこいいのね、だから」


 幼馴染は負けヒロインと言うが、この場合の負けは誰なのか。


「あのさ」

「な、なに!?」


 俺は振り返る。まるで今までのことがなかったかのような笑顔だ。

 嘘みたいだろ。俺、君に触らないで変態って言われたんだぜ。


「元には戻れないと思う。ごめん。だから、少なくとも暫くは距離を置かせてほしい」

「でも! 私はあなたが!」

「俺は今、君が傍にいたら落ち着かない。……悪い意味で」


 俺は急ぐ。何も急ぐことはないけど。早く離れたかった。

 一刻も早く。このどうしようもない状況から。


 俺が悪いのか? 俺が? まあ、多分悪いんだろ、一般的には。変態だしな! 

 どうして、こう、青春って儚いんだろうか。

 俺の代わりにみんなは謳歌してくれよな。いや、駄目だ嫉妬はするわ。ちくせう。




 放課後。

 居心地悪い学校から早く抜け出るべく帰り支度をしていると校庭が騒がしい。

 変質者が、何事かを叫びながら侵入してきたらしい。


「さらしなぁああああああ! 出てこいやぁあああああ!」


 変質者の名は、円城望。

 おいおい、今日の俺は相当おセンチでヤバくてキレたら止まんねーと言われてるぞオラア。

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