俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
第29話 変態、各種メディアに取り上げられ曝したヤツオワタ
第29話 変態、各種メディアに取り上げられ曝したヤツオワタ
円城、参上。
「さらしなぁあ、お前よくもやってくれたなあ」
何もやってない。強いていうならズタズタの元ゴブリンを目の前に差し出したくらいであとは自業自得だ。なのに、この言いぐさである。
「あの時の借りを返しに来たぜ」
漫画みたいなことを言いたいだけな気がしてきた。
最終的に、「世界の半分をお前にやろう」とか言い出さない?
「来い! 野郎共!」
うおお! 悪役あるある台詞スリーカード!
そして、校門からぞろぞろとヤンキー風味の他校の生徒が現れる。
「へ! 金で雇った不良共だ。おっと教師は期待するなよ。他の奴らが今外で暴れまわってて、ほとんど出払ってるはずだ」
説明乙。
悪役って、なにげに説明うまいよね。崖の上での自白とかね。
「で、俺をボコボコにしてどうすんの?」
「別に。オレはどうせこの学校じゃあもう終わりだ。だから、ヨソ行く前にお前ボコっておこうと思ってな」
短絡乙。
そんなことを考えてると、ヤンキー風のリーダー風がこっちにむかってやってきてる風だ。
「よお、更科、久しぶりだな」
知らん。
「お前にやられた傷が疼くぜ」
知らん。
「まさか、無双のナイキーと呼ばれたオレを忘れてるのか!?」
知らん。元ネタは知ってる。
「オレがお前につけた顎の傷が消えてたとしてもお前が付けたオレの傷は消えてねえ。まだ疼くんだよ」
ああ、そういうことか。おっけーおっけー。誰がやったか理解したわ。
俺は、一歩大きく踏み出して、無双のナイキーに近づく。
そして、社長のようにぽんと肩を叩く。
すると、無双のナイキーは俺を一睨みした後ふら付き始める。
「さらしな、ふ、にゃぁあああああ」
無双のナイキーはおぼつかない足取りで右へ左へ揺れている。
俺は、叩いたの手の表面を『幻覚キノコ』に【変態】させて粉かけただけだ。
分かってない風の周りのヤンキー風は呆気にとられている風だ。
さて。
「ピヨってるヤツいるぅうう!?」
言いたかっただけだ。やっぱヤンキー風が攻めてきたからにはね。
「コイツしかいねえよなぁああ!」
俺は無双のナイキーを指さす。マジで本物に謝って来い。
漸く馬鹿にされたことに気付いたヤンキー風共は色々なんか汚い言葉を吐きながら俺に迫ってくる。
「二万人連れてこいやぁあああ!」
襲い来る二万人 (イメージ)のヤンキー風!
夏輝の運命やいかに!?
はい、というわけで、今、こちらでは二万人 (イメージ)のヤンキー風の皆さんが転がっています。
「お、お前、何をした!?」
俺はただ『鋼』に【変態】させて立っていただけだった。
まあ、殴っては砕ける砕ける。ヤツらの拳が。
「くそ! 変態の癖に!」
まだ現実が見えていないような円城君。
そんな君に現実見せちゃうぞ☆
「なあ、アホ、そろそろ時間か?」
「おーおー、今丁度始まるわ」
「な、何がだよ!」
円城が向けられたスマホの画面に身構える。
「俺の晴れ舞台だよ」
画面の中では氷室さんが記者に囲まれている。
とはいっても、ダンジョン庁から出てくる氷室さんを囲んでいるみたいだ。
『【女帝】氷室さんが再び本格的にダンジョンへ潜る、というのは本当ですか?』
『少し違います。我々ダンジョン庁は、今ダンジョンに潜る冒険者達を支援することを使命としています。ダンジョンとうまく付き合うウィズダンジョンが現在の政府の方針であり、長期的な視点でのダンジョン管理を行っていく必要がある。私を含め、職員一同そう考えております。であるからこそ、次世代の冒険者育成に我々政府もより積極的に携わる必要があると感じております』
氷室さんはそこで言葉を切ると、一度視線を落とし、再び顔を上げる。
『ただし、政府もダンジョンだけに注力するわけにはいきません。その他にも多くの国としての課題をクリアしていかなければならない。なので、私個人が、その先駆けとして若手育成の為のチームを立ち上げ、活動していきたいと思います』
氷室さんはダンジョン庁の人間ではあるが、日本最強の冒険者の一人であり、今もダンジョン管理の為の攻略には参加している。
また、現在政府の重要ポストについている人間にも元冒険者はいるし、アピールの為に仕事のない日にダンジョン攻略をしていることだってあるので問題はないだろうと氷室さんは言っていた。
『そ、そのチームのメンバーは決まっているんですか!?』
『元々【モノノフ】のメンバーたちともこういった話をしており、プロジェクトの準備は少しずつ進めていました。そして、チームメンバーはほぼ決定しております。まず、【氷の精】
『鹿児島の……! まさか、全国から?』
『ええ、このプロジェクトの出資者にはモノノフメンバーのほとんどが名乗りを上げてくれています。なので、衣食住全てのサポートをさせていただく。そして、その価値があるメンバーを選びました。次に、【神の子】
氷室さんが次々に有名どころを上げていく。そうして、十三人目の名前を読み上げる。
『最後に……【変態】更科夏輝』
変態という言葉にざわつく報道陣。記者たちが我先にと手を挙げて質問しようとする。
『変態、と今仰られたようですが……それに、変態といえば確か先日SNSで話題になっていた人物では……』
『それに何か問題が? まず、皆さまに誤解頂きたくないのは、変態は彼の固有スキルの名称であり、彼自身を表すものではない。そして、その変態と言う名の能力、これから伸ばしていきたいと考えていますが、自身の身体の構造や状態を変化させることが出来るという非常に優れたものです』
『変化、というと……【鋼の勇者】や【超人】と同じような……』
『それを超える可能性もあると考え早い段階からスカウトさせていただきました』
これは事前に氷室さんと打ち合わせしていたことだ。
『これから彼らはそれぞれの成長速度に合わせ、これからの冒険者界を担う存在になってくれることでしょう。暖かく見守り下さい。……ただ、一つだけ』
氷室さんはぐるりと記者たちを見回し口を開く。
『彼を含め、私の選んだ未来ある若者を貶めようとする者がいるのなら、私は許さない。ねえ、お昼の番組で顔を隠してとはいえ話題性だけであの呟きを取り上げた○○テレビの記者さん。次は放送すればどうなるかの経験をちゃんと活かし、しっかりと大人として考えた取り上げ方をお願いしますよ』
絶対零度の眼差しで記者を睨んだ氷室さんはそのまま車に乗ってどこかへ行ってしまった。
記者たちが慌ててカメラで撮っているが、車の後ろ姿撮って意味あるのかな?
「な、なんで……なんでお前が!」
地を這う円城が叫んでいる。
「なんでかは分かるだろ。っていうか分かれ。で、結論から言うと、お前はこれ以上俺に付き纏うともっとひどい目に遭うぞ。ほら、あそこ」
校門の外からカメラを回している男の人と一緒にこちらを見ている人がいる。
「誰だ……カメラ?」
「アレはね、氷室さんが信頼しているマスコミの人たちなんだって。今日、俺なんかの為に撮影に来てくれたのだけど、一緒に映ってくれてありがとう、円城」
氷室さんに曰く、下手な記者が来る前に一度映っておいた方がいいということで、夕方学校帰りの高校生に今流行っているものを聞いていこうというコーナーの為に訪れたという流れだ。そこで、丁度偶然何故か話題の男子高校生が通りがかり、ええ!? 君が!? 折角なので先ほどの件についてコメントするという段取りだった。ちなみに、俺は流行ってるものでけん玉を紹介するつもりだった。マイブーム。
まさか、円城まで釣れるとは思わなかったが怪我の功名というかなんというか怪我してないけど。
「ハメやがったなああああ!」
悪役あるある台詞フォーカード。
コイツ、本当にすげえな。なんでも自分中心で回っていると思ってやがる。
「はいはい、嵌めた嵌めた。夕方のニュースなんて世の奥様方みんな見てるよ。お母様も見てるかもよ。大丈夫?」
「良かったな。円城、ネットでもお前の話題で持ち切りだぜ」
ん? ネット?
「これ、夏輝の姉さんのツブアカなんだけどさ」
ん? 姉さんのツブアカ? 姉さんツブヤイッターやってるなんて一言も……待て!
慌ててアホのスマホを見ると、確かに姉がツブヤイッターをやっている。
『tabenokoshichodai』なんてアカウント名、姉しかいない! いや、食いしん坊な他の春菜もいるかもしれんが、俺には分かる。分かりたくないが分かる! 姉は食べ残しを欲している! 誰のとは言わんが!
そして、呟きは二つだけ。一つは本物と証明する為の親友との動画だ。女子大生美人コンビとして有名だし、今日の大学の日替わりランチの話を軽く挟んでいる。
問題はもう一つの動画だ。姉が映っている。そして、姉の親友の代わりに……妹が映っている。そして……俺の写真が間に挟まれている。ちょっとまてぇえええええ!
『みなさん、こんにちは。ハルナです』
『こんにちは、アキナです』
ハルナ・アキナの美人冒険者姉妹は有名だ。だが、真ん中の写真の男は誰だボクシラナイ。
アキナは今日はツインテールではなく下ろしているので、中の紫髪は見えず、非常に清楚な感じでお嬢様感が凄い。まあ、これがよそ行きメディア用秋菜なのだ。
ツインテールの秋菜もみんな知っている。だが、あれはあれ。これはこれと、使い分けて考えている。そして、今日は雪の結晶型の髪飾りをつけて、一部分だけ少し束ねて紐かなんかを巻いている。
『では、お姉さま、わたくしから説明させていただきますね』
つまり、そういうことである。さすおに妹なのである。
妹曰く、『キャラ付すれば喋れる』らしい。
しかし、今日のチョイスはそれでいいのか本当に、いいのか本当に!?
いや、優等生のあなたたちと比べたら、マジ劣等生ですけど魔法科通ってないよ、ワシ!
『今日は、わたくし達からお知らせがあります。今、SNSで話題になっていると言われるこの写真の男性ですが、わたくしのお兄様であり』
『私の弟です』
何故かドヤァ……な顔の二人。なんでや?
『今、お兄様に対して変態であるという情報が拡散されているようですが、誤解です。固有スキルが【変態】という名称なだけであり、スキルも素晴らしい能力をもったものであり本人はとても素敵なお兄様です』
『私達にとても尽くしてくれて自慢の弟です』
姉も中高生徒会長を務めただけあって堂々と、そして、言葉の一つ一つに説得力を感じさせる。流石お姉さまです!
ていうか、『尽くしてくれて』が『尽くしてくれるよねぇええ?』という脅迫に聞こえるのだけどこれってカンチガイカナー。
あるよね、『いつもトイレを綺麗にご利用頂きありがとうございます』という『トイレ綺麗にご利用しろやゴラア』っていうアレ。
『お兄様を害する者は許しません』
『私達姉妹は正しい情報の拡散を求めます』
目に力がこもってる。目力強いね二人とも。私も正しい情報の拡散を求めます。
二人にも。
『お兄様に』
『かわいい弟に』
『『手を出したら絶対にゆるさない』』
空気がインフェルノな感じのまま動画が終わる。笑ってたけど笑ってた?
「いやー、夏輝の正体バレてから二人とも本気出し始めたな」
本気って何? ねえ、アホ教えて。
「っていうツブヤイートが昼からトレンドに上がってて今死ぬほど拡散されてる」
うばぁああああああ! SNS怖いよう!
「んで、円城お前のあのアカどうなってるか知ってる?」
「スマホ壊れてんだよ!」
「あ、そっか。仕方ねえな見せてやる。死ぬほど炎上してるぞ」
円城はアホのスマホをひったくり見る。
俺も委員長のスマホを見せてもらう。うわあ、ほんとだあ……。
手の平返したように、誹謗中傷の嵐。
『変態www』『おまわりさん、逮捕してー』とかあったコメントが軒並み削除されて、『ハルナの弟になんてことを』『アキナ様のお兄様を傷つけていて明日を見られると思うな』『摩醯首羅が来るぞ』というファンからのコメントから、俺のような良い子には口に出せない過激なスラングスクランブルが展開されている。
「そ、そんな……」
「あー、しかも、お前アカウント実名で自分の写真出してるから、ヤバいぞこれ」
円城、炎上。
顔を真っ赤にしている炎上、いや、円城。まあ、どっちでもいいや。
「クソ! クソ! クソ! こうなりゃ、オレの全てを使って、お前もお前の家族も滅茶苦茶にしてやるからな!!! 覚えてろ!」
「……あ?」
なんか言ったあ?
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