第25話 変態、狂戦士に好きにしていいと言われ拘束オワタ

 それは、俺がこかんをさらした後の事だった。




「更科夏輝、大丈夫か……?」


 部下に円城を連れて行くよう指示した氷室さんが鼻にティッシュを詰めたまま俺に近づいてくる。美人は鼻にティッシュ詰めたら可愛いになるのか得だな。

 ただ、何かを思い出したように顔を真っ赤にした氷室さんがティッシュを勢いよく飛ばし、鼻血を垂れ流し始める。

 なのに、何事もなかったかのようなクールフェイスでこちらに歩いてくる。


「あ、大丈夫なんで近づかないでください」

「大丈夫だ」


 大丈夫とは?


 部下である茶髪ポニーテール木部さんが氷室さんの鼻にティッシュを慌てて詰めているが、ふがふがしてて大丈夫じゃなさそうだ。

 俺も大丈夫ではない。メンタルボロボロだ。

 俺のラ! が恐らく古巣の生配信で流れた。

 いや、大丈夫大丈夫。

 古巣のチャンネルなんて……


「おい、アホ」


 俺はアホ古巣を揺さぶって起こす。


「はい!? 狂気の仮面道化クレイジークラウンさん! いや、夏輝?」

「あーもう、夏輝でいい。俺がクレイジークラウンだ」

「マジかよ!」


 いや、マジだよ。クレイジークラウン=更科夏輝ですけど何か?


「さっきのお前のあの生配信大体何人くらい見てた?」


 古巣は手をパーにしてこちらに向けてくる。


「5人か!?」

「えーと、5000」


 ご   せ   ん?


「5000人に俺がくれくらだってバレたのか!?」

「い、いや! そこは大丈夫! 安心してくれ! くれくらさん顔バレしたくないだろうから慌てて顔切った」


 そ、そうか! すげえぞ! 流石だアホ! ん?


「待て……顔、切ったってことは?」

「多分、こかんセンター」


 こ    か    ん?


「あかーん!」

「だ、大丈夫だ! なんでかすぐに爆破したし、ブレてるだろうし!」


 大丈夫とは?


 だが、もうどうしようもないだろう。

 とにかく、その瞬間みんなの目にゴミが入って幼馴染が見てくれようとしてくれて、好きな人にキスしてると勘違いされて『ま、待って! 違う!』って追いかけていたことを祈ろう!


 ねえよ! そんな状況! ちゃんと話し合え、あわてんぼうども!


 放心状態の俺は地面に座り込む。


「あの、だいじょうぶ?」


 大丈夫とは?


 そう思って顔を上げた先には、ちょうびしょうじょ。

 銀髪青眼美少女がいる。

 あれ? この子? こいつ? どこかで?

 ちょうびしょうじょ……銀髪青眼……マスク隠す……襲ってくるアイツ……!


「ほんぎゃあああああああああああ!」

「ぴやあああああああああああああ!?」


 狂戦士だ! 狂戦士がいますよ! おまわりさーん!

 なんでか超アニメ声でぴやあああ言うてますけど!


「ど、どうした! ジュリ!?」


 両方の穴にティッシュ詰めた氷室さん、流石に美人とはいえ笑える。


「ん? ジュリ?」

「すまんな、この子は私の妹なんだ。氷室ジュリ」

「え……? ちょっと待ってください……? 狂戦士が、氷室さんの……?」

「妹だ。まあ、この子が特例冒険者で活動していたのはさっき初めて知った。ただ、この子の固有スキルが今回必要だったので、連れて来たんだ」


 なんですとー!?

 ○ック張りの赤い毛を持つ『紅のレッドッグ』に身体を【変態】させてた俺は○ックばりに口をカクカクさせて驚く。


 以下、狂戦士ちゃんの話がすっごくあうあうしてたのでダイジェスト。


 狂戦士ちゃん、こと、氷室ジュリちゃんも13歳の時、固有スキルが覚醒。

 当時、氷室家は家の事情で、氷室レイラさんのみ日本に残り、他の家族は母方の国に。

 そこは冒険者ライセンスが13歳からとることが出来るので、姉に憧れる狂戦士ちゃんライセンス取得。(ただし、ダンジョン攻略には一定条件をクリアした大人の同伴が必要)

 14歳で日本に帰国。実績とステータスで、特例冒険者ライセンス取得。

 5歳上の兄と一緒に上級冒険者に昇格。

 だが、兄は就職の為、海外へ。

 ぶっちゃけコミュ障の狂戦士ちゃん。

 同伴者を一人では見つけられず、こっそりソロ活動。

 正体不明の迷惑系冒険者【狂戦士】ちゃん爆誕! だそうだ。


 以上、ダイジェスト。


 これを話すのに10分かかりました。

 その間に他の人は治療に連れていかれましたが、俺は優しく大きく頷きながら狂戦士ちゃんのおはなしを聞いてあげてました。俺、偉い!

 狂戦士ちゃんも氷室さんに任せればいいのに『わたしが、じぶんではなすから』とアニメ声でがんばってた。狂戦士ちゃん、かわいい。


「で? なんでこの子連れて来たんですか?」

「この子の固有スキルは【獣化】。狼型モンスターの能力『嗅覚強化』でお前たちを探したんだ。あとは……まあ、偶然居合わせてしまった、どうしても連れて行けと言われて」


 俺が連絡した時、狂戦士ちゃんは氷室さんのところに居たらしい。


「あの、彼女のこの感じは? 狂戦士とは……」

「マスクを着けて、【獣化】をすると、ああいうキャラになってしまうらしい」


 う! 多少自分にも身に覚えがあるだけに、耳が痛い。


「ん? 待てよ」

「そう、お前の【変態】と似た能力と言えなくもない。それでお前のことが気になっていたらしくてな。付きまとっていた、というわけだ」


 へー、付き纏うって、モンスターぶっ飛ばせるくらいのパワーで攻撃してくるのが付きまとうって言うんだー。


「で、でも、他の冒険者を襲ったり……」

「ジュリが攻撃したことあるのは、基本的にマナーの悪い、もしくは、度を過ぎた行為をした冒険者だ。お前のような(違法)冒険者とかな……! ただ、相手の力量に合わせて手加減はしていたそうだ」


 氷室さんの圧が凄いぜ! でも、そうか。確かに、噂でしかほとんど聞いたことがなかったから、真実は知らなかった。

 自分が全力で襲われてるもんだから、みんなに全力かと思っていた。


「あの!」


 狂戦士ちゃんが両手を胸の前で組んで上目遣いでこちらを見てくる。

 くそう、かわいいなあ。あの『ヤろうゼ』バトルジャンキーが。


「わたしも、チームにいれてくれませんか?」


 え?


「お、おい! ジュリ!」

「おねえちゃんはずるい! わたしも、へんたいさんと一緒のチームになりたい!」


 なんでこの子が、氷室さんが気を回して氷室さんのチームに入れてくれることを知ってるの?

 という目線を氷室さんにおくると、氷室さんがてへぺろしてた。

 くそう! 姉妹揃ってかわいいなあ! 喋ったのかよ!


「チームにいれてくれたら、わ、わたしを好きにしていいです!」

「え? なんですとー?」

「好きにしていいです!」


 ○ック風でもダメなのかよ! どうやったら、俺はこの主人公スキルが使えるんだよ!


「いたいのでもいいです、むしろ、いたいくらいが……」


 はい、アウト―!

 めっちゃ顔赤らめて言うてますけど、ヤバい事言うてますけどー。


「いや、流石に、こんな幼子を」

「……! わたし、おないどしです」


 がーんって聞こえてきそうなショック顔を見せながら、狂戦士ちゃんが呟く。

 そっかー、なら、おっけーだね、いたいのも、ってなるかああああ!


「ダメです!」

「そそそそうだ! ダメだぞ! ジュリ! そうだ! 更科! 代わりに、私の裸を見せてやる! いや、むしろ見てくれ!」


 おい、姉ぇええええええええ!

 あんたの変態は見ないふりしててあげたのに、見せてこようとするな!

 肌色の画像を送ってくるな!


「わ、わたしだって見せます! たたいてもかまいません! いや、たたいてください!」


 だれか私の頬を叩いてください! そして、夢オチにしてください!

 俺は、俺は、普通がいいんだ!

 両腕を勢いよく引っ張りあわないで! よし! 先に離した方が本当の母親という事で! ……うん、まあ、母親じゃないから離さないよね!

 いや、割れて、なつき二分の一が始まっちゃうよ! お湯かけてもお水かけても元に戻れないパターンの二分の一が! 二等分の夏輝はただの切断死体よ!


 いやもう、マジで両サイドから引っ張りあうのやめよう! チラチラしてるから! 逆に平べったいとこういう時困るね! 学んだよ! こういう時は正面を見よう! 見ないようにしよう!

 何も見えない! 何も聞こえないよ!



 遠くから、流石陸上部な走行フォームで何故かパンを咥えて走ってくる愛さんと、【念者】の能力で自分の身体を動かしながら『私が見せる私が見せるむしろ見る撮る愛でる保存する』とつぶやいてる秋菜さん、そして、自分の襟元を掴んでじっと見ている眼鏡がいるような気がするけどきっと気のせいだよ!


 五等分の夏輝だけは勘弁してくだせえ! 事件簿にのっちゃうから! じっちゃんの名に懸けられちゃうから! ばーろー!


 ……いや、眼鏡、引き返せ! 今ならお前はまだ間に合う! たぶん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る