第14話 変態、姉に詰められて号泣オワタ

 更科春菜、固有スキル【蒐集家】。好きな食べ物、さくらんぼ。

 身長は愛より低いがお胸は愛よりある。腕を組むと、弟としては視線に困ります。

 すらりとした足は白く細くまるで白磁とかなんとかのようでございます。


 とんとんと足踏みする足はまるで女王様のような迫力に満ちております。

 そんな黒髪ロングの目つき強めの美女が正座する俺を見ております。


 いや、これは睨んでいるでは?


 目つき強いうえに見下ろしてるので、ちょっとどっちか判別つかない。

 怒っているのだろうか?


 昨日のダッツの件だろうか。


 ダッツは溶けた。スライムソーダ味なんて名門ダッツにあるまじきダンジョンブームに乗ったハイカラな名称の青色のダッツは溶けた。どろっどろだ。

 【狂戦士】のせいでおもっくそ溶けてた。

 俺は、ダッツを二人の部屋の前に置いて、わっずかな仮眠をとり、ダッシュで学校に向かった。

 それのせいだろうか。くそう、ダッツめ!


 ちなみに、妹はじゃんけんに負けてどっか行った。

 俺をしかるじゃんけんとは?

 しかもちょっと姉、後出ししてた。妹は何か言いたげだったが後出しまでした姉には勝てない。すごすごと引き下がった。

 俺もすごすごと引き下がろうとしたが首根っこ掴まれて、なう。

 だが、俺にも策はある。そっちが後出しじゃんけんならこっちは先手必勝だ!


「ダアアアアアアッツの件は申し訳ありませんでした。でもお! あのお! だれがあ! あの状況に追い込まれても! おんなじやおもて!」


 号泣謝罪会見を始めるしか俺には手がなかった。

 本物は見たことない。銀●で見た。


「うるさい」

「はい」


 黙る。

 沈黙は金なりなり。


「で、あんた変態なの?」


 俺の背中に華厳の滝、現る。

 バレた。

 勿論いつかはバレると思っていた。


 だが、姉はあまりSNSに興味がなく、ツブヤイッターもやってなかったはず。

 というか、基本的に機械に興味がないので、情報取集能力皆無のはず。

 誰かが『これ、あんたの弟じゃね?』と流したのか?

 許さないぞ、ギャルめ。いや、ギャルかどうか知らんけど。


「え? なんですって?」

「変態なの?」


 くそう、俺には主人公スキルは普通じゃ使えないと思って丁寧語にまでしたのに使えなかった。


「これ、あんたよね」


 姉が例のツブヤイッターの画像を見せてくる。

 俺の背中がナイアガラ。

 ていうかいつの間にか姉SNS始めてやがる。

 そして、円城の呟きにいいねしてやがる!


「そ、それは……」

「この呟き、いつの間にか削除されてた。スクショしといてよかった」


 おいぃいい! あねぇえええええ! お前は機械音痴な姉というちょっと抜けたお姉さん設定(俺の中では)だったのに、何急激に目覚めてるんだ、ゴラァアアア!


 勝ち誇った顔の姉。くそう、ちょっとかわいいぜ……。


 削除されてるのは氷室さんのお陰だろう。

 悪戯に広がらないよう出来る限りの対策はとっていると言ってくれた。

 『けど、逆らったら分かるわよね』とも言っていた。

 天使かよ、氷室さん。悪魔かよ、氷室さん。


 一方、すべてを断罪すべく生まれた天使のような瞳でこちらを見てくる姉一名。


「えーと、じゃあ、まあ、はい……あの、固有スキルが【変態】です、はい」


 もう認めざるを得ない。


「そう、変態なのね」

「あ、あのー、固有スキルが変態でありまして、私自身は、そのー、あのー、」

「変態なのね?」

「じ、自分は変態でありまぁああああす! でも、でもお! あのお! 一輝と四季の間に生まれれば! 転生したとて、おんなじやと思いますて!」


 俺、号泣。

 両親の遺伝子のせいにして号泣。

 だって、しょうがないじゃないか。あの両親だとマジ変態に生まれるって。


 もう終わった。

 完全に終わった。

 姉にバレた。


 妹はすぐに知るだろうから買収しようと思ってたのに。


「そう」


 ん? 姉が去っていく。

 終わった、のか。

 と、ほっと胸をなでおろした瞬間、一陣の風。

 姉が魔力を奔らせ空間から魔法道具を取り出し、こちらに突き刺してきたのだ。

 魔法道具は『熱小刀ヒートナイフ』。魔力を込めれば斬撃プラス熱のダメージが与えられる。

 仮に防御されても、熱さえ伝われば相手に隙が生まれるかなり良い武器だ。

 俺は、咄嗟に熱耐性持ちの『赤蜥蜴レッドリザード』の皮膚に『変態』しながら首を捻り、攻撃を躱す。


 熱い風がウチの廊下を吹き抜けてゆく。


「これから、楽しみね……!」


 姉がにやりと笑いながら、部屋に入っていく。


 俺の背中がエンジェルフォール。

 エンジェルフォールとはよく言ったものだ。

 姉、堕天。

 とも言えるほど、凶悪な笑いを浮かべていた。

 それがまた綺麗と思えるのだから厄介極まりない。

 艶やかな黒髪、視線を掴んで離さない美しい夜空のような瞳、いろんな意味でつりあげられた小さくかわいらしい口、仄かに漂う花のような香り。

 冒険者たちを魅了する美しき【黒の魔女】がそこにいた。


「あ」


 ちらりと見えた姉の部屋の中に、あのダッツがあった。

 ダッツはもう汗をかいていなかった。


 キレイにパウチに包まれ、『夏輝が触ったダッツの器』、そして、日付と感想が書かれたものがラベリングされていた。あと、お姉さま、その手に持ってる焼け焦げた髪は誰の、何、どうするの?


 姉は何も言わず部屋のドアを閉める。

 俺はひたすら心の中で再び号泣した。


 だから、言ったじゃないか。

 一輝と四季の間に生まれたらおんなじやと思いますて!

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