第15話 変態、妹と契約して下僕でオワタ

「じゃあ、あに、次は私の番」


 姉の部屋が閉まると同時につるべの動きが如く妹の部屋の扉が開かれる。

 そして、ぴょこりと顔を出す美少女は、わが妹、更科秋菜さんである。

 なんだ、インナーカラーというのか、紫と黒のツートーンというのか、おじさん分からんが、そんなアレの髪のアレをツインテールにしている(ツインテールはわかりますきです)妹が、そのツインテールを垂らしながらこっちを見ている。


 なかまになりたそうにこちらをみている。


「なかまに、する!」

「だが、断る」


 なんだなかまになりたそうにこっちを見てたんじゃねえのかよ。


「あにを、げぼくに、する!」


 え? なんだって?


 もうどうせ主人公スキルは使えないって分かってるからモノローグにするわ。


 え? なんだって?


 げとぼのつく言葉なんてつかっちゃ行けないんだよ、マイシスター。

 使っていいのはゲートボールくらいだ、覚えておきなさい。


「おい、げぼく」


 そうか、ゲートボールクソ野郎の略だな、誰がゲートボールクソ野郎だこのやろう。


「秋菜、げぼくって意味分かってるかな」

「分かってるに決まってるでしょ。下僕。しもべとも読み、召使や下男、下働きの男の意味」


 おおう、急にアニメキャラの真似止めて、素で返してきおった。

 たぶん、めんどくさくなったな、コイツこういうとこある。


「俺、兄なんだけど」

「兄が下僕になっちゃいけない決まりがある?」

「はは、こいつは一本取られたぜ、そんな決まりはないな」

「IPPON」


 うるせえ。このテレビっ子。微妙に似てんな。


「でもな、秋菜。下僕にならなきゃいけない決まりもないんだぞ」

「でも、初回下僕特典あるよ」


 なんだ、そのガチャも期待できそうにない特典は。


「円城のスマホをぶっ壊してデータを消去してあげる」

「秋菜様、なんなりとお申し付けください」


 俺は傅いた。

 いつでも靴をなめる準備はすぐにすませた。

 ただ、ウチは純日本人のお家なので、今は妹スリッパだ。

 いや、スリッパでも舐めようぞ。

 我、変態ぞ。


「で、でも、そんなことが出来るんですかい?」


 我、テンプレ下僕ぞ。


「出来るわ。だって、今日兄貴が帰った後に学校で円城に近づいてスマホ触らせてもらったの。んで、その時にマーキングしておいた。あとは魔力を込めれば破壊完了。ついでに、可能な範囲の同じ画像データ消してあげようか、たぶん出来るよ」

「秋菜様、我は何を舐めればよろしいので」

「舐めっ……んな!」


 顔を真っ赤にして怒られたぞ。我、愚者ぞ。


「げ、下僕に、下僕になって言う事聞いてくれればそれでいいから! じゃあ、契約成立ね」


 ボクと契約して魔法少女になってよっていう契約さえどきまぎせず断れば大体大丈夫ってイマジナリーばあちゃんに聞いたからな。大丈夫だろう。


 秋菜がスマホに何かを入力している。恐らく術式だろう。現代魔法の基本だ。

 現代魔法は、スマホなりパソコンに一定の定められた文字列を魔力込めながら打ち込めば発動できる。

 勿論、現代魔法と相性のいい奴でないと無理なんだが秋菜は非常に現代魔法と相性がいいらしく、入力もめちゃ早い。


「はい、どーん」


 秋菜がそう言いながら画面をタップすると一瞬大きくスマホが光る。


「ど、どーんしちゃったのか?」

「ん? ああ、今のはただの効果音。実際はバキイとかそんな感じ。まあ、サイコキネシス的な? んでもって……画像データを消去……!」


 秋菜が高速フリック入力をしながらさっきよりも数倍長い術式を打ち込んでいる。


「そ、そんなに長いのか?」

「んー、まあ、魔力弱い人の持ち物からならそんな要らないけど、強い人だとセキュリティというか魔力障壁やらなんやらで守られてたら難しいからねー」


 あの画像を魔力障壁やらなんやらで守っている奴がいるわけないでしょ!

と、思ったが、少なくとも数名心当たりがあるので、口を噤む。


「ふー、よし、じゃあ、いきますか!」

「い、今更だが、これって犯罪になるのかな……?」

「だいじょぶだいじょぶ、この二つの件に関しては政府のお偉いさんからの依頼だから」

「そ、そうか……」


 俺はほっと胸をなでおろす。


 ん? 待てよ。なら、俺の下僕契約はなんのために……?

 やはり、こやつ使い魔は使い魔でも俺を使います悪魔なのでは?


「いっきまーす、ぽちっとな」


 スマホをタップした瞬間、秋菜の魔力が波のように広がっていく感覚がした。


「……ち。結構な数がこの辺にいるなあ」


 秋菜が舌打ちしながらスマホをいじっている。


「な、何が……?」


 俺は恐る恐る聞いてみる。


「あたしの魔法をブロックした人。まあ、春菜ねえちゃんは当たり前として、あの自称幼馴染は間違いないね。んで、あとこの街の中で5,6人いたよ」


 なんでよぉおおお! あの画像持ってて何したいのよぉおお!

 バズりたいの!? 人の変態表示画像でバズりたいの!? 

 そんなの楽しい! ひとが相撲とったふんどしの中身曝してバズって楽しい!?

 ねえ!?


「まあ、でも、たぶんほとんど消えたし、これからも消してあげるから。これ以上は広がらないと思うよ」

「秋菜……!」


 素敵な妹がいて、お兄ちゃんうれしい!


「お兄ちゃん、あたしの下僕だもんね」

「秋菜っ……!」


 すてきないもうとがいて、おにいちゃんうれしい。


 まあ、なんて素敵な笑顔なのかしら。

 ツートーンのツインテールを靡かせながらくるっとこちらを振り返って、白い歯をのぞかせるその笑顔は姉に負けないくらい魅力的で、小さな体をかがませてこちらを挑戦的に上目遣いで見つめるその姿は小悪魔のようで思わず顔が緩んでしまう。


「じゃあ、げぼくあに、最初の命令です」

「ナンナリト」

「おやすみの……」

「オヤスミノ……?」

「ちゅ……じゃなくて、こ、言葉を送りなさい!」

「……えーと、おやすみ?」

「うん……おやすみ」


 顔を真っ赤にした妹が部屋に引っ込んでいく。

 ちらりと見えた壁中に貼られた男の写真は……うん、見てない見てない。似てない似てない。

 自分の部屋で現実逃避しようと振り返ったその先には、長い黒髪から瞳をのぞかせている姉だった。


「ひゅん! あ、あの……どうされました?」

「ワタシニモ……オヤスミのコトバ……ハ?」

「お、おやすみなさい」

「にやり」


 ぱたん、とドアが閉じられ姉封印完了。


 ふー、ヤバいな。変態バレて初日でコレだ。

 俺の平穏な日々、マジオワタ。

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