第13話 変態、車中ドキドキタイム、咳払いされてオワタ

 その後の【鉄人形の館】攻略は特に何事もなく進んだ。


 俺の能力を大体把握したと氷室さんが言った後は、俺大活躍。ぴえん。

 俺は活躍したくないのだ。


 だが、前門の鉄人形、後門の女帝。

 前門の方が圧倒的に楽。


 俺は進撃をつづけた。巨人化はしてない。


 そして、なんなく最奥のダンジョン核までたどり着く。


「じゃあ、壊しまーす」

「お前のその馬鹿な頭を壊してやろうか」


 後門の女帝が魔力を高めている。

 肛門の穴がきゅっと縮んだ。


 ダンジョンコア

 これはダンジョンを形成する本体みたいなもんで、これを破壊すると【混沌】とのつながりが断たれ、ダンジョンが消える。

 なのだが、魔石が燃料資源になる以上、壊さずにダンジョンを保存しておきたいのがお偉いさんの意向。

 よっぽどヤバいダンジョン以外は定期的に、冒険者に依頼してか国が仕事で魔物を間引いて管理している。


 というわけで大人しく撤退。

 元来たところの館の扉を潜ると、地下鉄入り口に戻る。


 あ、ちなみに、じゃあ、地下鉄乗れなくて困るじゃん。と思っている読者諸君。

 なんと、その奥に新しい入り口作ってるんです。

 どこまで魔石が欲しいのよ。

 まあ、今のところほぼ無限に湧き出る燃料資源となれば、そうもなるか。


 俺は新鮮な空気を大きく吸って爽やかにほほ笑む。


「じゃ! おつかれさまでした☆」


 キラリと白い歯を輝かせて去ろうとする俺。

 ギラリと瞳を輝かせて掴んでいる氷室さん。


「すぐ帰れるとでも?」

「え? 今夜は帰さないって?」

「ばばばばばか! そんなことな言ってにゃい!」


 予想外の真っ赤な氷室さんが登場した。

 おいおい初心かよ。かわいいかよ。


「私が送っていく。今後どんな輩が近づいてくるか分からんからな」


 まあ、そうか。

 ぶっちゃけ俺は色々ほんとやらかしている。

 いろんな意味で狙われる可能性がある。

 広まれば広まるほど気づく人間が増える可能性はある。


「まあ、家にさえ着けば大丈夫だろうが」


 ウチには有名女性冒険者が二人もいるからな。

 セキュリティもヤバいくらいしっかりしてる。安心安全のマセコム。

 マジックセキュリティコム……コム……コムソウとかなんか。まあ、マセコムだよ。

 マセコムヤバすぎて俺もマセコムに7回ほどひっかかったことがある。

 魔法による防犯システムなんて便利な世の中ね。


「ところで……お前はこれからどうするつもりだった?」


 国のなんかすげえ高そうでドライブスルー出来なさそうなそうなシートでもじもじしてたら、氷室さんが俺に尋ねてくる。


「え? 勧誘しに来たんじゃないんですか?」

「まあ、な……ただ、お前には個人的にも借りがある。お前の望む形に、とは思っている」

「じゃあ、このまま普通の生活を」

「それは無理だ」


 はやっ! オートリプライかよ。


「私個人としては、だ。出来るだけお前に人並みの幸せも味わってほしいと思っている。だから、その為にも私に力を貸してほしい」

「どういうことです?」

「私のチームに入れ」


 車が俺の家の前で停まる。氷室さんが真剣な目でこちらを見つめている。


「お前の為に新たなチームを作ろうと考えている」

「なんでそこまで……」

「初めて会った時のことを覚えているか?」

「あー、まあ……」


 【鉄人形の館】で初めて氷室さんと会った時のこと……覚えているが覚えているが。


「ふふ……まあ、そうなるよな。あの時は、見苦しいものを見せたな」

「いえ、そんなことは!」


 初めて会った時、氷室さんは、装備品をボロボロにされ、裸同然だった。

 ぶっちゃけ、当時中学生の俺には刺激が強すぎて、記憶があいまいだ。

 ただ、起伏が少なかったということは覚え


「ぴ!」


 目の前を指が通り過ぎる。今、目を狙ってなかった?


「まあ、ともかく……あの時私はお前に助けられた。そして、道を教えてくれた。私の生きる道を」


 あの後、氷室さんはダンジョン庁に就職したことをニュースか何かで知った。

 そのことだろうか。


「更科……私はお前になら私のすべてを見せてもいいと思ってる……!」

「え?」

「いや、違うな。私はお前に見せたい、私のはずかっ」

「うおっほん!」


 後部座席から大きなうおっほん。

 茶髪ポニーテールが揺れている。


「あのー、氷室リーダー。私の存在忘れてないっすよね」

「木部……勿論だ」

「間がありましたね、マジっすか」


 そう、この車は俺と氷室さんだけではない。

 後ろに二人いる。

 一人は茶髪ポニーテールの木部さん。

 で、もう一人は。


「私も……います」

「すまんな、岩田」


 無口大男の岩田さんだ。


「はあ、まあ、いいっすけど。とはいえ、また日を改めましょう。氷室リーダーちょっとテンション上がりすぎですよ」

「そ、そうか……そうだな。すまないな、更科。また、明日話をさせてくれないか」

「まあ、こうなった以上、国に面倒見てもらうのが一番いい気もしてますし話を聞くくらいなら」

「そうか! ありがとう! では、連絡先を交換をしないか?」


 氷室さんがスマホを持ち出している。なんかすっごく嬉しそうなんだが。

 俺は木部さんを見るが、手を合わせて『すんません』と口パクで伝えてくる。

 氷室さん、友達いないのかな……。


「どうしたなぜ目元をぬぐっている?」

「いえ、別に。交換しましょう、そうしましょ」


 そうして、氷室さんの個人スマホと連絡先を交換した後、氷室さんは上機嫌で帰っていった。車中なのに深々と木部さんがお辞儀をしていた。

 ていうか、運転手岩田さんに代わって、氷室さんスマホいじってた。なんでだ?


 ぴろん。


 氷室さんからMINEでメッセージが届く。

 明日の待ち合わせ時間、迎えに行くことなど事務連絡のあとに


『今日は会ってくれてありがとう』


 との言葉。かわいいかよ。にしても、今日は色々あった。

 クラスではハブられるし、幼馴染には冷たくあしらわれるし、冒険者に絡まれるし……でも、終わりよければ全てよしって奴だろうか。

 あんな美人にありがとうなんて言われたら、そりゃあ元気も出る。

 まあ、やり方は強引だったけど。

 あ、続きがきてる。ふふふ。


『お礼となるかは分からないが、この画像を送る。君も男子高校生だし喜んでくれると嬉しい』


 ぴろん。


 ……。


 肌色多めの何かが見えた瞬間俺はそっとMINEを閉じた。ららら。

 嬉しいよ、嬉しいけどさ。

 見たらなんかもうそれは責任とらなきゃいけない気がして、俺は閉じた。

 家のドアを開ける。そして、入る。閉じる。


「おかえり、変態」

「よくかえったな、変態のあに」


 姉妹が待ち構えていた。俺は瞳も閉じた。そっと閉じた。

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