第12話 変態、動けなくて怒られてモチベオワタ

 黒槍を構える氷室さん達と向かい合う形で、通称、鉄人形エーテが四体ほど並んでいる。

 なぜ、エーテかは知らない。鑑定したらそう出たんだそうだ。


こちらは五名(俺を除く)。数的有利は間違いない。


「事前にも伝えたが、今回は更科の能力を測るためだが、更科はブランクもある! 今回は、我々で撃破だ!」

「「「「はい!」」」」


 成程、一体、出来れば多少ダメージを与えた上で俺と戦わせて、俺の能力をみたいということか。なんだかんだで氷室さんは優しい。マジ女神。

 と思ってた次の瞬間、


「砕けろぉおおおおおらああああああっ!」


 氷室さんのびっくりするほど気合の入った叫びと同時に一体の鉄人形のボデーに穴が。

 流石である。マジデビル。

 護衛の方々も若干氷室さんにビビりながらも良いチームワークで三体相手に有利に状況を進めている。


 ただ、気になるのはチハラさんだ。

 彼の動きだけ少し不自然っていうか、あからさまに氷室さんにアピールしながら戦っている。「行きましょう、先輩方!」とか「オレの特訓の成果を見せてやる!」とか言っている。ああいうのマジ連携に不要。

 そのせいで、後衛の人たちが位置取りに苦戦している。あのままだと良くない。


 そんな俺の予感はよく当たります。

 チハラの槍、後衛の人の肩に当たります。

 肩を抑えた後衛の人が怒って、チハラさんに当たります。

 振り返ったチハラさんの背中に鉄人形の攻撃当たります。


 そして、俺への道空いてます。


 鉄人形が二体俺に向かってくる。

 そして、鉄人形の攻撃が俺に炸裂し、俺は館の壁に吹っ飛ばされる。


「おい! ガキィイイ!」


 チハラさんが動けない俺に対し叫んでいる。


 さて、いきなりな話だが、鉄人形には意志がある。

 結構狡猾な魔物で、まず弱いところから潰し、チームを崩壊させる。

 一番若くて動けていない俺に狙いを定めたのだろう。

 二体で襲ってきた。そして、壁に埋まった俺を引きずり出し、頭を鷲掴みにして氷室さん達に見せつけている。人質のつもりらしい。


「くそ! これでは……」

「卑怯な……!」

「だから、あんな奴大丈夫かって言ったんですよ!」


 護衛の人たちが口々に何かを言っている。チハラ、てめー、覚えてろ。

 氷室さんは、そんな彼らの前に出て口を開く。


「おい、なんのつもりだ?」

「え? ど、どうしたんですか? 氷室さん、なんのつもりってアイツらあのガキを人質にするつもりなんですよ!」

「私が聞いてるのはお前だ、更科夏輝」

「いや、だってー、そこのチハラお兄さんがー、動くなって言うんでー」


 俺は鉄人形に頭を掴まれたまま喋る。

 鉄人形は、一瞬驚いて俺の方を見、手に力を籠め始める。


「なら、コイツより偉い私が命じる。動け」


 俺は震えていた。だって、鉄人形が手をぷるぷるさせながら俺の頭潰そうとしてるんだもん。え? 無理だよ? めっちゃ固くしたもん。


「いいいいいやややややでももももも」


 震える。


「よし、では、こうしよう。お前の性能を見るためにも私は全力で槍を投げる。まあ、鉄人形は砕けるだろうが、お前はどうだろうな」

「動きます!」


 震えた。

 俺は髪の毛を鋼針鼠メタルヘッジホッグの針に変え、鉄人形の手に突き刺す。

 自分の手に穴が空いたことに気づいて慌てて鉄人形が俺の頭を離す。

 風鬼スカイオーガの腕に変え、腕の穴から風を吹き出させると硬化させた掌で手に穴が空いた方の鉄人形を吹っ飛ばし壁にめり込ませる。

 慌てて攻撃を仕掛けるもう一体の鉄人形の攻撃を風でズラし躱すと、俺は、風の力を利用し、鉄人形を投げ飛ばす。


 チハラに向けて。


 氷室さんが黒槍を最短の動きで操り、飛んでくる鉄人形の横っ腹に突き刺す。

 ただし、ギリギリで鉄人形の鉄のボデーがチハラの顔面に当たるタイミングで。


「なるほど、合格だ」


 ニヤリと満足げに笑う氷室さん。横でチハラはのびている。

 うん、たぶん氷室さんアイツ嫌いだったんだな。

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