第11話 変態、過去の行いをネタに脅迫され同行不可避オワタ

 氷室レイラ。二つ名【女帝】。

 日本ダンジョン最初の攻略隊『モノノフ』に当時16歳で選ばれた天才。

 元々薙刀の選手として活躍していた上に、固有スキルの強力さ、そして、魔力まで高いとなればそりゃあ選ばれるだろう。


 そして、超絶人気がある。

 銀髪のストレートロング、目は碧く吊り目気味だけどぱっちりしてるし、北欧の血のせいか日本人離れした彫の深さ、そして、それに反比例する凹凸の少ないバデー。


「ぴ!」


 おう、刃が鼻先かすったよ。


「失礼」


 この失礼は、攻撃して失礼、お前今失礼なことを考えただろうの失礼?

 とりあえず、俺はあいまいに笑う。

 ともかく、この人はもうにじゅ……


「ぴ!」

「失礼」


 なんだよこの人、心読むスキルとか持ってるの?


 えーと……ちょうさいこうにびじんのおねえさまなのです、わーい。


「よし、では、行こうか」


 超最高美人のお姉さまが歩き始める。向かう先は、自衛隊が張り付いている元地下鉄の入り口だ。


「A級ダンジョン。【鉄人形の館】。久しぶりだな、ここに来るのも」


 氷室さんが自身の装備を確認しながら呟いている。


 氷室さんは職業ジョブが【槍使いランサー】の上級職【槍聖ハイランサー】なので、武器は槍だ。ブンブンと振り回し武器の感触を確かめている。

槍は『黒槍ブラックランス』。重量と破壊力に全振りしたような槍だけど、まあ、彼女なら使いこなせるだろうし、このダンジョンであれば悪くない選択だろう。


「で、俺は何をすれば?」

「戦え、そして、証明しろ」


 何? ワールドナニガーの人? あ、道理でボーダーのシャツとか似合いそうだものね。

 身体に凹凸あったらボーダーのびちゃ……


「ぴ!」

「串刺しは好きか?」


 串焼きは好きか? みたいなノリで聞かれても。


「まあ、お前の身体を貫くことは難しいだろうが……」


 そりゃそうだ。俺は、本気を出せば、皮膚の一部を『魔鋼』にまで変えることが出来る。


 固有スキル【変態】

 スキルが覚醒した13歳の夏。俺は、その名前のヤバさにショックを受けた。

 ただ、その能力は恐るべきものだった。

 『自身の身体の性質や状態を今まで記憶したものに自在に変化できる』というものだ。

 つまり、俺は身体を鉄に変えたりとか、ねばねばにできたりするのだ。

 まあ、多少色々条件はあるが有用なスキルである。

 ただ、13歳の俺はその凄さに気づかずグレてちょっと色々やっちゃいけないことをした。

 そして、徐々にいろんなことを社会勉強し、一つの結論に至った。


 ダンジョンしんど。


 今や小学生のなりたいランキングではユーキューバ―やプロゲーマーを越えての堂々第一位である冒険者だが、その種類はピンキリだ。

 まあ、色々あって、俺は最前線に行ったことがあるんだけど、アレはマジでキツい。

 本当の意味で命を懸けなければならないし、魔物も激やば、罠もエグイ。

 それに何より……自分以外の死を見ることだってある。


 ともかく俺は冒険者にだけはならないと決めた15の夜。

 俺は冒険者を勝手に卒業した。


 はずなのに……。


「はあ~……え? ほんとに行きます?」

「行くに決まっているだろう、たわけ」


 氷室さんが呆れたようにため息を吐く。

 周りのごつめの方々は、「あ、やっぱりコイツ連れて行くんだ」みたいな空気になってますけど。


「いや、拒否権とかないんですか? 未来ある日本国民の若者に」

「……お前の違法行為の数々、分かっているんだろうな」


 もし『時間移動』のスキルを手に入れたら、13歳の俺を説得しに行こう。そうしよう。

 良い子にしてればサンタさんがやってきてくれるからマジ良い子にしてろって。


「氷室さん、本当に大丈夫なんですか?」


 黒服の気持ち細身のイケメンが氷室さんに近づく。


「何がだ? 千原」

「いや、本当にコイツ大丈夫なんですか? A級ダンジョンですよ」


 おお、いいぞチハラさん、もっと言え。


「それは私の考えが間違っているということか?」

「いえ、そういうつもりではないんですが、なんというか、緊張感のない子供のお守りは勘弁願いたいっていうか」


 おお、チハラさん、もっと言え。


「コイツ、弱そうですよ」


 おお、チハラさん。


「弱いかどうかは今から確かめろ。では、行くぞ。いいな」

「ダメです」

「いいな」

「はい」


 俺の言葉は氷室さんには届かない。着信拒否かな。

 着拒氷室さんを先頭に元地下鉄の入り口に入り始める。

 俺もそれに続くが、ふっとチハラさんが寄ってきて、足を蹴ってきやがった。


「おい、下手に動くなよ。迷惑そうな面しやがって、こっちの方が迷惑してんだよ」


 すっげえ顔で睨まれた。マジぴえん。

 いや、だって、行きたくないって俺も言ったんですけどとか言いたいが、我慢だ。

 今、ダンジョン庁のお偉い氷室様に睨まれたくない。


「すんません」


 ボソリと反省した空気を出しつつ謝ると、チハラさんは本当にデカい溜息を吐きながら足早に進んでいく。


 チハラさん、俺誤解してたよ、チハラさんのこと。


 あんた、すっげーやな奴だな!


 ちょっと苛々しつつ、元地下鉄の入り口をくぐると、いきなり赤い絨毯が敷かれただだっ広い洋館が現れる。

 これが毎回不思議だ。


 ダンジョンは、世界各地の様々な場所に現れた。

 ただ、ひとつだけすべてに共通していることがあった。


 それは『何かしらの入り口』であるという点だ。

 今回のように地下鉄の入り口だったり、建物の入り口、マンホール、鳥居を潜るとってのもあるし、珍しいケースでは、トイレの個室の扉をってのもあるらしい。

 そして、そこを潜ると、俺たちの世界からは消え、異世界に来てしまう。

 恐らく、異世界の方の入り口にもつながっているのだろう。

 何かしらの入り口があって、そこを通ると元の世界に帰れるのだ。


 今回も元地下鉄の入り口を潜っただけなのに、いつのまにか洋館の扉を通って入ったことになっている。


「転移酔いはないか!? 更科!」

「あ、大丈夫です。久しぶりでしたけど、平気でした」


 入り口、まあ、みんなゲートと呼んでいる。

 ゲートを潜るときに、そこそこ強めのぐにゃりとした変な感覚に襲われる。

 エレベーター酔いとかああいうのの凄い版だ。

 人によってはアレに慣れるところから始まる。


「では、行く、つもりだったが、向こうからおでましのようだな」


 氷室さんが笑いながら黒槍を構える。

 護衛の皆さんも各々武器を構えて態勢を整える。

 視線の先には黒い鉄の人形達が四体こちらを見つめながら待ち構えていた。

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