第9話 変態、狂戦士に絡まれて平穏オワタ

 さて、姉にお菓子を奪われ、妹にパシられ、クラスメイトの見たくない姿を見せられ、ツイていない一日だったが、人生楽ありゃ苦もあるさ、となんかの歌にあったはず。

 お陰様で、かわいい幼馴染に会えましたわ。

 でも、どうだろうか。


「へへ……見つけたゼ……変態野郎……!」


 俺の場合は人生楽ありゃ落あり苦もあるらしい。

 地獄かよ。


 今、地獄で【狂戦士】遭遇なう。

 正確には、カントリーな田舎道で【狂戦士】と呼ばれる冒険者と遭遇してしまったなう。


 ええ~、なんでぇ~。

 嫌がって狂戦士の冒険者マンシールを人に譲ったから?


 とにかく狂戦士が目の前にいる。

 口元は赤い鉄っぽいマスク隠していて、見るからにヤバい奴。

 フード被ってたんだろうけど周りに気づかれてたんじゃね?

 でも、みんなヤバいと思ったから無視してたんじゃね?

 ヤバくね?


「人違いじゃね?」

「人違いじゃねえヨ……てめえから匂うんだよ、あの変態野郎の匂いが」


 おい〇ァブリーズ、仕事しろよ!

 もしくは、あのネット広告のアレを買うしか……今見てる人限定って言われてたけど、もう無理かな……。


「さあ、ヤろうゼ」


 ヤろうぜ? ナニヲ?


「いや、あの……ここ、『外』なんで……」

「なんの為にオレが上級ランクにわざわざ入ってると思ってル?」


 おい! マジで上級冒険者の権利撤廃しろよ! 国、仕事しろ!


「心配するナ……! 素手でいく!」


 素手だから心配ないさぁああって、うるせぇえええ!

 脳内の大西ラ〇オンさんにグーパンかました。ほら、素手だって危ないんだよ!


「って、あぶねえ!」


 狂戦士の拳が咄嗟に構えた俺の腕に思いっきりぶつかる!

 マジか! もう終わりだよ! 無法地帯ニッポン!

 ここが変だよ! ニポン人!


「はっはっは! やっぱりお前は変態野郎ダ!」


 うわああ、わらってるう……。


「あの、じゃあ、もういいでしょ。勝手に分かった振りしてすっきりしたんでしょ」

「まだ足りねえヨ……!」


 狂戦士が薄くではあるが魔力で小さく震える拳を覆っている。

 興奮しすぎてヤバい。

 マジかよ、こいつ。


「さあ、ヤろう!」

「ヤらない」

「テメエ……エ……」


 マジかよ、こいつ。……麻痺毒きくのにこんなに時間かかるのかよ。


「あ、が……?」

「同じ手にひっかかるとはな、ばーか」


 俺はブツブツ浮かぶ腕を捲ってた袖で隠す。


「まあ、狂戦士さんほどステータス高い冒険者なら、五分せずに動けるでしょうし、放置させてもらいますねー」

「あ、あひゃひゃひゃ!」


 うわあ、わらってるう……。


「同じ手……同じ手だなア……やっぱりお前は変態野郎ダ……」


 はい、ばーかは俺でしたあ。同じ手とか言っちゃってるぅう。


「とっさに顔変えられたが、オレから逃げられると思うナ……変態野郎」


 全力ダアアアアッシュウウウウウ!


 ナニアレ、超怖いんですけどぉおおおお!

 もぅヤダ、今日なんなの!?


 落ち着け落ち着け、素数を数えろ。素数ってなんだ?

 大丈夫だ。

 スキルは狂戦士にはバレてても顔は変えてたし、バレてない。

 大丈夫、絶対に大丈夫。

 偶然会っただけだ。奇跡的な確率だ。

 ダンジョン付近のコンビニに行ったのが間違いだった。

 もう行かない。

 うえん、幼馴染勤務コンビニィイイ!


 だが、背に腹は代えられない。

 俺は普通の高校生なんだ。

 大丈夫大丈夫。

 固有スキル【変態】を俺が持っているって気づかれなければきっと大丈夫。

だよね?


 と、狂戦士に視線を送ると、アイツ囲まれてますわ。


「コイツ! 狂戦士じゃねえか!?」

「マジだ!? しかも動けないっぽいぞ!」

「おい! コイツの素顔曝してバズらせようぜ!」


 突然だが俺は、メディアが嫌いだ。

 全部ではないが、嫌いだ。

 人の私生活を切り抜いて売って。

 ま、買うやつもいるからみんなやってんだろうけどね!


 ま、どうでもいい話なんだけどね。


 要は、


「俺はお前らみたいなのが嫌いなんだ、コイツより」

「は?」


 足をしならせて一気に近づき、マスクに手をかけた男の腕をとる。


「なんだテメエ?」

「いや、そういうのやめません? ダサいっすよ」

「はあああ!?」


 男がマスクで殴りかかろうとする。

 いや、硬くなってもいいけど、狂戦士マスク壊されたらキレそうだしな。


「スライムにしとくか」

「この……! な!?」


 というわけで跳ね返す。

 ぷにぷにもち肌でよかったわ、うん。

 そして、マスクは回収。ヨガやってるからね、身体やわらかくてヨカッター。


 おお、ビビってるビビってる。

 全員がちょっと距離をとる。

 けど、こいつらにもプライドがあるのか、ただでは帰れないようだ。


「……ま、いっか」


 こいつ等にはちょっと腹が立ったし、幸い顔は隠れている。

 それに、俺は正義の味方ではない。これまでもこれからも。


「痛い目見とけ」


 俺は腕を伸ばし鞭のようにしならせ固めた拳をぶつけていく。

 何が起きたのか分からないまま殴られていく男たち。ウケる。


「て、てめえ、もしかして……モンスターか」


 ふむ、そう思われるのもちょうどいいかも。

 よし、そうしよー。


「その通りだ。こいつは俺の獲物だ……邪魔するなら……!」

「ひ……! に、逃げろ! ダンジョン外にモンスターなんて冗談じゃねえ!」


 まあ、冗談だしね。

 ていうか、コイツが出てきたらマジで冗談にならんしな。

 おーおー、逃げてく逃げてく。


「さて……げ、もう少し動き始めてるじゃん。こわ……あー、マスク返すね」

「……たすかった」


 ん? んん?

 俺は今聞こえた超絶アニメ声が気になって思わず顔を覗き込む。


 ちょうびしょうじょ。


 うん、見なかったことにしよう。

 俺は何も見てない。銀髪青眼美少女なんて見てないんです。


「みたな……変態」


 まあ、できるわけないよねー。って、誰が変態だ! 当たってるけど!


「えーと、ここで見たことは忘れるので! 君も忘れることにしよう!」

「いやだ」


 あらやだこの子、もう立ち上がったわ。


「絶対に、忘れないからナ……!」


 こわ。何あのマスク、変声機? 〇笠博士からもらったの? 時計型麻酔銃とか持ってないよね?

 まあ、有難いことに狂戦士はそのまま去っていった。


 しかし、まあ、超美少女だったけど、いや、だからこそ、素顔曝されるのは怖いよな。

 俺だって怖いよ……固有スキルが【変態】だって曝されたらもう!

 神様、僕は今日人助けをしました。

 なので、一生俺の固有スキルがバレずに平和に暮らせますように!


 というフラグを盛大に立てた翌日。


『コイツの固有スキル【変態】でワロタwww』


 ツブヤイッターで大バズりしてる呟きを見て、俺は思ったね。

 俺の人生落ありゃ苦もあり神はいねえなって。

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