第8話 変態、可愛い幼馴染みに会えて厄日オワタ

「いらっしゃいませー!」


 最寄りのコンビニ到着。

 ここは学校の帰り道にあるコンビニと違って、ダンジョンが近いので、冒険者用携帯食とかも多少取り揃えている。


 なので、なかなかゴツめのお客さんが多い店内で一輪の花、ナイスブラウンミディアムボブの美少女が笑顔で挨拶している。

 俺と目が合うと小さく手を振る。


 かわいい。


 一輪の花の名は、立花理々。

 何を隠そう、俺の幼馴染みだ。

 愛? あれはニセモノだ。


 理々とは本当に小さい頃からの付き合いで、お互い意識してる、と思う。というか、理々から告白に近いものもされた。




『夏輝といるとおちつく……』


 と顔を赤らめて言われた。かわいい。かわいいが過ぎる。


 そんなかわいい幼馴染みがレジで若い冒険者のお兄さんに絡まれている。


「ねえ、りりちゃん、俺と付き合ってよ」

「いや、私、気になってる人がいて」

「なら、お試しってことで、ね?」

「あの……後ろ詰まってますけど」


 俺が声を掛けるとお兄さんはちょっと睨みながらも渋々出ていく。


「大丈夫か?」

「いやー、参っちゃうよ。最近多くて」


 流石、我が幼馴染み。モテる。


「あれ? 嫉妬してる?」

「してますけど、何か?」

「あはは、そっかあ」


 かわいい。かわいいが過ぎて、可愛すぎる。


 帰り際も小さく手を振ってくれる。


 かわいい。快速可愛い発車します。


 そんな幼馴染みの顔を見られれば、そりゃあテンション上がります。


「あ、夏輝じゃん! おーい!」


 愛発見。テンション下がります。白線までお下がりください。


「すごい偶然だね。運命かな、えへ」


 俺の脳内でベートーヴェンがダダダダーン言うてますわ。

 愛は嬉しそうだが、結構敵意剝き出しの人もいて早く帰りたい。


「愛、その人は?」

「ああ、この人がね、夏輝! ワタシの彼氏、予定、なーんて、ね! って、ていうか、ダンジョン内では許可したけど、外では下の名前で呼ばないでって」

「あ、あのー」

「あ! 夏輝は良いんだよ! だって、ねえ……うふふ」


 うふふじゃねーよ。

 めっちゃにらんでるよ。さっきのお兄さん。

 あ、この人、【風騎士】じゃん、やだもー。


「そ、そっか。いやー、うらやましいなー! 名前呼びが許可されてるなんて、な!」


 風騎士が俺の背中を冗談交じりに叩こうとしてくる。

 だが、動きはマジだ。

 折れはしないが激痛だろう。

 それはダメだ。

 妹が激怒する。

 早く帰らねば。


 仕方ない。


「なんかー」


 俺はへにょりと崩れ落ち、風騎士の張り手は空を切る。

 よし。一瞬だったので誰も気づいてなさそうだ。


「へ!?」

「なんかー、おなかすいたんでー、おれー、かえりますー」

「あ、ああ……あの、そんなしゃべり方だっけ? はは……」

「あ、すみません戻します。大変失礼いたしました。これはお詫びですお納めください」

「急にかたくなったね。いや、そんなお詫びとかちょっと……」


 俺は風騎士に賄賂を贈り、その場を後にする。

 愛がめっちゃ風騎士を睨んでいたが、あとは知らん。

 若いもんでご自由に。


「なんだったんだ、彼……?」

「ちょっと……早川さん……!」

「あ、あはは! やだなー! 冗談冗談! それより何くれたんだろ!? 冒険者マンシール? げ、狂戦士」


 耳を澄ませば聞こえてくる後方200メートルにいる若者たちの声を尻目に俺は家へと向かう。

 っていうか、狂戦士、アイツマジでみんなに嫌われてるな。


「いらないなら下さい、っていうか、下さい。指紋あんまりつけないで消えちゃう」


 愛がシールを欲しがっている。そうかそうか、愛も冒険者マンシール「を」アツメテルノカー。

 俺は耳を澄ますのを止めてカントリーなロードである帰り道を急いだ。


「おう! 夏輝! お前も時速60キロで感じる風はおっぱいの感触と同じ説を検証するために走ってるのか!?」


 俺は耳を澄ますのを止めて帰り道を急いだ。

 アホよ、今日は月曜だ。水曜日じゃあないんだよ。

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