第5話 死刑囚、発見される

「はい、みんな、ケーキですよ」

 1ピースを四等分させたショートケーキが、それぞれ皿に乗せられた状態で人形たちの前に並べられる。

「おじいさんにも、おいしいですよ、このケーキは」

 チーン、とお鈴が鳴らされる。

 仏壇の中には、おばあちゃんの旦那であろう男性の写真が置かれている。硬い表情の厳格そうな紳士だ。

『けっ、どちらにしろ食えねえじゃねえか』

 男は心の中で唾を吐く。ショートケーキはラップに包まれ食べれない。

 というかぬいぐるみの体でどう食べろと言う話だ。

 思えばこの状態、原因もなにも判明も進展もしていない。ただおばあちゃんの手元に落ち着き、ついでに呪いの人形×2の仲間入りをしているだけだ。

 いったいなぜぬいぐるみになどなってしまったのか。これが死後の罰だというのか。


『知らないわよ。そんなこと』

 西洋人形は男の疑問に答えた。

『あんたがどんな人生だったのか、あんたがなにを思っているのか。そんなのどうだっていいわ』

 ずむ、と西洋人形の拳が沈む。男は倒れる。

『私が気になるのはただ一つ。あの子をババア呼びしてるってことよ!』

『いだだだだだっっっ』

 どすっどすっ、と蹴りもくらわされた。

『しわくちゃの女をババアって言って何が悪い!』

『何ですって?!』

『ぎゃああああっっっ』

 西洋人形だけでなく日本人形の自在に伸びる髪も男を襲う。

 交互に繰り出される攻撃に、男(ぬいぐるみ)は箪笥の上から落ちた。

『うぅっ、くそっ』

 うつ伏せに落ちた男。背後に迫る日本人形の髪の気配。

 ぼこぼこにされ、恐怖よりも怒りが勝った。

 感情の高ぶりが頂点に達したそのとき、男の体はこたえた。

『うおおぉぉぉっ!!!』

 うつ伏せから起き上がるぬいぐるみ。

『おらっ!』

 迫りくる髪をすんでで避ける。

『動ける!動けるぞ!』

 赤い熊のぬいぐるみが、二本足で立っていた。

 男は歓喜に沸く。

『よし!動けるとなればこっちのもんだ!』

 こんな陰気なとこからおさらばだ! と駆けだす男。

 しかし運は尽きた。


「じーちゃんに挨拶して帰るか」

 ガラッ

『あ』

「あ」

 二足歩行のぬいぐるみはばっちり、おばあちゃんの孫と目が合った。

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