第五章 犯人逮捕
第33話 逃走
そして
するとあっという間に回答が返ってきた。
「所長、
スキャナーの隣にある大型プリンターからネガから引き伸ばされた写真と、水谷さんの運転免許証の写真が印刷されていく。用紙を取り出した玲香さんは、二枚を見比べていく。
「間違いないわね。土岡さん、これで水谷さんから事情を聞く動機ができました。さっそく身柄を確保してください」
「わかりました。あと、できれば
「金森くん、今回の事件にかかわりのある人が写っていないか、全員ぶんチェックしてください」
「了解です」
金森さんが生き生きとしてきた。こうやって解析作業をするのが彼の本分なのだろう。監視カメラや防犯カメラの映像にもアクセスできるし、運転免許証のデータベースをも操れる。
“天才ハッカー”という言葉が浮かんだが、その枠に収まるような人とも思えなかった。華麗な玲香と、裏方に徹する金森のコンビネーションが事件の真実を明らかにしようとしていた。
「木根佑子は顔写真が手に入りませんでした。利用したフランス料理店の防犯カメラから木根佑子をピックアップします。少々お待ちください……」
それにしてもいともたやすく監視カメラ・防犯カメラの映像が手に入るものだ。それぞれIDとパスワードだって必要だろうに。
それにしてもこのAI顔認証システムは誰が開発して運営しているのだろうか。もしかして金森さんの自作、なんてことはないと思うけど。
警察や税関あたりが不審者の割り出しに構築している可能性はあるのかな。
「木根佑子の顔データを取得しました。これで関係者全員ぶん揃いましたので、顔認証にかけます」
「お願い致します」
関係者と思しき人物のうち、ヒットしたのは水谷航基さんただひとりだった。
「土岡警部、ビンゴです。遺体発見現場の群衆の中にいたのは水谷航基だけですわね」
「わかりました。全員の顔データと顔認証の結果画面の印刷を。私は課員に水谷確保を指示します」
目の前で繰り広げられているのはドラマなのだろうか。
こんなにもあっさりと犯人が見つかるなんてそうないことだ。
最初から水谷さんに目をつけた
土岡警部はスマートフォンで捜査本部へつなぎ、課員に指示を出している。
水谷さんに逃げられたら捕まえるのに難渋するだろうが……。
警部はスマートフォンで水谷さんの運転免許証の写真を撮影し、捜査本部へ送った。そこから各員に一斉送信されるのだ。
警察の捜査もどんどんハイテク化が進んでいるのだな。刑事ドラマが安っぽく見えてくる。まあ街中で銃を撃ちまくるような刑事はドラマにしかいないんだけど。それでも今は武闘派というよりも頭脳派で占められているようだ。
「土岡さん、お借りしていたネガをお返しします。早急に水谷航基を確保してください。おそらく証拠は処分されていると思われますが」
「まあそうですな。写真に撮られた服と、犯行に使用した手袋は処分済みでしょうな。だが、顔認証で面が割れているから、服がなくても任意聴取は可能。あとは確保の連絡を待っていればいい」
すると折り返しで警部のスマートフォンへ連絡が入った。
「土岡だが……。なに、逃げられただと! バカモン、すぐに見つけ出せ! 車に乗られたら厄介だぞ!」
その声に玲香さんはすぐさま指示を出した。
「どこで見失ったかわかりますか?」
「おい、どこで水谷を押さえようとしたんだ……。吉祥寺駅南口だと? 近場にいる課員をすべて呼び出せ。なんとしても水谷を確保するんだ」
「金森さん、吉祥寺駅南口です。追跡をお願い致します」
「了解です」
金森さんは先ほど水谷を押さえようとした時間と場所を割り出して、付近にある膨大な監視カメラ・防犯カメラにアクセスして次々とAI顔認証システムに預けていく。
「現在ファミリーマート前を通過、駐車場へ向かっていますね。どうやら車で逃走を図る模様」
「総員車に乗り込め! これより車で挟み撃ちにするぞ。水谷の位置はこちらからフォローしていく!」
金森さんのタイピングスピードがさらに速まった。パソコンのウインドウがひっきりなしに出ては消えを繰り返している。
「陸運局から水谷の登録ナンバーを取得。オービスでの追跡も開始します。なお車は黒の三菱自動車・eKクロス」
土岡警部が金森さんが引き出した情報を課員へ伝えていく。
「三鷹市のディスカウントストアで被疑者発見。なにか買っているようです。防犯カメラ映像、出します」
大型モニターに映し出された。水谷航基さんと思しき男性が手になにかを持って列に並んでいる。警察に追われているにしてはずいぶんと落ちついた印象だ。
「これは、サングラスと包丁とタオルですかね。サングラスは変装用、包丁とタオルは護身用かもしれません」
「水谷は包丁を購入しようとしている。各自じゅうぶん注意して確保に当たるように」
「玲香さん、水谷はこれからどこへ向かおうとしているのでしょうか?」
私はふと感想を漏らしてしまった。
ここは水谷確保の最前線だ。そんなのほほんとした問いかけに答えている余裕などないだろう。
「おそらく都内から逸早く離れたいはずです。ここからだと中央高速に乗って山梨県へ……。いえ、五代朋行氏の捜査が行なわれているところへこちらから向かうとは考えづらいですわね。おそらくさらに南下して東名高速へ入り、名古屋方面へ逃げるつもりでしょう。土岡さん、圏央道での挟み撃ちを提案致します」
「本部、神奈川県警にも連絡を入れてくれ。圏央道で東名高速に乗ろうとしている黒のeKクロスを挟み撃ちにするぞ! 繰り返すが、水谷は刃物を所持している。各員じゅうぶんに気をつけるように」
やはり本庁の警部だけのことはある。
土岡さんからは歴戦の勇者のような威厳が感じられる。
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