告白 side織
誰だ、こいつは。私の目には彼が別の、いや知らない人になってしまったかのように見えた。
「ねえ、織は僕のこと嫌い? 嫌いになった?」
「私が君を嫌いになるわけないだろう」
「じゃあ、なんでさっきから拒絶するの」
「そんなこと」
「ねえ、なんで手をつないでくれないの? ついこの前まで何も言わなかったじゃないか」
「私たちもそろそろ距離感を考える必要があるだろ」
「そんな必要ないよ? なに、誰かから言われたの? あ、もしかしてあのセンパイかな」
「先輩は関係ないぞ」
「じゃあ、どうして?」
なんか、瑠衣が怖い。なんでそんなに質問責めしてくるんだ。怖い。こわい。
寒さと恐怖で思考がまとまらない。もう、面倒だ。言ってしまおうか。
「気づいてしまったからだよ。私は君に特別な気持ちを持ってしまったということに」
あ、言ってしまった。思うだけにとどめておこうと思ったのに。
「織」
彼が呼ぶ。怖くて顔を上げられない。
「織、今のほんとう?」
手袋のしていない手で無理やり顔を上げられる。せめてもの抵抗で視線だけは絶対に合わせないようにする。
「織、僕の目を見ていって。それってなに?」
「私は君が嫌いだ」
「噓だね」
「ああ、嘘だよ。嘘だ。私は君が好きだ」
もう、なんでもいいや。こいつはもうわかっている。どうせすでに知っていたんだろう。私が約束を反故にしていたことに。隠すだけ無駄だ。隠そうとすることが無駄だった。
「家族とか、友人とか、人として、とかじゃない。世間一般でいう恋愛対象としての好きだ」
ああ、気持ち悪いな。もういい。もういいんだ。隠さなくてもいいんだ。
「悪かったな。好きになってしまって。約束したのにな」
「なんで、あやまるの」
「思えば私はもっと昔から、何なら出会ったころから君に恋していたのかもしれないな。そうなると私は初めから君に嘘をついていたわけだ」
笑いがこみあげてくる。アハハとこらえることなく笑う。
「なあ、君が昔私に尋ねたことを覚えているか? 恋とはなんだ、愛とはなんだってやつ」
彼は呆然としている。それもそうか突然語りだしているんだから。
「ああ、確かに君の言うとおり恋というものは実に汚いものだった。私は君を独り占めしたくてたまらなかった。わたしだけを見てほしかった。他の人と、まして励とかいう君の友人とすら会話をしてほしくないほどだったんだ。すごいな。女というものは。すごいな。恋というものは。どうだ? きもちわるいだろう。私もそう思う。誰かの一番になりたいなんて思うなんてな。私が一番なりたくなかった女になるなんてな」
ああ、もう何が何だかわからない。意味の分からない涙があふれて止まらない。笑いが止まらない。私はどこで間違えたんだろう。どこからやり直せばいいんだろう。こんなにぶちまけてしまってはもう二度と同じ場所には居られない。君のそばにいることはかなわない。君のそばがこんなにも居心地の悪いところになってしまうなんてな。なんという皮肉だろう。
「吐き気がするだろう。こんな奴だと思わなかっただろう。大丈夫。安心しろ。私は君の前から消えるのも別に悪くないと思っているから」
夜の帳が下り、防犯灯がチカチカと怪しく点滅する。ブーンという独特な音があたりに響く。
彼は何も口に出さない。どうした? 私に幻滅したか? それならいい。もっと軽蔑してくれ。私をつきはなしてくれ。なあ。
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