変化

 私たちはいつでも一緒にいた。それは中学に上がってからも変わらなくて、私たちだけが変わらなかった。

 変わっていくのはいつでも周りの方だった。

 制服を身にまとうことによって、私たちの性別ははっきりとしたものになった。みんながみんな私を女として扱う。彼を男として扱う。

 彼の背もよく伸びた。顔だちも大人っぽくなった。声も低くなった。女の子たちはそんな彼を見て黄色い声をあげるのだ。

 彼がモテるのは別にいい。むしろ自分は前から彼の魅力に気が付いていたのだと誇らしくなるから。だけど、そのせいで私につっかかってくる女の子たちが厄介だった。



「なあ、瑠衣」

「何? 織」

「君のファンどうにかならないか? うっとおしい」


 瑠衣の部屋で寝転がって漫画を読みながら話を振る。瑠衣は読んでいた雑誌から顔を上げ、目を丸くしていた。


「珍しいね、織が人のこと言うなんて。なんかされた?」

「瑠衣に近づくなーって、非常識だって言ってくるんだが。ずるいって泣く子もいるからたちが悪い」


ルイは苦笑いを浮かべた。


「うーん、僕がどうにかするのは難しいな」

「そういうもんか?」

「そういうもん。対策として何かしてみる?」

「なにかって?」

「一番手っ取り早いのは付き合って恋人になることだけど、織はそういうの嫌でしょ?」


 さすが瑠衣だ。私が一番嫌がることをわかっている。勢いよく頷く。


「じゃあ、距離を置くことにしようか。学校とか、道端とか、見かけても声をかけちゃだめってことで」

「私は大丈夫だが、瑠衣、君はできるのかい」

「うっ、自信はないけど、頑張るよ」



 それから私たちは傍から見れば仲たがいしたかのようにバッサリとかかわる機会がなくなった。それでも、私と彼との距離は何一つとして変わることがなかった。変わりようがなかったいった方が正しい気もする。私の一番心地いい場所にいたのがルイだった。そして彼の一番心地いい場所が私だった、ただそれだけなのである。


   *


 いつからだろう。彼の女遊びが激しくなったのは。彼は女の子と付き合って別れてを繰り返すようになった。長くて三か月。短くて三日。別れるたびに虚ろになって私のもとを訪ねてきた。

「ね、別れた」

「そう」

「織」

「なに」

「君は違うよね」

「なにが」

「君は僕を置いていかないよね」

「あたりまえだ」


「織、わかれたよ」

「またか」

「うん、また」

「その遊び、やめたらどうだ」

「んー?」

 あいまいに笑う。なまじ顔が整っているだけあってその表情のなんと儚いこと。

「私がいるんだから」

「織は別枠だから違うんだよー」


「ねえ、織」

「どうした。また別れたか?」

「愛とか恋とかってなに。すきってなに」

「今度は唐突だな」

「少女漫画とかさ、ドラマとか、いろんなところで素晴らしいって言ってるじゃん」

「まあ、そうだな。きれいなものって印象は強いかもしれん」

「きもちわるい」

「え?」

「そういうのがどうしようもなく気持ち悪くて仕方がないんだ」

 苦しそうに吐き出すように言う。

「きもちわるい。僕に向けられる好意がきもちわるい。僕に好意を向けられようとするやつらもきもちわるい。勝手に僕の気持ちを代弁してる奴らもきもちわるい」


「ねえ、織。織だけは、どこにも行かないよね。織だけは僕に好かれようとしないでくれるよね。織だけは僕にそういう感情をむけないでいてくれるよね。ね、ね。織は違うもんね。他の奴らと違うもんね」

「ああ、私はどこにも行かないさ」


 女の子たちと付き合っている彼はなんだか別人のようで、自分の知らない人のようで、なんとなく怖かった。それでも、彼女と別れたら私のところに来るのだから、まだ変わっていないところもあるのだと、彼は瑠衣はあの頃のままなのだと安心できた。


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