ずっと一緒


 早退なんていつ以来か記憶にない。

 それくらい俺は頑丈な体に生んでもらったのだけど、今日は先輩に勧められて早退して昼間から家にいる。


 先輩と、もちろん一緒だ。


「染谷君、あーん」

「い、いいですよ自分でできますから」

「ダメ、病人は安静にしてないと」


 自室のベッドに寝かせられて、先輩がおかゆを口に運んでくれている。 

 看病してくれている。


 でも、俺はやっぱりどこも悪くない、はずだ……。


「先輩、俺はもう大丈夫ですよ」

「だから?」

「え?」

「だから何? ねえ、何が大丈夫なの?」

「あ、あの、だから……体調が」

「そんなに学校、戻りたいんだ。私といたくないんだ」

「せ、先輩……」


 先輩がワナワナと体を震わせている。

 そして、「わかった」と呟くと、そっと立ち上がって部屋から出ていってしまった。


「……怒ったのか?」


 一人取り残された俺は、ポカンとしたまま目に焼きついた先輩の残像に首を傾げる。


 怒る理由が、はっきりとわからない。


 ただ、もし俺の都合のいいように解釈すると、先輩は俺と一緒にいたいのに俺が早く学校に帰りたそうにしていることへ腹を立てたと。


 つまりそういうことだと考えれば辻褄があう。

 それほど、俺のことが好きってことなのか?


「あ」


 なんてことを考えていたら先輩が戻ってきた。


 何かを持っている?


「……輪っか?」


 先輩が手に持っているのはリングのようなものだ。


「染谷君、これつけよ?」

「へ?」


 かちゃっ。

 音を立てて俺の手首にその輪がはめられた。

 そのあと、先輩はもう一方の輪を自分の手首にかける。


「もう、これでずっと一緒だね」

「あ、あの……これは?」

「手錠。もう、これで離れられないね」

「じ、冗談、ですよね?」

「なんの? 私、おトイレもお風呂も全部、染谷君と一緒でいいよ? ううん、一緒がいいの。うん、ずっと一緒」


 先輩が、鎖で繋がれた手を俺の手に乗せてくる。

 そして、そっとベッドに足を乗せて俺に寄りかかってくる。


「あ」


 先輩の顔が俺に近づいてくる。

 甘い香りが部屋中に広がると、俺の思考がぼやけてくる。


 そして、柔らかい感触と先輩の体温が口元から広がってくる。

 その瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。


 もう、何も考えられなくなった。

 




 

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