目覚め
♤
「……あ、おはようございます先輩」
どうやら保健室のベッドで眠っていたようだ。
昨日はなかなか眠れなかったからなあ。
でも。
「おはよう、染谷君」
先輩がベッドの脇に座って俺を見守ってくれている。
なんという幸せだろう。
「あの、今何時ですか?」
「今はお昼休み。ねえ、やっぱり疲れてるみたいだから今日は早退しましょ?」
「え? いや、ぐっすり寝たからもう元気ですよ」
「そんなに教室に戻りたいの?」
「せ、先輩?」
グッと腕を掴まれたが、先輩の握力がジリジリと強くなっていく。
「い、痛いですよ」
「ねえ、なんで戻りたいの? ねえ?」
「も、戻りたいとかじゃないですけど……」
鬼気迫る様子の先輩を見て、俺は焦った。
どうして俺が教室に戻ることにそこまで反対するのかわからないが、とにかく一緒にいてほしいという気持ちだけは伝わってきたので、「帰りましょう」と言った。
言ってしまった。
すると、
「うん。早く帰ろ」
ニカッと、満面の笑みを浮かべる先輩は俺の手をグッと引っ張って俺を立ち上がらせる。
保健室の先生が戻ってきていて、ベッドから起きてカーテンを開けたところで先生と目が合うと「お大事に」とだけ。
三十路の独身だという田中先生は何度か廊下ですれ違ったことがあるが随分と無愛想な女性だ。
それは今日も変わらない。
俺の目を見ることもなく退屈そうに本を読んでいた。
先輩に手を引かれて廊下を歩いていると、お昼休みとあって多くの生徒の注目を浴びたがそんなものに構う余裕もなく。
そのまま学校をあとにした。
♡
ふふっ、よかった。
染谷君が他の子のところに戻らなくて。
それに、まだ日は高い。
今日も一日、ずっと一緒。
でも、明日からもずっと学校サボるのは大丈夫なのかな?
ううん、大丈夫とか、そんなんじゃないよね。
染谷君が浮気する方が問題だもんね。
うん、そうだね。
絶対、させないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます