終わりのはじまり
♤
「……これは?」
風呂から出ると、着替えが置いてあった。
慌てて入ったこともあって準備するのを忘れていたはずの着替えが丁寧に折りたたまれて脱衣所のかごの中に。
先輩の仕業、だろうか。
下着まで準備してくれたってこと、なのか?
年下男子のパンツくらいなんてことない、ってことなんだろうけど。
「……恥ずかしいな」
先輩が俺の身の回りの支度をしてくれるなんて、落ち着かない。
でも、恥ずかしいけど嬉しい気持ちもやっぱりある。
俺もそのうち先輩の下着を……いや、それはこれから次第、だよな。
「先輩、あがりました」
着替えて部屋に戻ると、先輩は部屋の真ん中にちょこんと正座していた。
そしてジトッと上目遣いで俺を恨めしそうに見てくる。
「……どうしました?」
「遅い」
「え?」
「遅かった。待ったんだから」
拗ねた様子でツンケンする先輩。
俺が出てくるのが待ち遠しかった、のか?
「あの、待たせてすみません」
「うん。寂しかったから、いっぱい埋め合わせしてくれる?」
「う、埋め合わせですか? まあ、俺にできることなら」
「じゃあ……ん」
「え?」
先輩が両手を広げた。
「ぎゅっとして。慰めて」
「え、ええと」
「嫌なの?」
「そ、そんなわけ……いいんですか?」
「うん。早く機嫌とって」
俺は吸い込まれるように先輩の胸の中へ。
そして、そっと彼女の背中に手を回して抱きしめると、俺は甘い香りに包まれた。
いちご飴のような甘い、そして桃のように爽やかな。
俺は頭の中が真っ白になった。
もう、何も考えることができない。
今俺はどのくらいの強さで先輩を抱きしめて、どれくらいの強さで先輩に抱きしめられているのかもよくわからない。
わかってることは、先輩と密着していることだけ。
先輩に包まれて、先輩の香りに包まれて。
まるで時間が止まってしまったような感覚のまま俺は固まってしまった。
♡
可愛い。
大好き。
今、私の腕の中で彼が落ちていく。
今、彼の腕の中で私が溶けていく。
もう、大丈夫そうだね。
私以外の人のこと、見えないね。
うん、絶対見たらダメ。
目の届かないところに行っちゃダメ。
明日から学校だけど。
学年も違うけど。
ずっと監視してるから。
暖かい。
温かい。
もう、離さない。
「ねえ、このまま一緒に寝よっか」
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