約束
♤
先輩が部屋に戻ってくる時、何かぶつぶつと呟いていた。
ちゃんと、ちゃんと。
そんなことが聞こえた。
俺がちゃんとしたいって話したから、先輩もそうしようと頑張ってくれてるのかもしれないけど。
そんなに言い聞かせるようなことなのか?
「あの、飲み物は大丈夫でしたか?」
「うん。あの、染谷君」
「はい、なんですか?」
「ちゃんとしたいって、染谷君のお願いはちゃんとわかったよ」
「そ、そうですか? それはよかったです」
「うん。でね、私もちゃんと、しようかなって」
「……先輩はちゃんとしてますよ」
「染谷君と、ちゃんとするよ」
「え、ええと……なんの話ですか?」
どうも話が見えてこない。
一体先輩は何が言いたいのか。
しかしその答えはすぐに。
「染谷君と、ちゃんと付き合いたいな」
俺の耳に届く。
「……え」
「嫌なの?」
「は、はへ? 先輩、今なんて?」
「私と付き合うの、嫌なの?」
「……付き合うって、それって」
「彼女にしてくれないの?」
「彼女……彼女!?」
彼女とはつまり……
「彼女は、嫌?」
「……これ、冗談じゃありませんよね?」
「こんな冗談、言うような人だと思われてるの?」
「い、いえそんな……ほ、ほんとに俺の彼女になってくれるんですか?」
「うん。ダメ?」
「……ダメなわけないじゃないですか。俺、嬉しすぎて頭がおかしくなりそうです」
さっきから呼吸が苦しい。
心臓が突き破ってきそうなほど脈打って、体が燃えるように熱い。
「じゃあ、今から私、彼女でいい?」
「……本当に俺、先輩の彼氏でいいんですか?」
「うん。ちゃんとしないと、ね」
「……」
「染谷君、嬉しい?」
「は、はい! なんかもう、夢みたいです」
嬉しすぎて頭が回らない。
でも、聞き間違いでも夢でもない。
俺は今、先輩と付き合ったんだ。
「せ、先輩」
「彼女だから先輩じゃないよ?」
「あ……ええと」
「凍花、だよ?」
「凍花、さん……」
「うん。よろしくね。これから、二人でいっぱい、二人だけの約束をしていこうね」
「はい……」
頬を朱に染めて嬉しそうに笑う彼女をみていると、もう、何も考えられなかった。
今日、俺は人生で最高に幸せな瞬間を迎えていた。
初めて、彼女ができた。
大好きな人に、想いが伝わった。
♡
「よろしくね」
これから、ずっと。
もう、彼女だから。
女の子とお話も禁止。
女の子と目を合わすの禁止。
もちろん女の子じゃなくても遊ぶの禁止。
私以外と喋るの、禁止。
約束、しないとね。
彼女だから。
堂々と言えるね。
ふふっ、何から話していこうかな。
今日はまだ、日が高いね。
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