飼う
♤
「は、はい?」
先輩の言葉に耳を疑った。
飼う?
先輩を?
どういうことだ?
「染谷君は、猫好き?」
「へ? ま、まあ」
「飼うのより飼われたい?」
「あ、あの、それはどういう」
「どっち?」
先輩が俺の方へゆっくり近づいてくる。
そして、大きな目を細くしながら俺をじっと見つめてくる。
「……」
「どっち?」
「お、俺は……」
詰められて、俺は答えに迷った。
一体なんの質問なのかもよくわからないし、だからこそどっちと聞かれてもどっちを選ぶのが正解なのか。
何もわからない。
でも、答えないわけにもいかない。
「……飼われたい、かも」
そう答えたのは消去法。
飼われたいなんて言えば変態っぽく思われるかもしれないから、飼いたいと答えようと思ったのだけど。
今の質問は、先輩を飼いたいか先輩に飼われたいか、だ。
先輩を飼うなんて、それこそ変態みたいだなと思った俺は、咄嗟にその逆を答えた。
もちろん飼われたいわけではない。
でも、先輩を飼いたいなんて、冗談でもそんな大胆なことは言えなかった。
すると、
「飼われたいんだ」
そう言って、先輩が笑った。
今度は見間違えなんかじゃなく、目の前でニコッと。
「……先輩?」
「飼われたいんだ」
「あ、あの……どっちかといえば、ですよ?」
「飼われたいんだね」
「……」
先輩はとても嬉しそうに笑っていた。
見たことない笑顔に、俺は言葉が出てこない。
綺麗で、そして可愛い……はずなのに。
なぜか、背筋がゾッとした。
どうしてこんなに嬉しそうなのかが、全くわからないから、なのかもしれないけど。
とにかく、先輩の笑顔に固まってしまった俺に対して先輩は、目尻を下げながら頬を紅潮させて。
言った。
「じゃあ、飼ってあげる」
「は?」
「嫌なの?」
「あ、あの……冗談、ですよね?」
「冗談? なんで?」
「いや、なんでってそれは……俺を飼うって、先輩が、ですか?」
何を言ってるのかさっぱり意味がわからない。
俺は今、先輩と何を話しているんだ?
先輩もまた、俺に何を言いたいのだろうか。
わからないまま会話が進む。
そして俺が聞くと、先輩はまた、ニコッと笑ってから。
さらに俺に近づいて。
耳元で囁いた。
「私ね。飼い猫はね、部屋飼いが好きなの」
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