疑念


「はい、召し上がれ」

「……いただきます」


 結局家でご飯を食べることになった俺は、キッチンで先輩の料理をするところをじっと見守ったあと、ようやくできたグチャグチャな卵焼きを出されたところ。


 スクランブルエッグにしてもスクランブルしすぎてる。


 これはむしろエキサイティングエッグという名前でもいいくらいに弾けている。


 

「ねえ、美味しい?」

「は、はい。美味しいです」

「そ。ところで、この家って誰かいる?」

「え?」


 急に怖いことを聞かれた。

 母さんも出かけたからもちろん俺たち以外誰もいないはず。


 でも、そんなことを聞いてくるってことは、何か気配とか物音がしたってこと、なのか?


「あの、誰かいる気がします?」

「やっぱり、いるの?」

「いや、僕はちょっとわかんないんですけど」

「わかんないの? いないじゃなくて」

「い、いや、ええと、いないはず、ですけど」

「……ふうん」

  

 頷いて、先輩はキッチンを出て行ってしまった。


 どこに行ったのだろうか。

 それに、やっぱり不機嫌そうに見えた。


 先輩……もしかして霊感がある人なのか?

 だとしたら、やっぱりこの家には何かいるのか?


 おいおい、怖いって。

 そんな時に一人にしないでくれよ……。 



「……いない、か」


 彼が昼ごはんを食べてる間に、彼の部屋に来てみた。


 誰もいない。

 いた気配もない。


「気のせい、なのかな。ううん、それともやっぱり隠れてるだけかも」


 家中、とはいかないけど探せる限りは探さないと。


 染谷君をたぶらかす悪女。

 始末しないと。

 大変なことになるから。


 早く、始末しないと。

 染谷君にはわからないように、ね。


 この部屋のものだって、染谷君のじゃないものがあったら全部、壊しておかないと。


「ねっ。だからせっかくキッチンから包丁持ってきたのに、ね」  


 

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