おとまり


「え?」


 俺の家の前に到着したところで先輩が、「帰り、一人は怖い」とつぶやいた。


 で、気がつけば俺は裸足のまま。

 足が痛むのだが、それを忘れるくらいに俺は驚いていた。


「帰り、どうします?」

「帰れない、かな」

「……じゃあ、また俺が送っていきましょうか?」

「ううん、いい。ねえ、家に上がってもいい?」

「……え?」


 また、驚いてしまったと同時に今度は足の裏がズクンと痛んだ。

 どうやら、足の裏を切ってしまったようだ。


「ダメ?」

「……でも、こんな時間ですし」

「こんな時間だから、一人で帰るの怖い」

「……わかりました」


 こんな真夜中に先輩を一人で夜道に放り出すなんてことは俺にはできない。

 でも、裸足で足がぼろぼろな俺が女の人を連れて深夜に玄関から帰宅なんて、もし見つかったらさすがに何を言われるかわかったもんじゃない。

 

「……裏口から入りますので、足音立てないようにしてくださいね」

「お母さんに見つかったらまずいの?」

「さすがにこんな時間ですから。ええと、こっちです」


 田舎あるあるというか、不用心な話ではあるが庭から裏手に回ったところにある勝手口の鍵はいつもあいている。


 そこから入ると、すぐに階段があってそれを上がると俺の部屋だ。


 何度か、夜中にこっそりコンビニに行きたい時に利用しているくらいだが、今日ばかりは裏口があってよかったと感謝しながら、恐る恐る扉を開ける。


 家の中は真っ暗。

 そして物音ひとつしない。


 うん、完璧だ。


「先輩、今のうちに階段を上がってください」


 小声で先輩を中へ。

 すると先輩は暗い階段をためらうことなく上がっていく。


 まあ、一度来たことがあるから不思議ではないのかなと、俺もゆっくり扉を閉めてから先輩の後を続く。


 自分の家だというのに、妙な緊張感だ。


 こんな真夜中に先輩を部屋に連れ込む。

 そんな事実だけで俺の心臓は忙しく跳ね回る。


 そして、部屋に戻った。

 先輩がまた、おれの部屋に来た。 

 明かりをつける。

 先輩は相変わらず何も言わない。

 静かに、じっと何かを見つめている。


 時刻は午前一時半過ぎ。

 ズクンと痛む足の裏の感覚が、少しずつ薄れていった。



「……」


 明るくなった。

 私は、部屋のベッドを見つめながら、色んな感情が入り混じることに気づく。


 ここで染谷君と一夜を過ごすと思うとワクワクして。

 でも、あのベッドでもし、染谷君が他の誰かと一夜を過ごしたことがあるのかと想像するとイライラして。

 もしそんなことはなくて、初めてが私だったらなんて考えるとワクワクして。

 でもでも、私以外にも遊んでる一人がいたらとか考えちゃって、モヤモヤもする。


 でも、聞けない。

 こんなことを聞けるくらいなら、とっくにこの気持ちを言葉にしてる。


 私、口下手だから。 

 お口、下手だけど頑張るからね。


 裸足で帰しちゃったのはごめんね。

 でも、私ももう、ここに靴、置いていくからね。


 夜が長いね。


 


 


 


 


 


 

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