夢を見ている。

 今、俺は夢の中なんだと、不思議と実感があった。


 明晰夢というやつを初めて見た。

 先輩が俺の隣で寝ていて、そして俺にそっと抱きついてくれて。


 そのあと、唇を重ねて、先輩の手が俺の下半身に伸びて行く。

 

 夢なのに、不思議な快感に包まれて行く。


 俺は身動きが取れないまま、されるがままに先輩に触られる。


 そして、快感がピークに達したあと、俺は夢の中だというのにふわっと意識を失ってしまった。


「……はっ!」


 夢の中で意識を失ったところで俺は、現実に戻ってきた。



 目が覚めた。


「……ふう。やっぱり夢か」


 部屋の電気はついたまま。

 時計を見ると夜の一時。

 そして、床で寝そべっていたせいか体を起こすとあちこちが痛いし重い。


 寝起きのせいか、気怠いし。

 ほんと、なんでこんなところで寝てるんだよ俺は……。


「あっ、そういえば先輩は?」


 部屋を見渡したが先輩の姿はない。

 こんな真夜中にどこへ行ったのかと心配していると、部屋の扉が開く。


「……起きたの?」

「せ、先輩。すみません、寝てしまってました」


 先輩は風呂にでも入っていたのか、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。


 その姿が色っぽく、寝ぼけていた頭が一気に冴える。

 そして、なんてことをしてるんだと自覚し、慌てる。


「そ、そろそろ帰ります」

「帰る? どうして?」

「だって……先輩に迷惑かけますし」

「迷惑? 私が嫌がることをするの?」

「そ、そうじゃないですけど。それに、こんな時間だし」

「こんな時間に外を出歩くのはいけないことじゃない?」

「……それはそうですけど」

「じゃあここにいて。私はいいから」

「でも……」


 俺はチラッと携帯を見る。

 しかし親から連絡なんかは来ていなくてホッとした。

 放任主義な親だし、俺が部屋にいるのか出かけてるのかもわかってないだけなんだろうけど。


「……なにしてるの?」

「いえ、連絡とか来てないかなって」

「連絡……」

「何かありました?」

「……」


 俺が携帯を覗いていると、先輩は少し表情を曇らせた。


「連絡、ダメ」

「え?」

「おうち、帰るの?」

「ま、まあ。別にすぐそこなので」

「……私が送る」

「え?」


 手首の辺りを掴まれて、ぐいっと引っ張られるとそのまま先輩は俺を外に連れ出す。


「ま、待ってください! お、送るなんてそんな申し訳ないですから」

「いい。送る。早く」

「ちょ、ちょっ……」



 俺の話には耳も貸さず、先輩は俺を連れて部屋を出た。


 外は当たり前だが真っ暗。

 そして、


「早く。行こ?」


 先輩にそう言われると、俺は寂しい気持ちになってしまった。


 泊まっていかないかなんて、そんなあまい誘いをほんの少しばかりでも期待していた自分が馬鹿だった。


 でも、これでいいんだ。


 それに、もうすこしの間先輩といられるし。


 ……家、裏口からこっそり入るしかない、かな。



 いじわる。

 私がいるのに、他の子に連絡しようとして、その子に会うために帰ろうとするなんて。


 ダメ。

 浮気相手、突き止めないと。


 どうせその子、家で待ってるんでしょ?

 ダメだよ、そんなの。


 私の部屋で一夜を過ごす予定だったけど、変更。


 染谷君の部屋に私が泊まる。


 うん、ご両親にご挨拶も兼ねて。


 ちょうどよかった。


 それに……浮気相手の始末も。


 うん。



 ちょうどよかった。

 

 


 

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