ちゃんと受け取ってね


「ふう」


 公園のベンチは誰も座ってなくて、ゆったりと二人で腰掛けることができた。

 広い公園だけど遊具も何もなくただの広場って感じの場所だが、ここもお昼時になるといつも家族連れで賑わっている。


 この辺ってほんと、遊ぶ場所のない田舎だよな。

 地元の人間でも行く場所に困るくらいだから、一人暮らしの先輩なんて余計に困るよな。


「先輩、休んだら帰ります? 一応必要なものは揃えましたから」

「ご飯どうする? お昼、食べていかない?」

「お昼ですか? ええと、だけど近くにあんまりお店ありませんけど」

「おうちで作るんだけど? ダメ?」

「先輩がですか? いえ、さすがにそれは悪いですよ」

「嫌なの?」

「い、いやなわけありませんよ。なんか申し訳ないなって」

「気にしないから。掃除のお礼、ならいい?」

「ま、まあそれならお言葉に甘えます」

「うん。じゃあ休んだらスーパー行こ?」

「は、はい」


 この時の心境は、はっきり言って自分でもよくわからない感じだった。


 お昼も先輩の手料理が食べられて、まだ一緒にいられるという高揚感と、先輩の手料理に対する不安感が入り混じって頭の中が混乱していた。


 ただ、やはり嬉しいが圧倒的に勝ってはいる。

 先輩が望んで俺と一緒にいようとしてくれている事実を喜ばないわけがない。


 俺に少しは気を許してくれた証拠、なのか。

 それとも本当にただのお礼なのか。


 まあ少なくとも手を繋がれても嫌じゃないってくらいには信用されてはいるはずだ。


 その証拠に今もずっと手を握ったまま。

 離そうともしない。

 嫌なら腰掛けた時にとっくに離しているはずだ。


 うん、きっとそうだ。

 今だけはネガティブな自分よ出て来るな。

 うじうじしていたらそれこそ嫌われる。


「先輩、俺、買い物楽しみです」


 だから素直な気持ちを伝えてみた。

 が、しかし。


「そ。じゃあ、早く行こ」


 そっけない先輩の対応はいつも通り。

 正直、ちょっとくらい照れてくれたりするんじゃないかって期待していた分、落ち込みそうになったけど。


 これがいつもの先輩だ。

 そして俺が好きになった氷女乃先輩だ。

 

 だからこんなことでは挫けないと、自分を奮い立たせながら立ち上がる。


「そろそろ行きましょうか」

「うん」


 そのまま二人で公園をあとにして、近くのスーパーに向かう。


 先輩はまだ足が痛いのか、俺の手を握ったまま離さない。


 もう、それだけで夢の中にいるようだ。

 ずっとこうしていたい。

 いっそこのまま、ずっと手を繋いだままでいたい。


 なんて、これまた夢のような想像ばかりを働かせながら足を進め。


 やがてスーパーに着いた。



「……」


 スーパーに着いた。

 染谷君はここでも私をリードしてくれる。


「先輩、お昼は何にするつもりですか?」

「パスタにする予定。嫌い?」

「いえ、好きですよ。それじゃあ……あの、パスタでも色々ありますよね」

「カルボナーラ、とか?」

「それならチーズと卵と牛乳があればできますね。ええと、家に牛乳とかあります?」

「……ないかな」

「じゃあとりあえず全部買います? あの、俺出しますから」

「なんで?」

「な、なんでって……先輩に料理作らせておいてお金も出してもらうなんて悪いかなと」

「私の奢りだと、嫌?」

「い、いえ。そういうわけではありませんけど」

「けど?」

「……ご馳走になってもいいんですか?」

「うん。じゃあ、いるものをカゴに入れて」

「は、はい」


 スーパーの陳列がどうなっているのかわからない私の代わりにせっせと必要な食材を探してくれる染谷君はとても頼りになる。


 私、スーパーで買い物とかしたことないから。

 いつも買ってきたものかインスタントかだし、正直な話カルボナーラなんてどうやって作ってるのかも知らない。

 だけど、染谷君が好きなら私、頑張るよ。


 あなたの好意に応えたい。

 私もちゃんと、染谷君の気持ちを受け取ってるって示したい。


 伝わるといいな。

 真心込めて作るからね。

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