4章ー4 意地っ張りのフィラ
結局、アリアトの森への実践訓練はあのまま終わった。
魔物との戦闘を見たということで今日のところは第一の目的は達成したと判断されたのだ。
アリアトの森に何かしらの異変があることは冒険者にも大事な事なので冒険者ギルドにも報告する必要が出てくる。
諸々の報告や手続きがあることもあり、今日は魔物との戦闘はせず、帰って座学とシュミレーションを行い、また、明日来ることになった。
テオの生まれる前の記憶に関しては帰って話を聞くことになった。
王城に着くとリックは勇者塔ではない自室に戻った。
ザックは冒険者ギルドにアリアトの森の件を伝えに行く。
城の門を潜ってから勇者塔まではマッケンローとテオと3人で歩く。
私は一人背が低く二人の後ろについて置いていかれないように小走りになっていた。
マッケンローとテオが二人で話始める。
「テオ、さっきのことだけど、他にもいたんだお前みたいな奴。そいつも魔法使いで、そいつは魔物はいない世界だったけど、人間が人間を殺してる世界だったって言ってた。自分も沢山の人間を殺したって。だから、この世界では人間を守りたいんだと言っていたよ」
「そうですか……僕の記憶の中のその世界は平和だったけど、歴史の中では沢山の戦争があったし、自国は平和でも他国間で戦争してました。僕は平和が当たり前だと思っていたし戦いとか魔物とか物語の中の世界だと思っていて、いざ自分がそんな世界に来てみたら、あの平和な国が懐かしくて、ここもあんな風に平和であればいいなって思って……勇者になったのは魔法の力が記憶を得てから強くなったことと母さんと父さんそれから兄や姉が突然の魔物災害で死んでしまうのを防ぐためです」
テオは「防ぐことが出来る災害を防がず見ているのは罪だと思ったんです」と言った。
「お前は強いし、優しいやつだな。そうだな、防ぐ力があるのに戦う力があるのにそれを知らない振りして生きていくのは罪だな」
マッケンローが「罪」という言葉に尚更力を入れたように感じた。
二人は私のこと忘れているのかもしれない。
どんどん早くなる二人の足の速さに息が上がり始める。
ちょっと頭を下に下げて、自分の足元を見た。
これぐらいの速さについていけなかったら、まだまだ勇者パーティーの仲間として認めて貰えないかもしれない。
そんな事を考えて、自分の気持ちに気合を入れ直し、前を向いた拍子にヒョイッと両脇に手を差し入れられ持ち上げられた。私は思わず、キャッと女の子のような声を出していた。
自分の目の高さにマッケンローの顔があった。
私は抱きあげられたまま肩で息をしている。
マッケンローの左頬の傷が目に入る。いつもは見上げているマッケンローの顔が間近にある。下から見ている時よりも傷の形がハッキリと見えた。眼の下、頬の上の方から口の端近くに向かって黒く傷が盛り上がっていた。
私の視線に気づいたマッケンローが「怖いか?」と聞いてくる。
怖いわけがない。
私は首を左右にゆっくりと動かした。
「それにしても、フィラ!!お前は本当に意地っ張りだな!!」
マッケンローの赤い瞳がキッと私を睨み付ける。
傷は怖くないけど、その怒った顔はとても恐い。
私はなんで怒られているのか分からないまま首をすくめて、目をギュッと瞑った。
横からテオの手が私の頭を撫でる。
「マッケンローがね、王城についてから早足にしてみよう、いつフィラが「待って」と声をかけてくるがやってみようって言ったんだ。僕は言わないと思うからやめた方がいいって言ったんだけど…」
そんな種明かしをしてくれる。
「本当に言わないからビックリしたぞ。これは美徳ではないからな!!一緒のパーティーを組んで一人無理をして出さなきゃいけない時に力が出せなかったら問題だろう。無理をするのはNGだ」
マッケンローに叱られる。
「フィラって甘やかされて育ってそうなのに、甘えるのヘタだよね」
テオが笑いながらそんな事を言った。
私は頷くしかなかった。
甘やかされて育ったのだろうか?ギプソフィラの人生は愛されてる実感がある。甘やかされてるわけじゃなくて、そう愛されて育ったのだ。甘えべたなのは前世のせいだけど、そのことを口にするのは憚れた。
「両親に愛してもらったよ。でも貧しかったから、甘やかされてはないかも」
そんな一言を呟くと、二人が一瞬固まった。
私の口から「両親」とか「貧しい」とかそんな言葉が出てきたことで驚いているようだった。
マッケンローが辺りを見回し私を見て、「その話し、テオやリックに話せるか?」と聞いてくる。私はゲオやフローラルの話をすることに躊躇いはない。むしろ聞いて欲しいくらいだ。
「話をしても良いのなら聞いてもらいたい。二人が亡くなって、母の話は少しできる相手はいるけれど、父の、育ててくれた父の話は出来ないから」
そう言ってマッケンローとテオの顔を交互に見る。
二人は顔を見合わせて、頷き合った。
「じゃあ、今日夕食の後に広場でまた4人で話をしようか?」
マッケンローの提案に私は喜んで頷いた。
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