4章ー5 絆
夕食後、4人で広間に集まった。
4人で最初に集まった時のようにイスと机も置いてある。
私達はそれぞれ来た順番に座っていく。と、いっても座る場所は私の両隣がテオとリックであることに変わりはない。
リックはテオの前世の記憶の話を聞けると思ってきていたみたいだ。私の過去について話をするというと一瞬残念そうにしたけれど、私の話というと王家のタブーであることに気付いたみたいで、マッケンローとテオに向かって「聞いていいもの?聞いたらダメな話だよね、この話」と私の話を聞くことに戸惑っていた。
マッケンローが「王家の許可は必要ない。これは勇者として、勇者パーティーを組むうえでとても大事なことだ。王様の許可も騎士団長の許可もとってないが、フィラも口止めされている訳ではないからな、罪には問われない。大体、これからフィラが話す話は王家のことではなく、勇者ギプソフィラの両親との思い出だからな」そう説明した。
王家のことを色々話をすることは難しいかもしれない。だからこそ、リックにはあまり色々なことを聞くことは難しいかもしれない。でも、私は違う。暗黙の内に私の父がハリー様だということは周知されているけれど、王城で暮らしたことはないし、王家の内情も知らない。
何よりも私がしゃべりたい。
リックが黒い瞳を私に向けた。
私はその瞳を受け止める。そして、コクンと頷くと彼も覚悟を決めたように頷いた。
そして私は3人で暮らした幸せな日々を思い出しながら言葉にしていった。
「私達家族はアレキーサ王国の小さな村に3人で暮らしてた。母さんは花屋でね、花を魔法で育てて売ってたの」
私が母の話をするとみんなが目を見開いた。
「フィラの母上はフローラルティア様だよね。第二王女の……花屋……」
「え?魔法で花を育ててた?マジか、確か、あの人の魔法ってあの頃王国一とか言われてた気が……」
リックとマッケンローが絶句してる。
まぁ、母さんはすごい魔法使いだったみたいだし、驚くよね。
「うん、花屋。母さんの育てた花は本当に綺麗だったんだよ。私も一応手伝ってたんだけど、私は剣の方に興味があったから父さんに時々くっついて冒険者のお仕事に連れて行ってもらったりしてた」
「父さん?」
テオが父親の部分に疑問を投げかける。
「うん、血の繋がりはないんだったよね。でも、私にとって父さんはあの時一緒に暮らしてた父さんなんだ。血のつながった父のことも大事だよ。まぁ。だから私には父が二人いるって思ってる」
3人は何も言わなかった。
「私の父さんはゲオっていってね。本名はゲオルクって言うらしいんだけど…冒険者をしてたの。すっごく剣がうまくてね、父さんが獲ってきた魔物や鳥やうさぎなんかを父さんが裁いて母さんが料理してくれて食べてたんだ。私はソイを作る係でね」
「ソイ?」
「あ、リックはソイを知らないんだね。えっとね、小麦粉を溶いて薄く焼くの、パンの代わりになるんだよ。野菜やお肉を挟んで食べるとおいしいしスープに入れたりしてもおいしいんだ。でも、やっぱり皆パンが好きでね、よくパンを買って食べてたよ」
私が明るく話をしている目の前でマッケンローが頭を抱えてた。
「今、ゲオルクって言ったよな?ホー帝国の赤髪のゲオルクか?あの剣の達人で火炎魔法が半端ないゲオルクか!!そういえば忽然と話が登らなくなった。騎士をやめて公爵を継いだのかと思えば、違っていたしどうしたのか気になってたんだ。そうか、ゲオルクがウチの王女を助けてたのか…」
「父さんって有名人だったの?」
「あぁ、ホー帝国の赤髪のゲオルクと言えばこの大陸中の人間が知ってるんじゃないかってくらい有名だ。ホー帝国一の剣術使いだ」
やっぱり。
「え、でもそんなに有名なら気付かれるんじゃないのかな?」
テオの疑問に満ちた目がこちらを向いていた。
「貴族とか村に来ることなかったし、きっと誰もそんなこと知らなかったと思うよ。あ、そういえばザックがすごい結界魔法を母さんが施してたって言ってた。家の場所の特定とかも難しいレベルの結界魔法で、父さんの死に目の間に合ったのも母さんの結界魔法のお陰だったんだ。母さんって滅茶苦茶凄い魔法使いだったんだね」
話をしながら改めて、両親がいかに凄い人か思い知らされる。
そんな人たちが私のために田舎で慎ましやかに暮らしていたんだと思うと何だか涙が出てきた。
テオがそっと私の頭に手を置いて撫でてくれる。
リックは涙を流した私に申し訳なさそうにしてた。
スッと前を向くと腕組をしたマッケンローの真剣な顔が見えた。
「お前が8歳の子供だって時々忘れちまうけど、そういう姿を見ると実感するな」そう言ってテオが離した私の頭に今度はマッケンローの腕が伸びる。父さんのようにゴツゴツした手が私の頭を撫でる。伸ばされた腕を見上げると沢山の小さな傷跡があった。
背中にも温かい感触がある。
大きさからしてリックなのだろう。
父さんと母さんには会えなくなってしまったけれど、今は勇者仲間がいる。私は一人じゃない。
私は皆の顔を見た。涙は流れたままだけど、自然に口角が上がっていく。
あぁ、生まれて初めて体験する仲間との絆。
家族ではない、それでいて家族のような絆。
その絆が私の心を温かく安心させてくれていた。
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