3章−11 帰還した勇者

勇者塔に引っ越して半年ほど経った頃、旅に出ていた勇者達が帰ってきた。

「達」というのは正確には少し違う。

帰ってきたのが1人だったからだ。

私達勇者は帰ってきた勇者に広間に集められた。

彼は私達を見るなり、ため息をつく。

「人数が少ないうえ、子供だな」

彼は、無精ひげに顔にも腕にも大きな傷跡が数か所あった。

茶色の髪は後ろで一つにくくられている。

何も隠すもののないその顔で一番印象的なのは赤い瞳だ。

「俺は勇者マッケンローだ。この王都を出る時5人で勇者パーティーを組んででた。それが5年で俺一人になった。どういうことか分かるよな?」

赤い瞳が鋭く私たちを見る。

「今日は、先生方には遠慮してもらった。なぜか分かるか?」

私は一生懸命考える。

私が考えている横からテオが勇者に声をかけた。

「椅子と机が用意してあります。座りませんか?」

マッケンローの問いに対する返答ではないが、一番冷静な意見に感じた。

私もリックもマッケンローを見た。

マッケンローはため息を一つ。

「そうだな」

そう言って広間に用意されていた椅子の一つに腰かける。

私達も続いた。

席についた途端にリックがマッケンローをしっかりと見て先ほどの問いに答え始めた。

「先生方に遠慮して頂いたのは、先生方の指導に問題があるからですか?それなら、勇者マッケンローから指導方針を提案して頂いた方がいいと思うのですが、、、」

「私は、先生方が実践をご存知なくて、実際に魔物と対峙した人間にしか分からないから、話をきいても無駄だと判断されたのかと思いました」

私も考えていたことを述べる。

「11歳と8歳だったか、まぁ大体そんなところだ」

マッケンローが初めて顔の筋肉を緩めた。

「そうだ、魔物と外で出会うことがないと本当の恐ろしさは分からない。そして、実践の中でしか学べないことがどれほど多いか」

そう言って悔しそうに顔を歪めた。

「俺は実践の中でお前たちを鍛えていきたい。もう、仲間が死んでいくのは見たくない。たとえ、勇者という存在が捨て石の様に魔物を払うために使い捨てられる存在だとしても、、、」

最後の方は聞き取れないほど小さな囁きだった。

「国に任せておけないということだ」

マッケンローは真剣の顔で私達3人を見回した。


「で、お前たちは実践の場で連携は取れそうか?」

マッケンローのこの問いに私は胸にグサッと短剣を刺されたように感じた。

連携なんてとれるわけがない。

だって、私達は勇者塔にいてもバラバラなのだから。

それなのにあろうことか、二人は同時に頷いた。

「へ?」

私は素っ頓狂な声を出してしまう。

仲間外れにされていたのだろうか?

二人は一緒に訓練を受けていたのだろうか?

私の心に短剣がもう1本突き刺さった。

私の声に反応して二人が私を見た。

私は二人の真ん中に座っていたから左右からの視線を感じる。

仲間外れにされていたのだとしたら、そう思うと頭があげられない。

それでも聞かずにはいられなかった。

「二人は私に内緒で一緒に訓練を受けていたのですか?」

二人は同時に「いや、一緒に訓練したことはない」と答えてくる。

はぁ?

何を考えているのだろうか、この二人は。

訓練でもやっていない連携を実践で直ぐにできると言っているの?

ふつふつと怒りが腹の底から湧いて出る。

この二人は魔物に出会ったことがないのだ。

私だって、直接対峙したわけじゃない。

姿だってゲオの胸に埋もれていたアレしか実際は知らない。

それでも、どんだけ自分を過信してるんだ!

「バカじゃないの?二人は一緒に訓練したこともないのに、魔物相手に連携が取れるって思ってるの?本当にどれだけ自分に自信があるの?どれだけ魔物をなめてるの?魔物を前にして逃げずに剣を振るだけでも最初はすごい事なんだよ。そんな状態で一緒に戦う準備もしてない相手と簡単に連携がとれるとか、バカじゃないの?ヘタすると二人とも実力も出せずに死んじゃうんだから」

息が苦しい。

久しぶりに、本当に頭に血が上る。

父さんと母さんが連携してでさえ、やられてしまったんだ。

あんなにすごい人たちでさえ。

もっと連携出来ていれば、いや出来ていても、、、

ゲオとフローラルの最期の顔が思い出された。

そして、隣のおばさんの頭が、、、

「一番小さいのが一番魔物の怖さを知ってるんだな」

マッケンローが静かに私の頭を撫でた。

そこには同じ痛みを味わったものに対する憐れみと慰めが感じられる。

テオとリックは、私が初めて大声で怒りをぶちまけたせいで目を見開いて動きを止めていた。

そんな二人の頭をマッケンローが小突く。

「二人とも、そういうわけだ。お前たちがいう『連携できる』は自分がうまく相手に合わせることができるという過信だろ?まぁ、実際、テオドールの魔法は歴代の魔法使いの中でも大きい方だ。これから、訓練をつめば歴代一になるかもしれない。セドリックの剣もこの年の子供にはもう負けることはないだろうな、俺や騎士団長でも100回に1回は負けるかもしれない。それほど強い。それでも、魔物は別物だ。強い剣士も一瞬でやられてしまうかもしれない。魔法使いも一緒だ。俺がここに帰ってこれたのは、はっきり言って運だ。運が良かっただけだ」

マッケンローが私達3人を見て、頷いた。

「これからだな」

明日から今日までとは違う一日がはじまる。

勇者として、私達勇者パーティーが生きて魔王と遭遇するためにできるあらゆることをはじめるのだ。

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