(13)イカロスの足
(13)イカロスの足 [学園モノ]
「男子の足には羽根がある」
ロマンチックな台詞を吐いた由美は、しかし汗だくで息も切れ、般若の形相。バスケットボールに噛み付かんばかりで、同情より呆れてしまう。
「だから無理だって」
私はハンドタオルを由美に渡し、それが三日前からポケットにあった、なんてのは黙っていようと思った。
昼休みの体育館、発端は場所取りで男子と揉めただけ。なのに何故かヒートアップし、何故かバスケ1対1の3点先取で勝負、という話になった。
「勝負で昼休み終わると思う」
私の意見は無視された。しかも他の生徒を追い払いコート半面を強引に開けさせ、もはや「本末転倒」のいい見本だ。
「ハンディだ。1点やる」
由美と勝負する男子が言う。同級みたいだけど知らない顔。髪があるから運動系ではあるまい(ウチは丸刈りが基本)。
が、この申し出で由美はさらに逆上した。
「いらぬ世話よ!」
由美の所属クラブはバスケット。レギュラーではないが、自負がある。
んで結果――
「3対2。1点もらえば良かったね」
床にヘバッた由美の隣、腕時計を見たところでチャイムが鳴る。やはり勝負で昼休みが終わった。
体育館にいた他の生徒も、道具を片して引上げ始める。中には用具室へ適当にボールを投げ入れるだけ、なヤツもいた。
「できる訳ないでしょう」
由美は、ウワゴトを呻いた。昼食後に予備運動なしで全力疾走、の結果だ。
「男子はズルイ。なんであんな身軽かな」
俯いたまま由美は悔しそうに呟く。私達の前を男子が馬鹿笑いしながら駆けて行った。女子のようにドタバタ床を叩くようではない。無重力のような軽やかさで、飛ぶように。
「ずるいよ。私も、動きたいのに」
言いながら、乱暴にタオルで顔をこする。
私は、ただ黙って彼女の隣に座る。肩を叩く、までは親切じゃないから。
「おい、負け女!」
声に、由美は1動作で立ち上がる。漫画ならすごい擬音がつきそうな勢いで。
出口近くで、アイツが気楽に手を振っていた。
「また勝負しようぜ」
言って、一瞬でいなくなる。
見ると由美は震えていた。私は「聞いていい?」些細な疑問をぶつけてみる。
「どうして顔が赤いの?」
また擬音付き動作で由美は私を見る。目は見開かれ、目玉が落ちそう、と言うべきか。
私は「ふぅん」目を細め「次は邪魔しない」笑ってやった。
「ちょっと!」
「本鈴が鳴るよぉ」
ヒラヒラ手を振って、駆け出す。
決して男子のようには、走れないけど。
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