(12)聖堂の友人
(12)聖堂の友人 [ファンタジー]
その場所は、殺風景だった。
雪が吹き飛ぶ暴風の岩山、そんな山頂に面白みを見出す必要はない。天候が落ち着けば絶景かもだが、人間風情が登るに五百年で足りるか。
知らんが、しかし友人は登り切り、迷惑にも塚まで建てた。山頂の塚は暴風を受けて魔物の咆哮のごとく不協和音に、いつ崩壊するかも分からない。
が、友人は私を呼び、私も塚に来た。言い訳をしたいが仕方なく、友人の最期の招待だから。葬送の客を一人だけ選ぶ主役なんて馬鹿げた友人をもった己の馬鹿か。
呻いたところで後の祭り。塚へ一歩踏み入った。
さすが魔術師の塚、入った先は不可思議な室。内側の壁は光り、時々で虚ろに加減を変え、その中央にまた小屋のようなモノ。
面倒な仕掛けだと思いながらさらに入ると、そこは鮮やかな色硝子を散りばめ、水の中のような、森の中のような、光の移ろいで様々な色彩で飾る大聖堂。豊かに咲く花々で通路を示し、行きついた先は棺。蓋はなく、横臥するは旅立ってしまった私の友人。
本当に馬鹿だ。最後の魔力を振り絞り、生きる算段ではなく荘厳な仕掛けの塚なんぞ作るか、このド阿呆!
天井を仰いで溜息を吹きかける。友人の美的センスは認めよう。聖堂は美しい。まるで友人の高潔な志を、優しく柔軟な心内を写し込んでいるようで、嫌気がさす。
友人の存在全てを代償に、たった五百年の結界に意味があるか。
岩山麓の人々を守る為、毒を含む吹き下ろしの風を防ぐ結界を、残り少ない寿命と引替えに施した。
「お前の人生だ、自分の好きに使えばいい」
確かに私はそう言ったが、最後まで自己犠牲で終わらせるなど予想つくか!
……わかっている。友人はそういう気性だ。骨の髄までお人好し。
だからって、最後の願いを私に託すな。結界の存続と、麓の人間共の生活なんぞ、んな細かい仕事やらん。
決めた。五百年が終わる前に人間が塚まで登って来れたら、その先を考えてやってもいい。どうせ岩山の山頂まで登ぼれる技術があれば、毒を防ぎ中和する方法も自力で習得しているだろうが。
馬鹿な友人。人間に猶予をやっても誰も知らず感謝もないのに、命まで賭けて。真心を否定されるたびに泣き、それで構わないと笑顔になれる根性に呆れた。
棺によりかかり、息を吐く。
まぁ五百年、友人の馬鹿な祈りにつきあってやる。
人間が来なかったら岩山ごと壊してやろうと思いつつ、見渡す。
色と光が彩る聖堂は、綺麗だと思う。
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