(06)地人と空人


(06)地人と空人 [SF]


 僕と姉は大きい呻き声を聞いた。

 そこはよくある宇宙駅の休憩所。子供のときは泳船の発着を飽きず眺めたが、中等部4級ならば真空動力の機構くらい知っている。だから窓際なのは空席がなかったからで、姉がカラカウような理由ではない。

「内臓が捻じれるぅ」

 腹部を抑えて顔色が悪い男と、男を庇い気遣っている女。

「地人だわ」

 姉が独言のように呟く。正式な呼称でなく、宇宙で活動する空人と開拓惑星で暮らす地人、という別称。僕らの親世代も開拓地の底へ下りれば「内臓が(重力に引っ張られて)重い」とよく愚痴っている。地人と空人が混在する宇宙駅は人工重力が入り、各惑星で重力が違うため低重力設定だ、と聞いた。

 彼にとって人工重力のホームでも苦しいよう。その低重力でも僕のようにツライ人がいるので、無重力の休憩所がある。


 と、地人がホーム端の休憩所を、というか僕を?睨んできた。ややすると男は女に何かを言われて振り向こうとし、勢いによろける。忙しない。さっきの呻きも休憩所まで聞こえたから大声だったのかも。低重力が辛いなら座ればいい。ホームの椅子はまだ余っていそうなのに。

「アレでこの先大丈夫なのかなぁ」

 このホームは外惑星の衛星軌道基地行き。途中降船するなら他の泳船ホームへ行くだろうし、ここより外惑星は開拓途中で、地表生活できない。

「宇宙酔いしないといいね」

 姉は平然と言ったが、僕は顔をしかめる。地人が無重力での事故死トップクラス。人工重力の入る場所で休めればいいが、そんな施設は少なく、特効薬もない。発症し状態次第では死亡する、怖い病気だ。

「お父さん達が本社から視察が来ると言ってた。アレかも」

 視察、と聞いてゲンナリする。本社から地人が来ると(絶対に)トラブルが起こる。そのせいで親達は忙しくなるし、中等部まで駆り出されてテンテコマイ。その理不尽が有益ならまだしも、500時間もせず復旧作業でまた忙殺。心の底から来てほしくない人種である。

「アレだったらアレル」

 姉は他人事のように、実際に他人事だ。姉はまだ重力に適応でき、本惑星の大学へ留学し、「地人に空を荒らさせない」を信条に開拓本社への入社が決まっている。僕の体は重力に慣れず、まだ中等部で、出来ることも少ないが、姉は「考えろ」という。

 僕にいったい何が出来るだろう、と考えながら、泳船がゆったりとホームに近づてくる姿を眺めてしまう。

 やっぱり綺麗だな、と思う。

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