(05)琥珀の狐
(05)琥珀の狐 [ファンタジー]
獣憑きの一族に異端児が生まれた。
ある意味において一族の悲願だった。祖であり王者の九尾狐がついに嬰児を選んだ。
しかし巫女だった。女王を娶る男児ではなく、妖狐に魅入られた忌子。慈しまれ愛でられ、庇護したい一心で他を排す。実母ですら巫女に近づけない。
子は狐が育て、獣のように育って3年、一族が招いたのは封魔師。本来ならば天敵の封魔師に狐の封印を依頼した。
封魔師の返答は1ヶ月後とし、その間に子供と生活をするという条件だった。
一族は喜んで座敷牢へ封魔師を放り込んだ。子供が、狐が封魔師を殺すか、封魔の仕事をするなら術を盗むだけ。
子供と狐と封魔師の座敷牢生活は、周囲の期待を裏切り平穏だった。最初こそ少々あったが、封魔師は親身に子供の世話をした。獣のようだった彼女は、たったの1ヶ月で身嗜みを整えられ、食器から食事をし、片言ながら言葉を覚えた。
そして最後の日、封魔師は琥珀へ九尾狐を封じた。ただの琥珀でなく、太古の植物が地へ広がり、最初の樹木へと進化した原始の樹液の化石。
けれど琥珀は巫女の額に埋められ、封魔師は巫女を外へ連れ出すと告げた。一族は怒り封魔師を殺そうとしたが、突如現れた妖狐が村ごと半分にしてしまった。九尾狐は琥珀で眠っておらず、ただ大きすぎる力の隠し場所を見つけただけ。
封魔師と巫女と狐は去った。
一族は王と崇めた九尾狐を失い、自身も半身となり、けれど諦めなかった。
封魔の術を盗み、一族の獣を貴石へ封じ、必要に応じて呼び出し使役しようと試みた。封じる段階で獣は7割減るも、技術は完成した。
最初は上手く呼び出し、1人で何体も獣を操り、むしろ以前以上の成果を上げた。しかし数ヶ月後、最初の異変があった。遠方の仕事で獣を暴走させ、山1つを壊滅させ自滅した。制御失敗は術者が経験不足かも。一族は半分になったのに術の成功から仕事は増え、子供でも駆り出されていたから。しかし失敗が続き、必ず獣の暴走が起こるので、一族への依頼がなくなった。
原因を確かめようと、猛者数名で一番強い獣を呼び出した。術は成功したが、貴石に封じた獣は暴走した。獣は強く賢く、秘蔵として封じてから1度も呼び出さず、外界から遮断された年月で狂っていた。
一族は、そんなことを知る前に滅んでしまったが。
封魔師がなぜ琥珀を選び巫女の額に埋めたか、考えなかったから。
封魔師と巫女と狐のその後など、知らぬ話である。
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