(02)5年後の手紙


(02)5年後の手紙 [SF]


ごめんなさい

あなたのことが好きでした


 ナニゴト?

 届いた「手紙」の内容に、3秒ほど呼吸を忘れた。

 今時に紙の手紙、とは思ったが、発送元の企業名に心当たりがない。封筒には宇宙ナンタラ財団と書かれ「スターテンメール」の謎パンフが同封されていた。

 要は、人工衛星に手紙を載せて十年後に届けましょう、的な、金のかかるタイムカプセルな企画が五年前にあったそうで、しかし衛星の通信故障で軌道が維持できなくなり予定より早く地表へ落下した。残された残骸の中から判別できる物を指定住所へ郵送した、らしい。

 ただ、俺自身はこんな企画に参加した覚えが欠片もない。なら第三者が俺宛になるよう手紙を出したわけで、しかし2行の内容は差出人を予想できない。しかも内容が誰かに相談するのを躊躇させる。

 うーんと考え、5分悩んで、ばぁちゃんの座右に従うことにした。

「5分考えて答えの出ない問題で悩むのは無意味」

 疑問か、羞恥か、で天秤にかけ、腹をくくった。

 元級友へ連絡を取る。5年前、自分達の高校時代の話を聞くために。


 1週間後、波及した周囲にさんざ揶揄われたが、結論として1人の学友が差出人では、と推察された。

 仮に「彼女」と呼ぶが、彼女が俺に何らかの感情を持っていたか否かは不明だったが、級友仲間で連絡の取れない1人で、口堅い学友がやっとで白状したのは、彼女は難病にかかっており、3年後生存率が2割だと、高校生時代に聞いたそう。

 高校の同窓でも、彼女が卒業式にいたか、俺は覚えていなかった。


 その次の行動は、2週間経っても決まらず。

「5分」で片づけていい問題ではない。それだけは判ったが、それだけ。事実確認をしなければいけないが、どうやって?

 ない頭を抱えていると、最初に連絡した友人から連絡が入る。後日談を聞きたかったようだが、何の進展もない現状に遠回しでない苦言を雷した。

 仮に差出人が「彼女」だったとして、5年前に3年も生きられない未来を想って、十年後に自分と分からなくても言葉を残したかった彼女の気持ちを想像できるか、と。もし自分なら、衛星の事故をどう思うか、3週間もお預け食らって平常心を保てるのか、と。

 男なら根性決めて行け! と何故か涙声で罵られた。


 彼女が差出人なのか、今をいるのか、5年前の想いが残っているのか、いないのか。

 俺の気持ちは無視ですかい。

 ただ、もう5分を待っていていい理由は何処にもないらしい。


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