第32話~2022年12月28日のお話(タクシー会社から採用通知)~

2022年12月31日更新


私は、話が長い営業次長のタクシー会社から合否の連絡が来ていなく、焦っていた。

そして不安だった。この日、朝一で確かめたくなった。電話をした。


「先日、面接をさせて頂いた佐々木です。面接の合否の確認をしたくお電話致しました」。


営業次長は、「ああ。佐々木さん。この前は面接に来てくれてありがとう。社長とも話しまして、佐々木さんを採用したいと思っていますが、いかがですか。ごめんなさいね。昨日連絡をしようと思っていたんですけど遅れてしまって」と言われてホットした。


良かった。心の中で願っていた。やっぱり自分の中で決心がついていた。

自分が住むこの町でタクシーをやりたいと。

それが叶った。連絡が来なかったから半ばあきらめていた。嬉しかった。

これで安心して年が越せる。


結局、今年経験した会社はアルバイトを含めると12社にのぼった。

42歳の厄年。本当に近年まれに見る最悪の年だった。

今年の年収125万円。私の扶養内でパートで働く妻の年収が扶養限度額の103万円を超えてしまった。私と殆ど変わらない収入だった。


来年の4日に入社する事が決まって、ご機嫌になった。普段できない車の掃除を始めた。

車内を掃除機でかけ、雑巾で拭き、車の外側のボディもピカピカに磨いた。

一連の家事も一通りこなした。


年末が近づいてきたので断捨離をしたくなった。

子供たちがもう使っていない、おもちゃをリサイクルショップに売りに行こうと思った。

大きな箱で3箱分になった。それに加え、私の要らない未使用のワイシャツや衣服、子供用の椅子も売ろうと車に積み込んだ。リサイクルショップの駐車場に着いた。一度では全て持ちきれないから、まず、おもちゃ2箱分をお店に運んだ。


残りのおもちゃの箱1つの上にワイシャツ、衣服を乗せて、子供用の椅子を抱えながらお店に運ぼうとした。駐車場から歩道にまたがる柵に子供用の椅子が引っかかって、手にしていた売り物が全て歩道に落ちた。おもちゃの箱からは、子供用の小物のおもちゃが全て辺り一面に散らばった。私は怒り狂った。転がっていたプラスチック製の子供用の椅子を思い切り足で踏んづけた。何回も何回も踏んづけて、叩き壊した。


周りは買い物客でごった返していた。おじさんやおばさんがこちらを見ていた。

小さな女の子が私を指さし、お母さんに何か言っているのが見えた。


私は慌ててリスペリドンを飲んだが、怒りが収まらなかった。

叩き壊した椅子を拾って、車の中に入れた。


リサイクルショップの中に入って、査定をお願いし、査定が終わるのを待った。

椅子は売り物にならなかったが、おもちゃの箱が3箱、未使用のワイシャツ、衣服などで相当な金額になるだろう。3000円はいくだろうと思っていた。

店員を見ると私の査定をしている。子供のおもちゃは数えきれない量があるが、どれもほとんど見ていない。本当に査定をしているのかと思うほどだ。ものを手に取っては横に置くだけの作業。順番が呼ばれた。


「査定が終わりました。この金額で宜しいでしょうか」と見せられた。


500円。


「はっ?」と思った。嘘だろう。こんなに沢山のおもちゃがあるのだ。特に電車のミニチュアのおもちゃはレールだって大量にある。私の感覚では、電車のおもちゃだけで2000円はいくだろうと目論んでいた。それなのに、全て合わせて、たったの500円。


私は店員に向かって「ふざけるな」と言いそうになったが、抑えた。


「はい。この金額でお願いします」と伝えた。


「かしこまりました。それでは買取金額をご用意しますので少々お待ちください」と、歩いていった店員の後姿に飛び蹴りを食らわしたかった。


私は500円を受け取って帰った。そして先ほど壊した椅子を家の庭に放り投げた。

たった500円のために、こんなに取り乱すほど激しく怒り狂った。

凄く損をした気分になった。


なぜあそこで冷静になって、もう一回取りに行く事をしなかったのだろうと反省した。


とりあえず、妻と子供たちがこの姿を見ないで良かったと思った。


気分を変えて就労支援センターの担当のおじさんに就職が決まった事を報告しに行った。


おじさんは「本当に佐々木さんは凄いですよ。こんなに諦めずに何回も粘り強く就職先を見つけて。他の就労支援センターに通っている人達にも佐々木さんを見習ってほしいですよ」と言ってくれた。


「いや~。私の場合は、就職先が決まってもその後が続かないですから。そこが問題ですよ。

ただ、今回はタクシー会社から1社、不採用通知をもらったんです。まさかタクシー会社から不採用通知をもらうなんて信じられなかったですよ。二種免許も持っているのに。本当に転職もこのぐらいにしておかないと、本当に何も仕事に就けなくなると恐怖を覚えました」。


「とりあえず。良かった~佐々木さんが就職できて。今日で就労支援センターの業務は今年最後なんですよ。最後に良い報告を聞けて良かったです。私も安心して年を迎えられますよ」と言ってくれた。

こんなに人の事を心配してくれる人がいるんだと嬉しかった。驚きでもあった。


「今年一年間、お世話になりました」と伝えた。


おじさんは「また、タクシー会社で何かあったら連絡ください。佐々木さんは、病院もあるし、この就労支援センターもあるし、一人ではないですよ。相談できる所があります。

私たちも応援してますから頑張ってくださいね」と言ってくれた。

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