第2話

2022年11月24日の日記


妻の部屋とリビングの二か所の電気のスイッチのカバーが取れていることに気付いた。中がむき出しになっていて、このままに放置しておくと埃も入ってくるだろうし、漏電も起こりかねないから何とかしないといけないと思っているのだろうけど、面倒くさい。2週間程、見て見ぬふりをしていた。しかし、やっぱり気になって心の片隅から消えないで、ずっとモヤモヤしていた。そんな時、それに気づいていた義母もさりげなく私に言った。「このスイッチ、ずっとスイッチカバーが取れている状態ですけど、カバー何処かにありますか」。私は「見当たらないので、ゴミだと思って捨てちゃったのかもしれないですね」と答えた。

義母は続けた。「どうしたらいいんですかね。カバーがあれば直せるのかな」。妻が割って入った。「普通は、こんなのすぐにホームセンターかなんかに行って自分でカバーを見つけて取り付けるんだよ。こういう作業が好きな人は。信一さんの場合はこういうの苦手だから何をしていいか分からないんだよ」。頭にきた。「いや。俺だってできるよ。じゃあ、ホームセンターに行ってカバーを買ってくればいいんだろ」。義母は「止めなさい。あなたには取り付けられないよ。業者に連絡してやってもらった方がいい」と決めつけるように言ったので完全に切れた。「ふざけるな。なんで二人でそうやって決めつけるんだよ。言い方に気を付けろ」と怒ってしまった。私はすぐに両親に電話をした。「もしもし。信一。なんかさ、妻とお義母さんが、おれの事いじめてくるんだよ。電気のスイッチカバーがなくなって電気のスイッチの中がむき出しになっている状態なんだけど、それを俺なんかでは直せないと決めつけてくるんだ。おれでは頼りにならない。なんの役にも立たないくず人間という気持ちが出てるんだよ」と取り乱した。妻と義母はそういう気持ちで言ったのではないと弁解していたが、私は自分の部屋に閉じこもった。そして精神安定剤と頓服薬のジアゼパム錠を飲んだ。

数時間後、父親からラインが来た。「ホームセンターに行ってみたけど、カバーはあったけど、取り付け工事が必要になるかもしれない。電気屋さんに相談した方がいいよ」と来た。私はむき出しになった部屋のスイッチの写真を携帯で撮って、電気屋さんに見せに行った。

「今電気スイッチがこういう状態なんですけど、カバーだけ買って嵌める事はできますか」。店員は「これだと、電気カバーとフレーム、中の電源も全てセットで買っていただいて電気の配線工事が必要になります。部品代金、送料、工事費用全て含めて5000円になります」と言った。私は承諾した。

家に帰り、お風呂の掃除、トイレ掃除、お茶碗洗いをしたら、疲れが出たのか、先ほど飲んだ薬の副作用なのか眠気に襲われてそのまま寝た。起きたら夕方の5時を過ぎていた。もうすぐパートから妻が帰ってくる頃だ。子供たちも帰ってくる。私は慌ててベランダに干していた洗濯物を部屋に取り込んだ。妻の車がバックをして車庫入れをする音が聞こえた。

妻が帰ってきて私は「今日もお疲れ様。部屋のスイッチの件、電気屋さんに行ったよ。やっぱりカバーだけ買って嵌める処理ではダメだって。部品を全部交換して、電気工事が必要だって。そういうのは資格を持った人が電気工事しないといけないらしいよ」。私は今日やった家事を報告した。洗濯物はこれから洗濯ばさみから洗濯物を引っ剥がして、整理することを告げた。夕食は、せっかく買い出しに行って作っても、みんな食べないから作り甲斐がないから作らなかったと弁解した。「今日の俺の行動で変な所ある?こうしてほしかった事とか、認知の歪みを感じた事はある」と妻に尋ねた。妻は「特にないよ。電気のスイッチの件も電気屋さんに行ってくれたし」。私は、安心した。自分の行動に全て自信がない。良かれとしたことが妻にとっては好ましくない事かもしれない。私は毎日の行動を妻に報告しておかしな所がないかを確認しないといけなくなっていた。もうすぐ新しい会社で仕事が始まる。こんな事で仕事ができるのだろうか。いや、沢山の不特定多数が一緒に同じ職場で時間を過ごす場所だ。私の行動に違和感を抱く人は必ずいるだろう。そんな時、どんな言い方をされるだろう。怒る人もいるだろう。私はまたそんな事を考え出すと恐怖で不安になり、たまらない気持ちになった。

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