第4話
高さ100cm、横120cm、奥行き90cm。適温に管理されたその空間と、そこから見える景色が、彼の生活の全てだった。時折、やかましい子どもたちが彼の部屋を叩き、退屈だが快適な彼の生活リズムを乱した。初めの頃、彼は歯をむき出して子どもたちを威嚇し、追い払っていたが、互いの空間を分ける透明な板が、皮肉にも双方の距離を安全に保っていたため、彼の精一杯の抗議は、子どもたちにとっては格好の遊びとなった。彼が怒れば怒るほど、子どもたちは興奮して彼の部屋を繰り返し叩いた。自分の行動がこの状況を悪化させることに気がついてからは、彼はそのような時は部屋の隅で丸くなり、嵐が過ぎるのをじっと耐えるようにしていた。
その日も、一組の
「今回はたったの二匹か。」
不愉快そうな男の声で、彼は目覚めた。顔をあげると、彼ら
「八匹生まれたけど、この二匹以外は死産と奇形だったわ。」
この声は、名ばかりの世話をしている女だ。わずかなエサと水を与えるだけで、部屋の掃除は数日に一度だったため、彼らの生活空間は常に糞尿で汚れ、締め切った部屋の中には臭いが充満していた。だが、女にとっては何十年もそれが普通だったため、その不衛生に気がつくことはなかった。
「親は処分だ。」
男がまた、感情のない声で言った。
「まともな子どもが産めないなら、こいつに価値はない。」
処分?今、処分って言ったのか?彼が顔を上げた瞬間、身体が宙に浮いた。男が彼を持ち上げていた。彼は男の手を振りほどこうと、ありったけの力で身体をよじった。今ここで、母と別れるわけにはいかないのだ。自分たち兄弟を取り上げた後、母は
「母さん、ここから逃げるんだ!逃げて、今すぐに!こいつら、母さんを殺そうとしている!!」
彼は一生懸命、母に向かって叫んだ。だが母は、彼の言葉が理解出来なかった。寂しげな瞳で彼を見つめると、何十回も繰り返されてきた別れを受け入れるため、彼の顔を優しく舐めた。
あの日以降、彼は母と再び会うことはなかった。自分が無力だったから、母を助けられず見殺しにしたのだ。その思いが、彼の心の中から消えなかった。だからこそ、彼はずっとこの空間で孤独に待っていた。生涯仕える、ただひとりの人間が現れる
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