第2話落下する中心核

 セイタは、バイクを捨てた。

 そのまま、ルルの車に乗り込んだ。

 気取ったそぶりで、シガレットケースを開き、ポールモールを一本取りだした。

 ふっと赤いジッポライターで火を点けて、そっとふかして、窓を少し開けた。

 滑っていく景色。

 ルルがサングラスを外して、横目で、セイタを睨んだ。

「やめてくれない?」

「……」

 無視していたが、ルルが感極まったように、ヒステリックな声音でこう言った。

「ちょっと、本当に止めてよ、私、煙草嫌いなの。香水とまじりあう感覚が、嫌や」

「ごめん、ごめん」

 軽い調子で、携帯灰皿で、火をもみ消した。

 滑っていく景色。

 ふいに、車内が揺れた。

 まるで、時が止まり、落下するような浮遊感の中で、車は走り続ける。

 いつの間にか、元いた道に戻っていた。

 

 セイタとルルは、また出会った。

「ああ?」

 セイタはバイクのヘルメットを取って、汗を拭く。

 道の駅だ。空を見上げた。

 夕暮れだ。

 セイタが、歩いて、缶コーヒーを買って、バイクの置いてあるところに戻る。

 すると、そこに、ルルがいた。ルルの隣に、見たこともないような顔をした大男がいた。金髪頭で、筋肉質。ルルが合図を送る。

「ゼム、新しい仲間よ」

 と言って、セイタに再び車に乗るように促した。

 日没だ。

 道の駅は、人影もまばらで、静かだった。

 セイタはためらう。

 恐怖だ。

 ゼムという名の男が、セイタの腕を強引につかんだ。

「やめ……」

 と言いかけたところで、セイタの口をふさいでくる。

 そのまま、車内にぶち込まれた。

 ゼムはニヤッと笑い、ドアを勢いよく閉めた。

 体が震える。

 ゼムの息が、鼻先で臭う。

「さあ、ドライブはこれからよ」

 と言って、ルルはサングラスをかけ直した。

 完璧にドライブにはまった、リズミカルな曲が流れる。

「ヘロイン」

 セイタの頬がひきつる。

 こんな気分で、「ヘロイン」を聴くのはうんざりだと思った。

 ゼムがセイタに伸ばした手を離した。セイタが、暴れ出そうとした瞬間、濡れたハンカチを口に強引に押し付けられた。にやにやしながら、ゼムはこう言った。

 大音量で聞き取れない。

 確かに聞こえた声、いや、フレーズ。

「カク」

 セイタはそのまま、意識を失った。

 

 

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コーラス&ロンド・ストーリー 鏑木レイジ @rage80

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