コーラス&ロンド・ストーリー

鏑木レイジ

第1話バナナと赤いフェラーリ

「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ」のバナナジャケットのTシャツに、黒いレザージャケット。

 ブルージーンズに、インをして、着こなす。ブルーな六十年代後半を意識して。

 セイタは、今二十六歳。追体験だけど、その時代の音楽が好きだ。

 排気ガスを吐く、大型の二輪車に乗っている。

 速度を上げていく。

 車数がほとんどない高速道路を行く。攻めていく。

 この何とも言えないような高まり、スリルのような不可思議な高揚感。

 不意に妙な気配を感じる。視認する。

 すると、横を追い抜いていく、赤いフェラーリ。

「くそ、うぜえな」

 とセイタは呟く。

 追い返そうとして、バイクの速度を上げた。

 加速していく時間の感覚。クールなグリップの感触。

 並走する。

 勢いが、暴走ぎみに、まるで転がる石のように、逆説のスピード感覚の中を突き抜ける。

 ちらりと、様子をうかがう。

 赤いスカーフをして、アクトレスのようなエレガントなサングラスをしている女。

 セイタは、一瞬、気分がハイになる。さらなる、上昇。気分が乗る。

 もう一度一瞥する。

 女が破顔した。

 並走しながら、スピードを徐々に緩め、道の駅に入っていく。

 セイタはヘルメットを外した。

 汗をハンカチでぬぐった。

 女が降りてくる。

「気分はどう?」

 と女がサングラスをはずして、そう言ってきた。 

 近づいてくると強い香水、鼻をつくマグダラのマリアを思わせるセクシャルでメランコリーな香り。獣の匂いに近い、とすら感じた。

 気分はさらにハイになる。

「最高だよ。俺はセイタ、君の名前は?」

「ルル」

 その発音の仕方にセイタは、鼻をこすった。

 ルルが、ふふっと笑った。予感がした。それが何かわからないけど、悪い気はしない。

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