第8話 つばさくんのプロポーズ

 その週末の二度目のすき焼きパーティは、前回同様、落ち込んでささくれだっていた私の気持ちを少なからず癒してくれるものだった。

 さらに、食事が終わった後に、ちょっとしたサプライズがあった。

 つばさくんが突然「真由先生!」と元気な声を出した。

「ぼくのママになってください」


「こらこら、そんなことを言って真由先生を困らせてはいけないよ」と言おうとしたつばさくんパパを制して、私はつばさくんに返事をした。

「ホント、うれしい。私、つばさくんのママになる!」

「わーい、やったー」とはしゃぐつばさくんに、私は言葉をつづけた。

「でも、そうすると私と一緒に暮らすことになるから、パパと離れ離れになっちゃうよ」


 幼いつばさくんは、三人で一緒に暮らせる解決策を思いつかなかった。

「うーん、どうしようかなー」と頭をひねりながらうとうとし始めたつばさくんを寝かしつけ、私はつばさくんパパと対峙した。

「このままだと、私、つばさくんを連れてってしまいますよ」

さあ、風間博さん、あなたはどうするんですか。


「でも、私と真由先生とじゃ、年が違い過ぎて釣り合わないですよね」

「どうしてですか。たった十五歳しか違いませんよ」


「それに、ほら、バツイチで子持ちですし」

「子どもは欲しいけど、産むのは痛いっていうから嫌だなと思ってました。お腹を傷めずに子供を持てるなら、私は願ったりかなったりです」


 それでも煮え切らない態度で、自分を卑下し、私と結婚できない理由を並べ立てようとするつばさくんパパこと風間博さんに、私の頭の中で何かがプツンと音を立てて切れた。

「結論が出ないみたいだから、いったんこの話題は止めにして、ゲームでもしませんか」

 明らかにほっとした様子の彼を床に座らせ、私は彼にタオルで目隠しをした。

「さて、これから手に触るものが何かを当ててくださいね」


 私は下半身だけ裸になると、彼の手を私の股間に導いた。

 彼は最初は恐る恐る、やがて少し大胆に指を動かして感触を探っていた。三十秒ほどで、徐々に湿り気を帯び始めたそれが何であるかをようやく気が付いた彼は、狼狽も露わに慌てて手を引いた。

 私は彼を押し倒し、彼の顔に背を向ける形で彼の胸のあたりに馬乗りになった。すかさずズボンのジッパーを押し下げ、その中に手を入れた。指で愛撫を加えると、彼のものが徐々に反応を始める。

 私の手から逃れようと体をよじって抵抗をしていた彼も、

「身体は正直ですね、浩さんのここ、もうこんなになってますよ」

と言うと、ようやく観念して抵抗を止めた。

 

 私は、彼のズボンを下着ごと膝までずりおろすと、熟練の指技にようやく挿入できるくらいに硬度を増した彼のものを私の体内に収めた。

 彼の上で私は激しく腰を振った。私の動きに合わせて、彼が「ひっ、ひっ」と小さく悲しげな声を上げる。やがて、彼の絶望的なうめき声とともに、最後まで少し柔らかいままだった彼のものが、私の中で精を放った。


 やってしまった。

 全てが終わってしまったと思った。

 言葉もなくゆるゆると衣服を整える彼の様子は、性犯罪の被害者そのものだった。    そんな彼を視線のはじっこに感じながら、私は身支度を整えて、無言で彼の家を後にした。

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